拍手有難うございます♪
そんな素敵な貴方に、ヨエルからのプレゼントです。
柔らかくて、温かい・・・小さなお話をお楽しみ下さい。









ある日、ある世界で。



俺はその日、語り屋とあのちっこい子供を探して歩き回ってた。
目的は”二人の思い出の1ページを描かせてもらうこと”
気紛れなあの二人を探すのは骨が折れたけど、街と街を結ぶ街道の草原で寝転がる二人を発見。
これ以上どこかをウロウロされるとたまらないから、急いで奴の所まで走った。






「語り屋!絵のモデルになって欲しいんだけど・・・ってアレ?」




寝転がる語り屋に大きな声を掛けると、語り屋に守られるようにして丸まった
猫みたいなちっこい子供が小さい声で”うーん”と唸った。
すると語り屋が慌てて子供の頭を撫でて、俺にこう言う。






「ヨエル、静かに。・・・ぐずっていたのをなだめて、ようやく眠ったんだ。」





「うわっ・・・ご、ごめんな。ピピン眠ってるのか・・・・。」






俺もそう言われて、慌てて口を押さえてその場にしゃがんだ。
真っ白なピピンの肌に俺の影が落ちて灰色になる。
すると語り屋は笑顔を向けて、ささやき声で俺に言う。






「そう、この子なかなか眠りたがらないから。・・・眠れる時に寝かさないと、ね。」





そう言ってもう一度、ピピンのちっこい頭を撫でてキスをする。
ピピンは語り屋が言う様に、あまり眠りたがらない。
前に一度、なんで眠りたくないのか・・・理由を聞いてみて”後悔した”事があった。
こんな無垢な顔してるのに、理由があまりに悲しかったからだ。
それと同時に、俺にもその気持ちが共感出来て、俺自身も少し眠るのが怖くなった。






「ねぇ、ヨエル?”絵”描いてくれるんでしょ?このままで良い?」






俺がぼうっと眠るピピンを見つめていると、語り屋は声を少し弾ませてそう言った。
ハッと驚いて顔を上げると、奴はいつも通りの柔らかい笑顔を浮かべてる。
ディディエはこの笑顔を”少し胡散臭い”なんて言うけれど、俺は結構好きだったりする。
だってこの笑顔、これは語り屋が相手を思い遣っている時に見せる顔だからだ。
たぶん、俺が少しだけ落ち込んだ事を悟って、俺を気遣ってくれているんだ。








「あ・・・・うん。そのままでいいよ。・・・でも良いの?安らいでいるのに。」






だから俺も、それなりの態度を見せる。
人間は目の前の相手を思い遣って、尊重し合う事が大事らしい。
最初は難しくて、どうしたら良いか解らなかったけどディディエが言うには
”今まで通りのヨエルで良いんだよ”と言う事だった。
だから俺は真似事じゃなくて、一生懸命語り屋とピピンの都合を考える。







「安らいでるからこそ、ヨエルの絵の中に収まっていたいのさ。」







語り屋はそう言って、目を細めて微笑んだままピピンを抱き締めた。
まるで親の様に抱きすくめて、またピピンの丸いおでこにキスを落とす。
俺はその様子を一通り目に焼き付けると、パンツにぶら下げた筆入れから鉛筆を取り出し
スケッチブックを片方の手に持って鉛筆を構え、二人の輪郭を描き出す。
幸せそうに微笑んで、時々こちらをちらっと見ては俺に語りかける語り屋の声に耳を貸しながら。






「ヨエルは今でも眠る事が怖いかい?」





スケッチも終盤に差し掛かる頃、そんな風に語り屋が言う。
俺は胸から心臓が飛び出そうだったけど、一瞬のうちだって解っているから慌てない。
こういう事は”驚いた時”に起こる現象・・・犬の時にもあるけど、未だにびっくりする。







