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まだまだこれから









朝日に照らされた海を眺めながらの一番風呂は格別だ。
最初は早起きすぎて余った時間潰しに始めた朝風呂通いだったが、今では一日の中で一番楽しみにしている時間だ。
他人に煩わされる事無く、ゆったりと広い風呂に浸かるこの贅沢。
最近一番風呂を争う相手が出来た。相手も人目を避けてのこの時間らしい。
今日も二人でのんびりと湯船の心地よさに悦っていると、珍しく他の人間が入ってきた。
その人物の顔を見た瞬間、テッドの眉間に皺が寄る。
「おはようございます。アスさん、テッド君。早いんですね、二人とも」
「おはよう」
「………」
かけ湯をして、アルドが浴槽の空いている所に身を沈める。三人の位置が丁度正三角形の頂点のように等間隔になった。
「いつもこんなに早いんですか?道理で風呂で二人を見かけない訳だ」
「俺は早起きなんだ」
アスはかつてテッドにも返した答えを告げた。
テッドはアルドの方を見ようともしない。そんなテッドにアルドが少しだけ寂しそうな顔をするが、彼も何も言わなかった。
テッドのこの態度は、アルドだけに限らない。この船の誰に対しても、テッドは拒絶のオーラを放ち続ける。
唯一の例外がアスだが、それは同じ真の紋章の持ち主だからだろう。
それだけ彼のソウルイーターに対する警戒は強固なわけで。
気持ちは判らなくは無いのだけれど、もう少し肩の力を抜いてもいいと思う。
「健康的ですね。昨日は疲れたので早く寝たら、こんな時間に目が覚めてしまって……でも来て良かったな」
「……何がだよ」
アスと二人の時には絶対出さない低い声で呟くテッドに向かって、アルドがふわりと微笑み。
「朝からテッド君に会えた」
「…………」
苦虫を噛み潰したような顔でぷいっとそっぽを向いてしまったテッドを、アルドはにこにこと見つめている。
はっきり言って、セリフだけ聞くと口説いているようにしか聞こえない。
「テッド君もいつもこの時間に来るの?…僕も朝風呂にしようかな。夜入るより空いてるし、気持ちがいいし……」
途端、テッドの顔色が変わった。
テッドが早朝来る理由の一つに、アルドの存在がある事をアスは知っている。
『なんなんだ、あのアルドって奴。なれなれしいよ。一人にしておいてほしいんだ。あまり俺に構わないようにアスから言ってくれ』
目安箱にこんな手紙を入れて寄越すほど、テッドは困っている。
だがこの手紙を受け取った後も、アスがアルドに注意することは無かったし、相変わらずテッドとアルドは同パーティに入れている。
理由は簡単。テッドがアルドを気にかけているから。
最初はアルドの一方的な追っかけに本気で迷惑しているのだと思っていたが、テッドの態度を見る限りどうもそれだけではなさそうなのである。
文句も言うし、避けもするが、全く無視することはない。
むしろテッドは、アルドには自分から話しかける。さっきだってそうだ。誰に言うでもなく洩らしたアルドの呟きに、テッドは反応を返した。
年頃の友人たちの恋愛事情をいつもクールに観察してきたアス、テッドの微妙な態度が過去に見てきたカップルたちと重なるのである。
二人とも男なので、恋愛感情というには乱暴かもしれないが、少なくともテッドがアルドを嫌ってはいない事は判る。
アルドがテッドを好きなのは一目瞭然だったし、ここはアルドに頑張ってもらうことにした。
頑なな心を解す一番の薬は、純粋な好意であることは今までの経験で認識済みだ。
だからアルドが朝風呂メンバーの一員になってくれるのは大歓迎だったのだが、テッドの顔色を見て考えを改めた。
あまり強引に進めると、態度を軟化させる前にテッドが自分で自分を追い込んで潰れてしまう可能性も出てくる。
この朝風呂は、テッドにとってかなりリラックス効果があるらしい。それを取り上げられたら、テッドのストレスはどんどん堆積していくことだろう。それでは逆効果だ。
「今日は少しゆっくりだったんだ。いつもはもっと早い」
テッドが驚いたようにアスを見る。嘘も方便だ。
「そうですか…そんなに早いと僕には無理だな」
残念そうに微笑むアルドの隣で、テッドが立ち上がった。
「お先……」
「テッド君、もう行くのかい?」
「俺はもう充分入ったから……お前は今来たばかりなんだから、ゆっくり入れよ」
「うん…」
しょぼくれたアルドの脇を通り過ぎ、テッドが脱衣所に向かった。戸を閉めるときに、ひらひらと後ろに合図するように手を振る。
それを見て、やはりここは無理しなくて良かったと胸を撫で下ろした。
急いては事を仕損じる。
特に人間関係は慎重に進めなくては。こういうのは時間をかけてゆっくりやる方がいいのだ。
「……頑張れ、アルド」
「え?何ですか?」
唐突な激励にアルドが首を傾げる。
だがアスは穏やかに微笑むだけだった。





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過去本より。初めて書いた4の話で、まだ書き慣れてなくてどうにも違和感。

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2025.2.14更新




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