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愛は受け取りましたv








ボツになったトロヨン現代ネタ。
トロイが出てくるとこまで書けず、周囲固めの坊テのみ。

キャラ紹介
◆エイル(4主)
シオンと同い年だが、長期入院していた為、一年遅れて高校一年生。
父親はシオンの父の弟。

◆シオン(坊/シオンはエイルの世界の坊ではないですが、特別出演)
次期生徒会長を狙う、副会長。陸上部の高飛びのエース。二年生。

◆テッド
隣のクラスのシオンとは恋人関係。部員数2~3人の幽霊部員だらけの化学部在籍。
高級住宅街に昔ながらの土地を持つ、根っからの庶民。家は平屋庭付き一戸建て。両親と祖父と同居。

◆ヘルムート
三人が通う私立高校の養護教諭。

◆トロイ
三人が通う私立高校の理事長。大学卒業後、実業家として海外を飛び回っていたが、祖父の遺産である学校を受け継ぐことになり帰国。






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放課後、テッドがいつものように生徒会室のシオンを訪ねると、積み上げられた書類の間、シオンが真剣な表情でノートパソコンのキーを叩いていた。
「……不動産?」
横からひょいと覗き込むと、画面に表示されていたのは某有名不動産サイトだった。
シオンは凄いスピードで画面をスクロールし、時折手を止めて間取りの画像をクリックするを繰り返している。
「誰か引越しでもするのか?あ、もしかしてオヤジさんと一緒に住むとか?やっぱ離れて暮らすの寂しくなったか」
「違うよ」
話しかけてもシオンの目は画面から離れず、短い返事が返ってくる。
シオンは学校から徒歩5分のオートロック付きワンルームマンションに一人で住んでいる。
実家は都内だが通学に時間がかかるため、高校入学と同時に一人暮らしを始めたそうだ。
遠いとは言っても片道一時間弱、通えない距離ではない。先祖代々の土地がたまたま高級住宅街にあり、近さ重視でこの学校に入学したテッドと違い、シオンは本物のお坊ちゃんだ。何せ現在彼の住む部屋の値段は、大卒のサラリーマンの初任給の手取りと大差ないと来ている。
高層マンションの15階。昔ながらの平屋に住むテッドからすれば、そんな空に近いとこに住むのは頼まれても遠慮したい。
「でもこの間取りって」
シオンが開いているページには2DK・2LK、3DK・3LKの文字が並んでいる。通常ファミリー向けの間取りだ。間違っても一人暮らしの学生が借りる部屋ではない。
お気に入りに放り込んだ物件にざっと目を通し、その中の二、三件の問い合わせ先を確認すると、シオンはパソコンの電源を落として、ようやく顔を上げた。
「同居人が出来たんだ。……急に決まってね」
「……何か問題あり?」
「まぁね」
晴れない表情、濁した説明、困ったような苦笑。だが迷惑していると言う訳ではなさそうだ。
「これから不動産屋に行くけど、テッドも来る?」
「付き合って欲しいって言うんなら、付き合うぜ」
「じゃ付き合って。テッドには、同居人の事を少し説明しておきたい」
一体どんな問題児なんだと、浮かんだ呟きを舌に乗せる前に飲み込んで、テッドはシオンの後に続いて生徒会室を後にした。


「3LDK、南東向きのバルコニー、床暖房のフローリング、防音完備、ワンフロア2軒のみ、学校からは徒歩8分。管理人が常駐じゃないのと、駅からちょっと遠いのが難点だけど、いい物件だね」
家具のない広々とした部屋を見渡して、シオンは満足気に頷いた。
「徒歩12分で遠いとか言うなよ…」
この部屋の値段を見て、文字通り目玉が飛び出たテッドである。
賃貸に20万近く払うだなんて、テッドの常識からは考えられない。全くもって、金銭感覚が違いすぎる。
テッドの呟きなど聞こえなかったかように、シオンはガラス戸を開けバルコニーへと降り立った。
10階建てマンションの8階。右側に公立中学校、左側はこちらの建物より低いビルだ。そして道路を挟んだ正面には緑の豊富な大きな公園があり、日向ぼっこをする親子連れや老人の姿が見える。
「周りが学校と公園なら、防犯の点からでも安心だ。本当は最上階が良かったけど、眺めもそこそこいいし、決めた。ここにしよう」
不動産屋の社員と契約を交し、二人が帰途へとついたのはそれから1時間後だった。早速次の週末に引越しをするという。
「いいのか?あんなにあっさり決めちまって」
「僕が望む条件は全てクリアしてるから大丈夫だよ。急いでたものでね。何としても今週中に家を準備しておきたかったんだ」
「うちの学校に来るのか?その同居人」
「ああ。エイルと言って、僕の父方の従兄弟だ。同い年だけど長期入院していたから単位が足りなくて、来月1年に転入して来る。……それ以上は、今は聞かないで欲しい。エイルに会えば、判るから」
「…判った」
いつに無く重い空気を纏わせたシオンの背をぽんぽんと叩き、微かに笑む。
いつでも力になるからとか、今更言わなくたってこれで充分伝わるはずだ。
予想通り、俯いていたシオンの顔が上がったかと思うと、柔らかく破顔した。


