お礼SS(で・わっふる篇 その3)


技術の長門−ワッフル・デコーダーの暴走から

 ハルヒが、俺のシャツの端を指でつまんでついてくる。
 こいつがおれをつかむなら、ネクタイか手首が、デフォルトのはずだ。
 そう、ハルヒが先に立っておれを引っ張って行くのなら。

 今日はすべてが違っていた。
 おれが先に立ち、ハルヒがおれに続く。

「なあ、ハルヒ?」
「なに?」
「おれの家……いや、おれの部屋でいいのか?」
 ハルヒがぴくんと言葉に反応する。
「あ、つまり、その、行き先が、だ。おまえの家に送っていくのでも、おれは構わんが……」
「……送り狼」
 な、なんてこと言うんだ、こいつは?
「……あたしはどこでもいい」
「え?」
「そ、その、あんたとだったら……」
 な、なんてこと言うんだ、こいつは?
 うつむいて、うなじまで真っ赤にして。

 劣情を食い止めてる爆発ボルト(Explosive Bolt)が一斉に点火しそうになるのを、理性で懸命に消して回る。一度、起爆したら、その名の通り、真っ二つに折れて二度と元には戻らないんだぞ。

 結局、ハルヒは俺の家までついてきた。
 いとこの結婚式で、家族全員が明日まで帰らないのが幸い、もとい災い(いやどっちなんだ?)した。
 どうして「いとこの結婚式」は、「おじさん/おばさんの葬式」と同じくらい何度も、時に平日に遠方でばかり開かれるのだろう?

 いや、そんなことはどうだっていい。

「待ってろ。今、鍵あけるから」
「家の人、いないの?」
「ああ。言ってなかったか? いとこの結婚式で……あ、あれ?」
「どうしたの?」
「いや、普段持ちなれないもんだし、いつも入れる場所が決まってる訳じゃないから、ちょっと手間取ってるだけだ……と思う」
「鍵ないの?」
「……みたいだ」
 ハルヒはおれのシャツから手を離し、いつものような眩しいくらいのまなざしを向けて、そしていつもみたいに笑った。
「あんたって……ほんと、どうしようもないわね」
「そうだな……すまん」
「いいわ。うちに来なさい。そのかわり! ……うちはしっかり家族がいるけどね」
「お、おい、ハルヒ?」
「それとも自宅の玄関先で野宿する? 窓ガラス割って自宅侵入?」
 どちらも利口なやり方じゃないな。もっとも今のおれは百歩譲っても利口とは言い難いが。
「あたしは、どれでもいいわよ」
「おい、おまえまで野宿してどうするんだ?」
「え、野宿がいいの? いきなりアオカン?」
「バカハルヒ」
 おれの手がハルヒの頭を上に伸びて、髪をくしゃと触る。
「なによ、アホキョンのエロキョン!」
 ハルヒは、飛び跳ねるように、全身の力でそいつを振り落とそうとする。
「アオカンなんてダメだ」
 おい、そっちかよ、おれ。
「なんでよ?」
 おまえも食い下がるな、ハルヒ。
「……寒い」
「あんたバカじゃないの?」
「それに、見られたくない! おまえの、そ、そういう姿とか……」
「ば、バカキョン……」
 ハルヒは(多分)照れ隠しに背中を向け、おれの手首をつかんだ。
「じゃ、あったかい場所、行くわよ」
「ああ」
「それと!」
「なんだ?」
「二人になれるところ!!」




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