忘れ物





「じゃ、行ってくるわー。」


彼がいる朝。


彼の声。


彼は私より先に家を出る。


朝食の後片付けをしていた手をとめて、玄関へと私は向かった。


彼を見送るために。


これも彼がいる時はお決まりになった。






「気をつけてね。」


「おう。あっ!!」


「なに、どうしたの??」


「携帯、忘れた…」


「も〜、なにやってるのよ。どこにあるの?」


「リビングのテーブルの上。」


靴をはきおえてしまっている彼の代わりに、リビングまで携帯を取りに行く。


おそろいで買ったストラップ以外は、何もついていないシンプルな携帯。


「はい。もう忘れないでね。」


「ありがと。」


「こんなに忘れん坊で、どうすんのよ。」


「いいじゃん。お前がいてくれるんでしょ?だったら大丈夫。じゃ、行ってきます。」


「…いってらっしゃい。」






照れくさいことを、さらっと言い残して出かける彼の後ろ姿。


閉まった玄関を見つめながら、しばらく動けなかった。






いつもの2人の朝。


だけど、ちょっと特別な朝。




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