――成る程。
テッドは内心の動揺を必死に隠して息を呑みこんだ。
「初めまして、エイルです」
サラサラで色素の薄い髪、宝石のような輝きを持つ濃く青い瞳。パッと見、人の視線を集める綺麗な少年だ。
丈以外のサイズが合っていないダボタボの制服の理由は、袖口から覗いた手首の細さで合点が行った。
服が大きいのではない。彼はひどく痩せているのだ。
頬が割とふっくらとしているので、中々気づかなかった。制服の下の半分は空気なのだろう。
そして左手中指に光る、この年の男が付けるにしては不似合いな、青い石のついた指輪。
「インディゴライトのトルマリンだよ。エイルの瞳の色にちなんで、宝石会社に勤めていたエイルの叔母さんが、彼の母親にプレゼントした物」
指輪を見つめるテッドの視線に気づいたシオンが、エイルの代わりに答えた。
娘ならともかく、母親の指輪を高校生の息子がしていると言うだけで、色々な憶測が出来てしまう。
(形見とか…そういう感じ、か)
「あ、ちょっとそこのコンビニで買い物をして行こう。冷蔵庫の中が空っぽなんだ」
新居のすぐ傍のコンビニの前でシオンが立ち止まり、二人も後に続いた。
シオンの持つ籠に、無造作にペットボトルが放り込まれていく。
「エイル、飲める?」
片手に2リットルのお茶のペットボトルを持ったシオンが、エイルを振り返った。声は上がらず、小さく頭が左右に揺れた。
「やっぱりミネラルウォーターか……。後は無糖のヨーグルトと…あ、林檎と苺も買って行こう」
近くにスーパーの類がないので、この辺のコンビニには多少の野菜や果物も売られている。勿論値段は高く、鮮度も良くない。安くて美味しい物を求めてスーパーをハシゴする、庶民派のテッドは絶対買わない代物だ。
買い物を済ませ、家具の運び込まれたマンションにエイルを案内すると、シオンはテッドを見送るを口実に二人で外に出た。
駅までの道を戻りながら、ぽつぽつとエイルの過去を語る。
母親は、エイルが7歳の時に家を出て行った。
父親は母親が出て行く前から親の務めを放棄しており、エイルの異常なまでの痩身は父親が原因である。
慮って簡略に告げられた経歴ですら、テッドの唇を噛ませるのに充分だった。
「……僕は、出来るだけエイルの力になってやりたい。同い年の従兄弟でありながら、僕とエイルの生きてきた世界はなんて違うんだろう。父さんが海外赴任じゃなかったら、もっと早くエイルの父親の事に気付いていたら…エイルから笑顔が消える事はなかったかもしれない」
長い間まともな食事を与えられていなかった為、食べられる物が限られているのだという。飲物は味がついていると駄目、ヨーグルト状のものはOK、果物も擦りおろしたり煮た物なら食べられる。
胃が弱っているのもあるが、医師が言うには多分に精神的なものが原因らしい。食べてはいけない、と思い込んでいる節があるというのだ。
心の傷が癒えれば、徐々に食べられるようになるだろう。焦らずゆっくり彼を受け入れてあげて下さい。担当医師の言葉に、シオンは強く頷いた。
それしかできなかった。
「過ぎた事はしかたないさ。これから頑張ろうぜ。俺も協力するから、そんなに思いつめるなよ?」
横に手を伸ばし、くしゃくしゃと柔らかい黒髪をかき回す。
「……ありがとう、テッド」
返ってきた潤んだ声の感謝に、テッドはもう一度「頑張ろうな」と呟いた。



***


義務教育の小中学校ならともかく、高校への転入生は珍しい。
転校の理由の一位である家の引越しが、高校になった途端一気にその順位が転落するからだ。親の都合に付き合って、苦労して入った学校を変え、新たに転入試験を受けるよりも、一人暮らしを選ぶ子供は少なくない。親元から離れたいという独立願望の高い子供ほど、その傾向は高い。
新年度が始まって一月も経った中途半端な時期の転入は、更に珍しい。
先ほど校長から預かった入学試験時の健康診断書に目を通すと、一年生の生年より数字が一つ少なかった。
転入の遅れの理由は聞いていたが、その詳細までは知らされていない。診断書の医師の記入欄に書かれた不穏な文字列に、表情が引き締まる。
続いて流し見していた身長、体重欄を確認する。
「……なるほど」
ヘルムートは苦渋に眉を寄せながら、掲げていた書類をそっと机の上に戻した。