「ううん、今はディディエが一緒だから平気。」






少しだけスケッチブックから目を逸らし、語り屋を見つめながら笑った。
言った事に嘘はないけれど、あまり上手に笑えていなかったかも知れない。
だけど語り屋はやっぱり優しい笑みを浮かべて”そう、それは良かった”と呟いた。







筆を出して、チューブを押してパレットに絵の具を出す。
色と色を水筒の水で馴染ませて、新しい色を作っている間・・・少しだけ考える。
ピピンが眠りを怖がる理由・・・・単純に夜が怖いってだけの理由。
だけど語り屋が話してくれた”ピピンの話”を聞いたら、誰だってその奥の深さが理解出来る。
俺は眠った間にディディエが居なくなったから、余計に解ってしまう。
夜は暗い、だから前も後ろも見えなくて、そこに居た者が居なくなってしまう。
だからピピンは今でもきっと、眠っている間に語り屋が居なくなる事を恐れてる。
俺もまだ少し怖い・・・ディディエが魂をこの世に保てなくなったら・・・・そう考えると怖い。






「眠っている間も傍に居るよ。」






ふと語り屋がそんな言葉を口にして、思わず体が硬直する。
まるで俺の心の中を覗いたみたいなタイミングで吐かれる言葉に驚いたからだ。
俺は止めた筆を、なんとかまた動かして、語り屋にこう言う。





「また俺の心を覗き見したな・・・お前、そういうの良くないと思う。」




不機嫌な声で言ってみたけれど、実際の俺はそんな事思っても居なかった。
だって他人の心は覗けない・・・どんなに想っていたってそれはその人自身の物だ。
だから語り屋がこうやって、タイミング良く俺の欲しい言葉をくれるのは
きっと、俺やピピンを本当に愛してくれているからだ。
解ってる、語り屋相手だと・・・どうしてだか解ってしまうんだ。
だけど悔しい、すごく悔しい位に嬉しいから、悪態をつく他ない。







「あはは、そう?言葉の要らない会話は得意だろう?ヨエルは、さ。」





こうやって時々、皮肉っぽくなるのも語り屋のズルい所だ。
だけど不思議とそれが清清しいのもズルい。
俺が犬である事、ディディエの姿を代償にしてココに居る事。
俺の痛みも、矛盾した感情も、ちゃんと理解してくれて変な気遣いもない。
だから俺も存分に甘えてしまう・・・この柔らかい笑顔に。





「うるさいな・・・お前だけ、とびっきり不細工に描いちゃうからな。」





そう言うと語り屋は少し大きな声を上げて笑った。
語り屋の腕を枕にして眠っているピピンがまた、うーんと唸って慌ててる。
そしてまた俺は嘘を塗る・・・・不細工になんて描けやしないさ。
だってピピンが大きくなったら、これは掛け替えのない思い出になる。
まさか大きくなった後も語り屋の腕の中で眠らないだろうし
ピピンは語り屋なんかより、よっぽど大人びているから。






「俺もディディエに腕枕してあげたかったな。」




ふと、そんな事を口にしてしまう。
いつもなら、こういう言葉を言うのは苦手だ。
だけど語り屋が目の前にいると、そんな弱い自分も何だか悪くないと思える。
ほら、こんな風に笑ってくれるから、さ。






「ヨエルじゃ寝相が悪くてディディエの身が心配だなぁ。」





「ふん、言ってろよ・・・まぁディディエもそう言うと思うけど。」





また笑い声を上げて、ピピンのひと時の安らぎを邪魔する語り屋を見て
俺は二人と一匹の優しい陽だまりの一枚に色を足していく。
相変わらず絵の腕は上がらない・・・・。
だけど、やっぱり幸せだと思う。
柔らかくて、安らいで、陽だまりと影の競演だ。
俺の絵は生きたまま、その思い出を閉じ込めちゃう魔法の絵だ。
だから、これでいい。そう自分に言い聞かせて筆を動かした。



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