健やかに依頼をこなす日々。三人がいるのはとある草原。辺りには色とりどりの花が咲き乱れている。季節的にも、花々が最も多く見られる。戦士ではあるものの、女らしさを兼ね備えている小町はともかくとして、男である大空や、およそ女性らしさとはかけ離れている椿にはいまいち似合わない。
 そんな場所に彼らがいるのは、けっしてピクニックというわけではない。

「じゃあ、お花の冠を作ろう!」

 小町が声高に宣言する。それを聞いて、大空と椿は大きなため息をついた。
 ここにいるのは、依頼をこなすためだ。何の因果か、お花の冠を三つ作ってきてくれ。と、いう依頼が舞い降りてきたのだ。大空は反対したのだが、小町はこの依頼に乗り気であった。危険も少なく、楽しそうだと笑っていたのが記憶に新しい。
 始めは椿も反対したのだが、次第に面倒になったのか大空に丸投げした。その結果が現在だ。

「どんな色合いでもいいって言ってたから、一人一つね!」

 笑いながら小町は近くにあった花を摘み取る。色鮮やかな花々が小町の手によって編まれていく姿を二人は少し眺めて、諦めたように花に手を伸ばす。
 それぞれが作業に集中するため、静かな空間ができあがった。魔物も少なく、聞こえるのは風の音と花や木々が揺れる音だけ。小町は久々に心地のよい空間を堪能する。最近は戦いばかりが続いており、体力はいいとしても、精神的な疲れが溜まっていた。
 心地よさに鼻歌まで出てきてしまう。
 一本、また一本と花が編まれて冠の形が出来上がりつつある。

「おい、できたぞ」
「え?」

 小町が予定の半分ほどの大きさを作り上げたとき、背後から声が上がった。驚いて振り返ってみると、大空が花の冠を片手にしていた。
 美しい色合いの冠は、形も美しく、大きさも申し分ない。小町よりも後から作り始めたはずなのに、出来上がりは彼女よりもずっと早い。小町は口を開けたまま大空と彼が持っている冠をキョロキョロと見比べる。
 彼女の言わんとしていることがわかったのか、大空は肩をすくめる。

「盗賊は手先が器用じゃないと駄目だろ」

 侵入するにしても、罠を仕掛けるにしても、細かな作業が必要になる。それを確実かつ丁寧に、素早く仕上げなければならない。そのため、小物作りのような仕事を得意とする盗賊は多い。男や女といった性別の差以上に、職業としての差は大きい。
 その証拠とばかりに、大空は視線を小町から椿へ移す。つられて小町も椿へ視線を移した。

「……あーもう」

 なにやら呟きながら椿は手を動かしている。しかし、小町のいる場所からも見える椿の手元には、ボロボロのぐちゃぐちゃになってしまっている花の冠が存在しているだけだ。見たところ作り方を知らないわけではないようだが、圧倒的に不器用だ。作った端から壊れていくのがわかる。
 大きさも小町の四分の一といったところだろう。

「あいつの分、オレが作ることになるんじゃねぇだろうな」

 大空が半目で尋ねる。
 彼だって依頼を受けてしまったからには、三つ作らねば帰れないことなどわかっている。そのためには、どうすればいいのかも。

「あ。また千切れた……」

 椿の声が聞こえてくる。
 小町はよろしくお願いします。と、しか言いようがなかった。



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