約束の時間ぴったりに保健室に現れた彼は、診断書の信憑性を疑う、一見普通の高校生だった。
制服に着られているのは、一年生であれば見慣れた状態であったし(彼が本来は二年生であるとしても、制服購入時は成長期を考慮して多少大きめの物を選ぶものだ)制服の上に乗った首は、赤みもあり柔らかそうで、少し華奢な印象を受ける程度に過ぎなかった。
だが糊の利いた真新しい上着を脱いだ途端、診断書の正しさを実感した。
(――これは確かに)
まるで老人のようだと思った。腕の骨が骨格標本のようにはっきりと見て取れる。シャツから覗く腕が長く感じるのは、骨を包む肉がないからだ。
真っ直ぐに立つ足の間から、向こうの景色が覗ける。歩く度に、体重を支える膝の関節の軋む音が聞こえて来そうだった。
「まずは身長を測るので、そこへ」
内心の感情は一切表に出さず、ヘルムートは養護教諭の顔で身長計へと促した。
シャツと下着姿になった彼が、指示に従い身長計に描かれた足跡の上に立つ。
ゆっくりと脳天まで下ろした測りの目盛りは170㎝。
「次は体重計に」
激しく振れた目盛りが、やがて一つの数字を指し示す。
39キロ。診断書と同じ数字だ。
続いて測った胸囲も、とても17歳男子の数値とは思えなかった。座高と身長は平均値であるため、体重とのバランスの悪さが異様だった。
視力検査、聴覚検査、色覚検査に異常はなし。心電図とレントゲンは学校に器材がないので、病院で撮って来た物の提出を受けた。この体の割には、内臓に特に異常はないらしい。
「一点を除けば問題ない。――長期入院していたそうだが?」
短い言葉に込めた、そんな体で通学が出来るのかの意は、彼に伝わったようだ。
「従兄弟が学校に近い家を探してくれましたので。それに……昔からですから。今更倒れるような事はありません」
上着の前を綴じながら、単調な声で彼が答える。枯れ木のような体が隠れてしまえば、どこにでもいる高校生だった。
「陸上部のエースが従兄弟だったな。彼と一緒に住んでいるのか?」
「はい」
頷きにあわせて、色素の薄い髪がさらりと流れる。
「男二人では食事に困るのではないか」
「シオンは外食専門です。二人とも料理は全くできないので」
「君は食事はどうしているんだ?」
「………………」
半分伏せた瞼が、濃い青を隠した。
先を促す事はせず、沈黙が流れるままに任せた。コチコチと時計が一定のリズムを刻む。どこかのクラスで体育の授業が始まったのか、校庭で甲高い声が上がる。保健室の前を通り過ぎた足音が、廊下の角を曲がるまで聞こえていた。
答えなければ終わらないと覚悟を決めたのか、俯いた顔が上がり、再び煌く青が姿を現した。
「食べられる物を買って食べています。病院から処方された栄養剤も飲んでいます。――自分の状態は理解しています。先生の立場からすれば気になるでしょうが…僕は大丈夫ですから」
もういいでしょうか、と退出の許可を求める彼に、余計なもう一声をかける気になったのは、同じような目をした人物の顔が頭を過ぎったからだ。
自分に無頓着で、何事にも執着心がないような――
「好きな食べ物は?」
「え?」
きょとんと丸くなった目に、ヘルムートは表情を緩めて微笑んだ。
「好きな食べ物だ。料理でも素材そのものでもいい。普段好んで食べているものを教えてくれ」
「…………無糖のヨーグルトや、煮た果物は好きです」
「甘いのは嫌いか?だが朝は糖分をしっかり摂った方がいい。睡眠中に消費したブドウ糖を補ってやらないと、脳に負担がかかる。ヨーグルトは手軽で良質な蛋白質だ。甘く煮た果物にヨーグルトをかけたものを、毎朝食べてくるといい。果物が無理なら、プレザーブ入りのジャムでも構わない」
「…………」
「食べ損ねたら、購買でもヨーグルトは売っている。とにかく胃に何か入れてから登校して来るように」
「……はい」
この手の事は、今更忠告せずとも主治医なり周りの人間なりに散々言われているだろう。
内心はともかく表面だけは神妙に頷いた彼を置いて、部屋の奥にある、開封した薬品類の保管庫であるミニ冷蔵庫の戸を開けた。
そこには新商品好きの女教師から押し付けられた、苺入りのヨーグルトがぽつんと一つ。
引き出しからスプーンを取り出して、ヨーグルトと一緒に彼へと手渡した。
「食べてから帰りなさい。貰ったはいいが、食べる機会がなかったものだ」
困惑気に揺れる瞳を残し、記入済みの健康記録を持って職員室へと向かう。
戻って来た時には、彼の姿はなかった。空のヨーグルトカップと、畳んだティッシュの上に伏せられた洗ったスプーンが彼の代わりにヘルムートを待っていた。
几帳面な性格が窺える痕跡に、小さな笑みが零れた。



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お礼はランダムで2枚です。

2018.1.5更新




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