☆冷静じゃいられない(翔潤二)☆


「品川はどうなってる?」

「売り上げ、伸びてないですね。あそこは人手不足で・・・・また人が辞めたと」

「時給上げたばっかりだろ?」

「そうなんですが・・・・あそこの店長に問題がありますね。体調が悪いと言ってはすぐに帰ってしまうらしくってバイトにしわ寄せがいってます」

俺はため息をついた。

関東を中心に、若者向けのカフェを経営している。

ようやく軌道に乗ってきたと思うと問題が起こり、なかなか安定しない。

「翔ちゃん」

秘書のニノが俺をちらりと見上げる。

「――会社では社長って呼べよ」

「今誰もいないじゃん。それより、その品川の店長が辞めたがってるらしくって。新しい人雇った方がいいんじゃない?」

ニノは俺の幼馴染だ。

歳は2つ下だが頭の回転が早く、俺の右腕として働いてくれている。

ニノのアドバイスは的確で頼りになる。

「新しい店長ってことか?でもすぐに店長できる奴なんて―――」

「俺の知り合いで、最近までチェーン店のファミレスで働いてた子がいるんだけど、まじめだし調理師免許も持ってるからいけると思うんだけど」

「へえ?ニノが勧めるなら・・・・」

「翔ちゃんが良ければ面接のセッティングするよ」

「ああ、じゃあ会ってみるよ」

「りょうか~い」

そう言いながら、ニノがスマホを操作する。

「あ、ちょうど今日の午後空いてるって。どうします?今日は品川の店視察に行く予定だったけど」

「それは後でもいいだろ。面接、来てもらって。で、名前は?」

「―――松本潤」

言いながら、ニノが意味ありげに俺を見る。

「会わせますけど、冷静にお願いしますよ」

「は?どういう意味だよ?」

「会えばわかります」

ニノの言葉に俺は首を傾げたが―――




「松本潤です。よろしくお願いします」

紺のジャケット姿の松本は軽く頭を下げた。

―――『冷静に』だって?

そんなの・・・・・無理だ。

陶器のような滑らかで白い肌に大きな目、長い睫毛、赤い唇。

整った小さな顔が長い首の上に乗っていた。

星でも入ってるのかと思うようなキラキラした目が、俺を見つめている。

それだけで、俺はとても冷静じゃいられなかった。

彼が男だとかそんなことはどうでもよくて。

ひと目見た瞬間、俺は恋に落ちていた。

ここ数年、仕事のことだけ考えていた。

恋人なんていなくても、それで充実してたんだ。

なのに―――

まさか、男に惚れるなんて―――

「―――社長」

ニノの声に、我に返る。

「あ・・・ごめん、ええと、ニノの知り合いだって?」

「あ、はい。俺が働いてた店に、何度か来てくれて」

「へえ?」

「ニノには恩があるんです」

ちょっと照れ臭そうにそう言ってニノを見る松本。

何となく胸がざわついた。

「恩って・・・・」

「潤くんが、酔っ払いに絡まれてるところにちょうど出くわしたんですよ。それで―――」

「助けたのか?」

「そんな大げさなもんじゃないです。ちょうど外をパトロール中の警官がいたから、その人たちに知らせて店から出してもらっただけで」

「でも、ニノのおかげだから」

にっこり笑ってニノを見つめる。

そんな松本を、ニノも笑顔で見つめる。

―――これは・・・・もしかして・・・・?




松本潤ははきはきと礼儀正しく、それでいて柔らかな笑顔は接客向きに思えた。

来週から働くことができる、ということですぐに採用決定となったのだが・・・・。


「―――ずいぶん仲がいいんだな」

松本が帰ると、俺はニノに言った。

面接というよりも仲のいい2人の会話を横で聞いていたような感覚。

そして、聞かなくてもわかった。

「お前、あの彼と―――」

「付き合っては、ないですよ。ただ、俺が潤くんを好きなだけ」

―――やっぱり。

「だから、潤くんには手え出さないでね」

「お前な・・・・」

「翔ちゃんの好みでしょ?潤くんて。でも、俺も諦めるつもりないんで」

にやりと、不敵な笑みを浮かべるニノ。

ニノは親友だ。

そのニノが言うなら・・・・

と言いたいとこだけど。

「―――悪い。もう手遅れだわ」

そう言って俺も笑った。

「俺も、松本が好きになっちゃったから」

この恋がどういう結末を迎えるのか。

それは、神のみぞ知る・・・・・のか?



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