「花見ができずに、もう五月かぁ」 ポツリとそう呟いた少女に、隣に座っていた青年は読んでいた本から目を離し、少女を見る。 その目つきは、ツリ目で、もし睨まれたらとても怖いような目つきだが、少女を見るその瞳は、とても優しい。 「そうだな。行こうって約束していたのに、今年の桜は早く咲いて早く散ってしまったな」 「約束していた日が来る前に、散るとは思いもしませんでしたね」 「仕方がなかったと言えば済むが、お前が一番、残念がってたな」 「先輩は、残念だとは思わなかったんですか?」 「うん?俺も確かに残念とは思ったが、こうやって乱と過ごせるんだったら、なんだっていいさ」 「っ///食満先輩って、とても恥ずかしい事言いますね」 「そうか??そんつもりはなかったんだが…」 さらりと、恥ずかしくもなく言ってのけた彼に、乱は耳まで赤くする。 キョトンとする青年・食満留三郎は、天然の部類に入るのかもしれない。 「でも、こうやって大好きな人と過ごしことは、確かにいいですよね」 「……お前も十分、恥ずかしい事を言ってる気がする」 「そうですか??」 こてんと首を傾げる乱に、そりゃそうだと言ってやりたいが、きっと分からない。 この子もまた、天然なのだから。 「読書はもうやめて、昼御飯でもするか」 「はい!あ、今日は貰い物の野菜があるので、野菜たっぷりのラーメンにしますね!」 「お、いいなぁ。俺は、モヤシ多めで。」 「ふふ、分かりました」 パタパタと、せわしく動く乱を微笑ましそうに見つめる。 「あー、早く高校卒業してくんねぇかなぁ」 乱が卒業するまで、あと一年。 彼女が卒業すれば、こうやって毎日、一緒にいられるのに。 今は、大学生で一人暮らしをやってる留三郎の家に、こうして遊びに来てくれるが、いつかは同居したい。 「でも、ご両親より、あいつの方が五月蝿そうだな」 思い浮かぶは、乱のいとこで留三郎の同級である、あの男。 乱を溺愛しまくってるもんだから、きっと鬼の形相で怒るのでは、と想像した留三郎は、苦笑いを漏らす。 「せんぱーい?何か言いましたぁ??」 「いいや、なんでもない」 そうですか、と呑気な返事が返ってきた。 この先の未来を想像してた、なんて言ったら、どんな顔をするだろうか。 驚くだろうか、それとも、喜んでくれるだろうか。 愛を呟いたその時に。 |
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