『甘いものが お好き?』




はぐはぐとシュークリームを頬張り、指に付いたクリームをぺろりと舐め取る。
かと思えば机の上に拡げたチョコレート菓子を摘まみ上げ、至極幸せそうな顔をして口の中へと放り込んだ。
仕上げとばかりにカップアイスを掴むと、嬉しそうに頬を緩めながらスプーンで掬い上げる。


黒羽快斗は、甘いものが大好きだ。



「オメー、ほんと美味そうに食うよなぁ……」

甘党もかくやという食いっぷりに、もはや呆れ混じりに言葉をこぼす。

胡乱な瞳で見つめる俺を前にして、快斗はきょとんと瞬くと、アイスで汚れた唇をぺろりと舐めて首を傾げた。

「だって美味いし。ありがとな、新一!」

幸せいっぱいだと言わんばかりに笑顔を向けられれば、まあ正直悪い気はしないのだが……。



いつものごとく向かった警視庁で、お裾分けだと馴染みの婦警にシュークリームを押し付けられたのは、そう珍しい出来事でも無い。

帰り道にコンビニに寄れば、快斗の好物のアイスの新作フレーバーが発売されていて、何となく手に取ってしまったのも、もはや習慣のような行動だろう。

自宅に帰り、当然のように夕食の準備をして出迎えてくれた快斗の手にシュークリームとアイスを渡し、キラキラと目を輝かせる姿を前にして、そういえばと思い出したのは学校で園子から無理矢理に渡されたチョコ菓子だった。
今日からダイエットを始めるなどと急に言い出して、手持ちの菓子を何故か俺に押し付けて来たのだが、これも当然のように快斗に差し出す。


そうして、嬉しさのあまりか飛び跳ねるようにお土産の数々を抱えてキッチンへと戻った快斗の背中を見つめ、零れ落ちそうな溜め息を噛み殺したのは数刻前。

夕食も終わり、俺が渡したシュークリームや菓子を幸せそうに口へと運び続ける快斗の姿を前にして、覚えるのは複雑な感情だ。


「――そんなに好きか、甘いもの?」

「それはもう! 大っ好きだ!!」


にこりと笑って答えられた返事に、俺はただ苦笑いを浮かべる事しか出来ない。




『甘いものが好きな人はね、寂しがり屋なのよ!』

いつだったか、そんな事を嘯いていたのは園子だったか。

『寂しいって感情を抑える為に、代わりに甘いものを食べるんですって!』

だから、女の子は皆寂しがり屋なのよ。
そう言って、何故か自慢げに胸を張っている親友の姿を、蘭も困ったように笑いながら眺めていたものだ。




「さみしがりや……、か」

「――ん? 何か言った、新一?」


ぽつりと小さく呟いた言葉に快斗が反応し、スプーンを咥えたままぴょこんと顔を上げる。


「いや、何でもねーよ」


そう言って笑顔を浮かべれば、不思議そうにこちらを見ながらも、やがては興味をアイスへと戻し、嬉しそうに口を開ける。



いつだって楽しそうに頬をほころばせている快斗。

甘いものを食べるだなんて、そんな単純な事で幸せいっぱいだと笑う快斗。

――俺の事が大好きだと、微笑む快斗。







なあ、快斗。
お前はまだ寂しいの?


俺が居るのに、さみしいの…………?







ぎゅっと密かに唇を噛み締め、向かいのソファに座る快斗を見る。




甘いものが大好きな快斗。

甘いものを食べるだけで幸せだと言う快斗。



――――寂しさを、その大量の甘いもので誤魔化し続けるしかない快斗。




「快斗」

「うん?」


「――また、持って帰って来るな、甘いもの」


ぱあっと表情を輝かせ、満面の笑みで頷く快斗の表情に、俺は目を細めて微笑んだ。










いつか、快斗の食べる甘いものの量が減れば良いのに。


そう、心の底から祈りながら……。



























おれがいるから、さみしくないだろ?















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