◇パチパチありがとうございます!◇

夏休みがあけた新学期。



よく叫ばなかったと思う。予想などするはずもないことだったし、柄にもなく何かのドッキリなのではないかと疑ったくらいその光景は現実とは思えなかった。

幸いなことに、挙動不審になった私に周りは気付かなかったようで、それだけは救いだったかもしれない。ただ一人にはばれていたのは仕方ない。仕組んだ本人なのだから。

いまだに悪い夢であって欲しいと思っている私も、大概諦めが悪いかもしれないが、それだけ動揺しているのだろう。少し冷静にならねば。



今日私のクラスに転入生が来た。

名前は――羽柴当麻。

約一年前に、数ヶ月間寝食を共にしていたあの天空のトウマだ。

当麻が私のクラスに転入してきたのだ! ありえないだろう!

一体何を考えているんだあの男は!!

担任の後から教室に入ってきた人物を見た瞬間、まさに開いた口が塞がらなかった。

こちらのそんな反応も予想済みだったのだろう。その当人は担任が説明をしている間、固まっている私に何度も「びっくりしただろう?」という視線を寄越してきた。

眉間に寄った皺を押し戻しながら、確か当麻は今アメリカにいるはずではなかったかと記憶を探る。中学を卒業してから、合衆国にある世界最高峰の工科大学にスキップで入学したと聞いていたのだが、私の思い違いだっただろうか。



「羽柴くんは出身は大阪だが、現在はアメリカで生活していて、こちらには留学生として来たんだ。二学期いっぱいはこちらで生活することになっているので、みんな仲良くするように」



担任の説明に唖然とする。すごい説明だ。

まるで当麻がずっと海外生活をしてきたように聞こえるではないか。

いやそれよりも二学期いっぱいはこちらに居ると言ったか?

三ヶ月間!? 大学は!? アホか!!



「羽柴当麻です。短い間ですがよろしくお願いします」



簡単に自己紹介を済ませ、指示された席へ向かう僅かな時間も、しっかりと私と目を合わせてくる。

状況を理解するのにいっぱいいっぱいで、その後の担任の話など少しも聞いていなかった。朝のショート・ホームルームが終わり、教室にざわめきが戻ると同時に、当麻は私の席までやってきて、机を挟んで正面に立った。

途端に教室が静かになる。

転入生に話し掛けるつもりで近付こうとしていた者達も、仲間内でおしゃべりを始めた者達も、みな私達――というよりこの転入生の突然の行動に面食らったように動きを止めた。

私はひとつ息を吐き、眉を寄せてからゆっくりと顔を上げ、目の前の人物を心持ち不機嫌な顔で迎える。当麻は口元を緩めると、膝を曲げてしゃがみこみ、机に顎を乗せた姿勢で「元気?」と言った。

今度はクラス中から囁き声が聴こえ出す。

「知り合い?」「だってアメリカから来たんだろ?」「じゃあナンパ?」「若、男子の制服着てるのに」「いや、もしかしたらそういう趣味なのかも・・・」



ちょっと待て。聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。

当麻にも聴こえているはずなのに、ニヤニヤした笑いを消すことなく私の返事を待っている。――コイツ楽しんでいるな。

大きめの咳払いを一回し、周りを牽制する。クラス中の視線がこちらに向けられて、大変居心地が悪い。

「先月会ったばかりだろう」

「まぁね」

「私は何も聞いていない」

「うん、言ってないもん。驚いた?」

「当たり前だ! 何を考えているんだ貴様は!!」

思わず机を両拳でドンと叩くと、私達の様子を固唾を呑んで見つめていたクラスメイト達が一斉に群がってきて、

「やっぱり知り合いだったの!?」

「羽柴くんアメリカ暮らしだったんでしょう? なんで!?」

「どこで知り合ったんだ?」

矢継ぎ早に質問が飛んできて、私はどう誤魔化そうかと逡巡する。

迷っているこちらを尻目に、場の注目を一身に集める男は憎らしいほど余裕たっぷりな態度で周りに視線を投げると、

「うん? 俺のステディいっ!」

何を言うか察して即座に頭部に手刀を叩き込んだ。言い切らせてしまった己の甘さを恨みながら。

「ひははんらー」

「知るかバカ」

ちなみに今当麻は『舌噛んだ』と言った。



少しの間、口を押さえて身体を震わせていたが、痛みが薄れてきたのか、顔を上げて、

「迷惑?」

捨て犬のように哀れを誘う。

舌を噛んだせいで涙目になっているだけなのに、しょんぼりした様子と相俟ってすごい相乗効果だった。

勿論迷惑なわけではない。この男がこんな馬鹿な真似をしている理由も分かっている。だからこそ。

「そうではない。だがお前だって大が――」

大学があるのに、と言いかけた言葉を遮るように、当麻の指が私の唇に触れる。

親指でそこを軽くなぞりながら吐息が触れ合うくらいに顔を近づけると、聴いたこともないような甘い声で

「少しだけだから、傍にいさせて」

囁くほどの音声だったが、教室にいた全員が聞いた。

教室中が先程とは別の意味で静まりかえった、一秒、二秒、三秒後。



「キャーーーーーーッ!!!!!」

「ナニなに何ナニィィィッッ~~~!?」

「やっぱりそういうコトなのぉ~~~!!??」

「マジかよ若ああぁぁああーーーぁぁぁっ!!!」

「しっかりしろおぉっ! 衛生兵! 衛生兵はまだかぁぁ~~~っっ!!」




やられた。

今のは絶対故意犯だった。

おかけで一時間目開始のチャイムが鳴り担当教員が入ってくるまで、教室は質屋のバーゲン並みにしっちゃかめっちゃかだった。

こうして当麻との学園生活は始まった。



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