ひゅう、と哭く寒声に、冬の匂いを連れた真白の髪が揺れた。
美しい少女だった。言葉を惜しまずに語り尽くしても形容しきれないほどの、ひどく美しい少女だった。
口早にお礼を言った彼女は、手渡した襤褸をその頭に被せ、再び雑踏の中へと身を翻していく。その影を見送り、襤褸と引き換えにして、彼女が乱暴に花籠へ投げ入れた宝飾品を見遣った。籠の中。薄らと張りつめた氷凍の空気に、まるで喘ぐかのよう、盛りを過ぎた花たちがふるりふるりと震えている。いかにもか弱いそれらを押し退け、或いは惨くその瓣をすり潰し、茎を折り、枯死の間際の取り取りの色彩の上に、堂々と鎮座している宝飾品のいっそ見事なことである。日毎彩りを失っていく世界でそれらは何と目映いだろう。きら、きらり。彼女の髪と、それからあの眸に似せたのだと一見して気づく、白金の首輪、首飾り、腕輪、それから数ある指輪。銀貨を何枚握ればこれひとつ、と口許が歪んだ。無機質な高が塊である、低俗な、と。
吹き荒ぶ朔風にも息を潜め、散り時を待つ、冬堪えの一輪の。うつくしさを知らない者の多いこと。
往来を人がゆく。或る者は外套の前を掻き合わせ、或る者は共に行く人の腕にそれを絡め、或る者は重い足取りで、或る者は無粋に踵を鳴らしつつ。影が蠢いている。人びとは有象無象であった。眺めの最中にいるはずにも関わらず、目を惹く気配がなく、ひどく静かなのだった。
花籠から首を伸ばしていた花の一片をぷつりと千切る。それから重たく垂れ込める冬空へそれを翳した。瓣は、その縁から、天の鈍色に不思議な光を滲ませる。掲げた一片に隠れて、眸を眇め。
頬をたたく大気の凝り。
凍てつく息吹。
耳の奥がきんと鳴り。
音は奪われ、色は染められ、熱は頼りなく。
ふ、──と。細く尖った指先で摘んだ花びらへ息を吹きかける。一刹那。虫の羽音ほどのごく微かな音を立て、吐息の触れたところから、透かした花びらが凍てていく。霜の降りた硝子のよう。儚く青を帯び、白く、白く。
風が凪ぎ。
葩は、はらり、舞い落ちる。
雪だ、と天を仰いだ誰かが呟きを洩らすのを気もなく耳にして、行き交う人びとの波間へと歩き出す。
薄汚れた粗衣、そのひどく短い裾から赤くなった氷雪の手脚をすらりと覗かせ、細く柔い銀髪を冴える北風に晒して、界隈を一人で歩いていた女の傍へそろりと近寄った。その人は、初め、不審に眉を顰めて、それからはたと目を瞬いた。その表情を純朴そうに見返して、銀の瞳を欠けた月の如くしならせる。
奇妙なほど熟れたその赤い唇で。
あどけなく、けれどもかそけく、笑い。
「花はいりませんか」
美しい少年は、宝飾品を潜ませた花籠から、そして一輪、赤い薔薇を差し出す。
- 花売りの少年