☆悪い男(翔潤)①☆



「では、あとは若い2人で、中庭でもお散歩してきたら?」

叔母の言葉に、俺と彼女は立ち上がりホテルのレストランを出た。

薄い桜色の上品なワンピースを着た黒髪の清楚なその彼女と、ホテルの中庭を歩く。

俺と彼女は今日が初対面だ。

所謂、『お見合い』だ。

俺はまだまだ結婚なんて考えられないのだけれど、おせっかいな叔母が3ヵ月に一度は見合い話を持ってくるのだ。

相手は毎回家柄も容姿も申し分のない才女がほとんどだった。

そして結婚するつもりのない俺は毎回断っているのだが・・・・

「翔さん、弁護士のお仕事はお忙しいんですか?」

「ええ、まあ・・・・。やりがいのある仕事ですよ」

「素敵ですね」

にこにこと嬉しそうにほほ笑む彼女。

相手も断るつもりなら何の問題もないのだけれど。

相手が乗り気の場合は実に厄介で・・・・

「翔さん、音楽とかお好きですか?よかったら今度一緒に―――」

「しょーおくん!」

突然、庭の木の陰から姿を現したのは色白で目の大きな美しい男―――

「潤」

俺はわざとらしく驚いた顔をして潤を見た。

「あ、あの・・・・・」

彼女が戸惑ったように俺と潤の顔を見比べた。

「まーた懲りずにお見合いなんてしてんのお?どうせ結婚する気ないくせにい」

潤がくすくす笑いながら俺の傍に来ると、その白くしなやかな腕を俺の肩に回しそのまましなだれかかった。

これは俺は考えた作戦。

なのに、間近に見る潤の綺麗な顔にドキッとする。

「今回はこの人?こないだの人の方が美人だったね」

「あ・・・あなた、失礼ね!」

「でも・・・・色っぽさなら君の勝ちかな」

すっと彼女に近づき顔を寄せる潤に、彼女の頬が真っ赤に染まる。

「な・・・・・」

「でもごめんね。しょおくんは俺のだから」

「え?」

「しょおくん、女には興味ないんだよ。ね?」

そう言って再び俺の首に腕を絡めると、俺の頬に唇を寄せた。

―――うわあ、いい匂い・・・・

なんて言ってる場合じゃない。

「・・・・ごめんね。そういうこと」

そう言って俺は潤の腰に手を回す。

「ひ、ひどい・・・・!」

彼女が、真っ赤になってその場から駆け出した。

「・・・・・はい、終了」

彼女の姿が見えなくなり、俺はほっと息をついた。

「かわいそ。しょおくん、悪い男だね」

「しつけえんだもん、おばさん。俺が男と付き合ってるって気づいてるはずなのに、諦め悪すぎでしょ」

「今日はあっさり終わったね。じゃ、俺はこれで・・・・」

俺から離れようとする潤の腕を掴む。

「・・・・部屋。取ってあるんだけど?」

耳元に囁くと、潤の体がピクリと震える。

そして、ちらりと不満げな視線を送る。

「俺が断るとか、考えないの?」

「・・・・断るの?」

「・・・・断らない、けど」

「かわいいな、お前は」

潤の体を抱き寄せ、唇を塞ぐ。

諦めたように、潤が俺の背中に腕を回す。

俺が見合いの度に、潤を呼び出すことにちょっとすねてるのはわかってる。

だから、そのご機嫌を取るために部屋を取って極上の時間を提供することも計算済みだ。

だって、潤だけは手放すつもりはないからね・・・・。



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