(三蔵)
―――ゼロ距離―――






その日もそいつは、馬鹿なことをしていた。


「三蔵!そのまま動かないでね!」
「あァ?」


胡乱な視線を向けると、「実験だから!」と至極真面目に指を突きつけられる。
満面の笑みを浮かべてテクテクこっちにくることの何が実験だというのか。
それも、手を伸ばすでも、何かするでもなく。
ただただ、俺を見ながら歩いてくる。


そして、そいつはニコニコと笑いながら、俺の胸板に衝突した。


「…………」
「…………」
「……あれ?」
「何やってんだ、お前は」


自分でやっておきながら、心の底から不思議そうにしている奴に、
とりあえず呆れながらも、訊いてやる。
一体何がしたかったのか。
一体何が知りたかったのか。
こいつの思考は、いつだって俺には理解不能だ。


「いや、変だなーと思って」


けれど。


「だから、何がだ」
「三蔵のパーソナルスペース調べてたんだけど。
おっかしいなー。何で、私ゼロ距離なんだろう?」


別におかしかねぇだろ


「?何か言った?三蔵」
「知るか」
「はぁ?」


面倒だ。馬鹿だと思いつつ、それに付き合う俺も大概、馬鹿だ。






―――それは君との心の距離―――












―――作者のつぶやき♪―――
短いほど甘いという静流ミステリー。


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