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最初で最後の恋の行方…






 夏の始めに届いた一通のハガキ。
 五年前、アレンが中学三年だった時にいたクラスの同窓会の案内状だ。
 まだ、アレンがあの街…ローズクロスにいた時に、一年ほどいた中学校だ。
 アレンは卒業までいなかったが、卒業アルバムを作る頃にはそのクラスにいたから、名簿が残っていたのだろう。そうでもなければ、ほんの一年、いや、正確に言うと10か月ほどしかいなかった自分にまで、こんな同窓会の案内など送ってこれるはずがない。
 もっとも、この案内状は各地を転々と根なし草のように移動していたアレンにとって、連絡先場所として指定していた、父の古い知り合いだというアニタという女性の元から転送されてきたもので、しかも、アニタがたまたま長期で旅行に行っていたためハガキに気づくのが遅れたこととで、アレンの手元に届いた時には既に出欠の返信期日は過ぎてしまっていたのだが……
 アレンは物心がついた頃から、親の都合で各地を転々としていた。
 たいていは2~3カ月で移動していたので、このローズクロスは長い方だろう。まだ、アレンに懐かしいという思わせるほどには記憶に残っている。
 と同時に、アレンの胸中に甘酸っぱい記憶がよみがえる。
 アレンが、生まれて初めて恋をしたのが、この中学だった。
 初めてで最後の恋だ。
 相手は、ラビ。
 ラビは、転校したてのアレンを何かと世話をしてくれた。明るく、くったくのないラビは、クラスでもムードメーカー的存在だった。アレンがラビに惹かれるのにそう時間はかからなかった。
 そして、ある時にラビも自分を好きでいてくれていると知って、アレンとラビは付き合うようになった。
 だがそれは、最初から無理な恋だったのだ。
 男同士なんて未来のない話だったのだ。
 実際に、その恋はたった一ヶ月で終わった。
 いや、終わらせたのだ。
 アレンが、ラビをふったことで、その恋は終わった。
『あれは、我がブックマン一族の後継者。誰かれとかまわず付き合ってよいわけではない。ましてや、男とつきあうなどあってはならぬ』
 ラビの祖父だという小柄な老人がアレンを訪ねてきたのは、ラビとつきあってちょうど一ヶ月目だった。その日、ラビに「一ヶ月記念にデートしよう」と言われていた。その待ち合わせのに行く直前のことだった。
『あれの将来を思うてくれるなら、別れてはくれまいか』
 ラビは、世界的に有名な財閥の御曹司で、将来その財閥を継ぐことになっていた。そのラビが男と付き合っているとなると、財閥にとっては大きな弱みとなるという。
 一族に迷惑がかかること、なによりラビの将来に傷をつけるかもしれないと言われれば、まだ子供だったアレンには他に選択肢はなかった。
 アレンは、悩みに悩んだ末に、アレンが考えつく最悪の形でラビをふった。そうでもしないと、ラビとは別れられないと思ったし、アレン自身が自分をそこまで追い込まないと別れられないと思ったからでもある。
 だから、アレンは、浮気をした。
 もちろん、本当に浮気をしたわけではない。親しかった女の子に頼んでお芝居をうってもらったのだ。
 アレンは、ラビから頬と心に拳を受けて、そして、アレンの初恋は終わった。
 すぐに父親の転勤でアレンはその地を去った。
 その後、風の噂でラビが女の子と派手に遊ぶようになったと聞いた。
 あの祖父がそんなスキャンダル的なことをどうしたのかはわからない。アレンと同じようになんらかの手を打ったのか、それとも、相手が男である自分でなければいいと放置したのか……いずれにしても、アレンはもう二度とラビと会うことはないということだけは確かなことだった。
 その後間もなくして、アレンは父親を亡くして天涯孤独の身になった。
 その後、アレンの保護者となったのはクロス・マリアンという、やはり父の古い知り合いで、驚くべきことに、アニタはそのクロスの愛人の一人だった。
 父とクロス、そして、アニタの三人がどのような知り合いかまではアレンは知らない。ただ、父を亡くしたアレンのもとに、どこから聞きつけたものやら(おそらく、アニタを通じて知れたのだろうが)、ふらりと訪れたクロスによって、アレンは父といる時もそうだったが、更に輪をかけてクロスと共に各地を転々とするようになった。
 十八歳になって、アレンは大学に通うためにクロスのもとを離れ、一人暮らしを始めて、もう二年になる。
 ようやく一つところに止まるようになったものの、長い間放浪の生活を続けていたアレンにとっては、その生活はどことなく不安定な感じだった。安定した生活でありながら不安定を感じる自分に、アレンは一人暮らしを始めてから何度苦笑しただろうか。
 自分の居場所はここではない、そんな気持ちが絶えずアレンの中にはあった。
 といって、じゃあ、自分の居場所はどこかと問われると、明確な答えがあるわけではなかったのだが……
「行けるはず、ないよね」
 もし、これが返信の期日内であったにしても、アレンはこの返信を送ることはなかっただろう。
 同窓会となると、おそらくラビも来るだろう。今更顔など合わせられようがない。
 会いたくないと言えばうそになる。なぜなら、今もまだアレンの中ではラビの存在は大きく、あの頃と変わらぬ、色あせることのない想いをまだ抱いていたのだから……
 だが、同時に二度と会えないということもわかっている。もっと他にラビを傷つけないで別れる方法はあったかもしれないのに、自分は一番最低な方法を取って、ラビをいたずらに傷つけてしまったのだから。
 恨まれているとわかっていて、誰が会えるだろう。
 アレンは、ハガキを捨てようかと迷ったが、結局、引き出しの中にしまった。
 ハガキと共にポストから持ってきたDMやらチラシなどをそのまま捨てようとして、その中にもう一通封書があることにアレンは気づいた。DMではない。手書きで丁寧に自分の名前を書かれている。
 アレンはその封書を手にとった。
 自分に手紙を送ってくる人間に心当たりはない。
 昔…そう、ローズクロスを去った後に、ラビと共通の友達で、やはり転校生だったアレンを何かと気づかってくれたリナリーから、一度だけ手紙をもらったことがある。
 ただ、それだけだ。
 その手紙の内容は、アレンが本当に浮気をしたとは思えない。どんな事情があったのか教えて欲しい、といったアレンを気遣う内容のものだったが、アレンは結局、真実を告げる事も出来ず、手紙の返事を送ることも出来なかった。
 もしかして、リナリーが?
 同窓会にあわせて、送ってきてくれたのだろか?
 そんな風に思って、アレンはその封書を裏返した。
 そして、そこに書かれてある差出人の名前を見た瞬間、激しい目眩に襲われた。
『LAVI』
 たったそれだけの文字だというのに、アレンは心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。
 アレンの中から、今自分が何歳で、どこにいて、今何をしているのか、いや、そもそも自分という人間の存在そのものまで失ってしまったかのような錯覚に陥った。ぐらぐらと脳が揺れ、アレンはそのまま床に倒れ込んでしまった。




NEXT……