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今回表示される短文は聖騎士団ソルカイです。




 あの男とすれ違うたび、むっと立ちこめるようにして、濃いにおいが鼻につく。血と汗のにおい? 最初はそう思ったけれど、すぐに、違うと気がついた。血と汗のにおいがしない人間なんてこの団にはいない。死臭は嗅ぎ慣れている。そんなものぐらいで今更個人を識別出来るほど、聖騎士団はおきれいな集まりではない。
 だとしたら何の。何か特別なにおいがなければ、すれ違うたびに鼻について気になるなんてことがあるはずもない。
「で、それが理由で俺に鼻っ柱をくっつけてると?」
 そう説明してやると、ソルは剣呑な顔をしてカイに尋ねた。懇切丁寧に説明してやったというのに、この反応は心外だ。
「そうです。風呂上がりなら、血と汗のにおいもしないでしょうし。私がすれ違う度に感じる違和感の正体がこれで掴めるはず」
「くんかくんか鼻鳴らして、浅ましい犬かテメェは」
「警察犬より鼻が利くともっぱらの評判ですよ」
「坊や、誰に言われたのか知らんがソイツは褒め言葉じゃねえ」
 ソルの表情が次第に呆れ顔に変わっていく。団の隅でマリファナを焚いていた不届き者をつるし上げた際に吐かれた台詞なので、まあ、言われてみれば皮肉だったのかもしれない。
 カイは適当に言葉を流しながら、ソルの逞しい肉体に顔を埋めた。くんくん。くんかくんか。風呂上がりのソルからは、石鹸の香りに混じり、やはり濃く立ちこめる彼のにおいがする。風呂上がりでも消えないほど強い体臭か? そうかもしれないと思う一方で、首を傾げる自分がいる。カイは一度ソルから顔を離し、首を傾げてうんうんと唸った。このにおい、どうも酷く嗅ぎ慣れたもののような気がする。それこそソルが団に来るずっと前から、世界じゅうを満たしていた、なにかの……。
「……ああ、そうか」
 そこまで考え、カイはぱちぱちと目を見開くとソルの裾を握った。
「あなた、戦争のにおいがする」
 だからこんなに落ち着くんですね、と続ければ、ソルは狐につままれたような顔をしてみせる。けれどそれがカイの出した答えの全てだった。戦争のにおい。それはつまり、カイが生まれてからこのかたずっと、彼の全てを取り巻く、世界の象徴だった。



/破滅のトワレ



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