お姫様は王子様と永遠を
~日常会話47・荒井編~
「おい、ちょっと顔貸せ」
「ロン毛に貸すお顔なんて、アンパンマンさんの食べかけのパンさえもありませんですよ。ただ今、パソコン内にリョーマ様の盗撮画像を保存しているので、十年後に来てください」
「そんな犯罪行為はせめてもっとコソコソしろよっ、青空の下で堂々とこなすんじゃねぇ! じゅ、十年後!? それ最早同窓会じゃねえか!!」
「ロン毛と同窓会をする気は生憎ないのですが!」
「明るく溌剌と毒舌!? な、何気にへこむ……って、別に十年後もお前の顔見てえわけじゃないからなっ、誤解するなよっ、お、俺は十年後の手塚部長にお会いしたいだけだーっ!!」
「無闇やたらなツンデレはツンデレの品位を落とすのでやめていただきたいです。そして、後半のセリフは少々危うい感があるのであまり大きな声で叫ばないことをお勧めします」
「おい……なんでパソコン閉じやがった」
「よくよく考えましたら、ロン毛の十年後の成長した顔を見るのは実に不愉快極まりないことに気付いたので用件を早々に済ますのですよ!」
「だから、明るい声で毒吐くのは止めろ。お前、不二先輩以上に“あれ”だぞ!!」
「不二先輩のそのことに関してだけは私は素直に負けを認めております。不二先輩は……お強いのです」
「(せ、青学の獣が素直に負けを認めたーっ)ま。まぁ、俺もお前なんかと長々と喋る気はねぇから、単刀直入に言うぜ。……不動峰の伊武ってやつのあだ名の『長髪』と俺の『ロン毛』ってあだ名被ってねぇか……」
「何を今更なのです。時折、ロン毛の友達の桃先輩からもごく自然に『お、ロン毛……荒井~』と呼ばれているといいますのに、本当に今更ですね」
「う、うるせぇ! あの桜降りしきる春にお前に出会って、お前に不本意なあだ名をつけられて、不動峰の伊武に長髪ってあだ名がつけられたころから実は気にはなってたんだよ!!」
「ロン毛の出会いを説明するシーンが何故だかロマンチックで、私とロン毛が仲が良いみたいで非常に不愉快なのです~。バックドロップをお見舞いしたいのです」
「ちょっと詩的な表現を使っただけでバックドロップ食らわされるって俺可哀想すぎるだろ!!」
「しょうがないのですよ~、長髪さんもロン毛もどちらも御髪が長いではないですか!」
「それだ、それ! なんで他校には『さん』付けなのに俺だけ呼び捨てなんだよ」
「リョーマ様に執拗にちょっかいをかけるからです!」
「……あ。やっぱりそれか」
「です」
「だって、一年の癖にこの荒井様をさしおいてレギュラー入りとか生意気すぎるぜ」
「チッです。どうしようもない野郎なのですよ」
「(ストレートに口が悪い!)と、とにかくだ、あだ名が外見的特徴なんて短絡的すぎるだろ。聞けばなんても、山吹中には『子犬』ってあだ名と氷帝には『銀犬』っていうあだ名がいるそうじゃねえか、もっと頭捻れよ! 見たまんますぎるだろ、下手すれば被る!!」
「ふむです、ロン毛を褒めるのは死に値するほどの限りない恥辱と屈辱なのですが、そのツッコミは先輩方の後を受け継ぐには申し分ないと思いますよ。……私のあだ名はインスピレーションと第一印象と気まぐれですので、しょうがないのです」
「開き直ったーっ」
「正直です、あだ名はご本人と私さえ伝わればよいと思うです」
「もっと開き直ったーっ。だ、だが俺はあだ名の改善を要求するぜ!」
「もうよいではないですか、本名もロン毛でこれから先もずっとロン毛で、一生その芋ジャージでヘアバンドで髪を上げた、ロン毛で」
「俺一生中学生のままかよ! 似たような一緒のあだ名って俺をもっと大切にしやがれ! 俺はお前の……(憎しみ的な意味合いで)世界に一人だけの男じゃねぇのか!?」
「…………うわぁなのです」
「どうした、何ドン引きした顔してやがんだ。え? あ? 周囲も俺の方を見て絶句している……」
「荒井……」
「て、手塚部長っ! ど、どうしたんスか、この荒井将史に何かご用でも!!!」
「お前は……結婚相手が既に存在する人間に向かって何を言っている」
「……あれ、俺もしかして……」
「リョーマ様~どうしましょうです~ロン毛に口説かれてしまいましたです~。あ、こういうことに厳しい海堂先輩に、青学の母の大石先輩に、バーニングモードの河村先輩も聞いてくださいー。ロン毛が私に向かって、俺は世界に一人だけの男だとかいうのですよー」
「も、もう全て手遅れ……。……て、手塚部長」
「部室で三時間ほど詳しい話を聞かせてもらうぞ」
三時間後、すっかり噂は学校中に広がってました…編。
拍手誠に有難う御座います、深海の栄養源ですv |
|