「あれ、こんなとこで眠ってんじゃん」


見かけた無防備な姿に、イノリはクスッと微笑んだ。
まるで猫がするように身を丸くし、眠る姿に愛しさが込み上げない方がおかしい。


「………うっわ、柔らけぇ」


ぷにぷにぷに。
静かにイノリは頬をつついた。
その柔らかさを堪能するように。


「イッ、イノリ君っ」


「なんだよ、詩紋」


「あんまりそういう事すると、起きちゃうよ?」


イノリの行動にハラハラと心を揺れ動かすのは、いつもイノリを止める詩紋だった。
けれど、そんな詩紋も言ってしまえば目の前で眠る彼女の姿を見たくて現れた一人でもある。
幸せそうな笑顔を浮かべて縁側で眠るその姿は、さながら猫のよう。


「大丈夫大丈夫 起きるワケねぇって」


笑いながらも、イノリはぷにぷにぷにぷにとする手を止めようとしない。
その柔らかさは病みつきになる、とでもいうのだろうか。


「でも……」


「イノリ 詩紋の言うとおりだ」


そんな二人に声を掛けたのは、そんなやり取りを遠巻きに見つめていた頼久だった。
このまま放っておけば、きっと眠りの妨げとなり起こしてしまう。

そう、確信した。


「頼久さん!」


嬉しそうな声を上げる詩紋に、頼久はしっと声の量を下げるようにと促す。
その事に、詩紋は慌てて両手で口元を覆い。

とうのイノリは面白くないらしく、何だよ頼久も詩紋の味方かよ、とごちていた。


「それで、頼久さんも寝顔を見に来たんですか?」


“も”と言うあたり、詩紋もそうだったのだと確信させる。
誰もが寝顔に愛しさを感じる。
誰もが寝顔に、隠せない感情を見せる。
それはまだ、誰も気付いていない感情。

まだ。


「イノリに詩紋もか?」


生まれ始めてもいない。

誰もが名前も知らない。


「はい」


「おう!」


そんな…………







も無き感情









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