ボタンを押していただいてありがとうございました。
以下、お礼替わりのご挨拶を。



拍手をありがとうございます。

長らく更新してなかったみたいですが、じつは今回も初美ちゃんの話です。

両片思いの高校生、今回は苦悩男子編。




にゃごにゃご言いながらコントローラーを持ってる初美の身体が右左に揺れる。

コイツ昔っから、この手のゲームじゃ画面に映ってるプレイヤーと一緒に自分も曲がってんだよな。

手も捻じれてるし首も捻じれて、……いやいやそれで背中まで曲げたらさぁ、脳内補正が逆にダメに
ならんのか? あ、ほら見ろコースアウトして落ちてった。もうちょい矯正しろハンドル操作。


「っあーーーー。クマゴロウぉぉぉぉ」

「落ちたな」

「っかしいな、計算上は曲がってんだよ? スピード? ブレーキかけるのが遅い?」


いやたぶん、お前の姿勢が歪んでカーブの奥行計算が狂ってんだと思う。


「くーまくーまくーまごろーぉ」

「お前、それ、このあいだっから気に入ってんな」

「クマゴロウにゃ、ちこーっとかわいすぎる呼び方だよね」

「ハッつぁんの時代錯誤っぷりと同等か」

「むぅ」


テレビ画面ではコンティニュー可能な秒数が刻一刻と減ってるのに初美は手を動かさない。


「なんだ? 飽きたか?」

「……んーーー。このあいだ買ったの進める」

「そうしろ」


このコースを上位入賞すれば違うコースが選べるようになるんだとか何とか言ってたわりには
あっさり、初美はゲームを止めた。

うぅ、自分で使っといてなんだが、あの、『飽きた』ってのは心臓に悪い。

俺自身が飽きられたときみたいな感覚すらある。

今度はRPGを選んだか。

ローディング画面を横目で見つつ初美が豪快に2Lペットボトルをラッパ飲みする。


っかーぁ! ってイイ顔で飲みあげたけど普通の日本茶だ。残量が少なくないのにラッパ飲み
できる握力を褒めるべきか、女子としての態度を取り繕うことを一切してこない自由さにモニョるべきか。


迷う。



「ハッつぁんさあ、そのゲームもうすぐ大詰めよね?」

「そうね? クマゴロウ」

「それ終わったら試験勉強よね?」

「なんでキャラ設定変わってんの? っていうかゲームしてんのに勉強の話?! 真面目か!」

「俺はいつでも真面目な男です」

「……はいそうです」


安っすい恰好した勇者が剣を振るう。

目的がはっきりしてるってのはイイよなぁ。

ココまでレベル上げたらダンジョンに辿りついてもイケるってわかるステータスの数値化も羨ましい。

初美の中の俺はどんな立ち位置か、ほんと、マジで知りたい。


「今度来るときさぁ、テキスト持ってきていい? 教えてクマゴロウ」

「ん」

「算数」

「さんすう」


数学か。コイツが算数っていうからには幾何のほうだな。さて今回はどこに詰まってるものやら。

思いがけないところで変な引っかかりしてるときもあるし、初美の思考はいまいちトレースできない。

順に追えばわかるんだけど。

……いやだから、できれば数学みたいに単純な問題と入れ替えてくんねぇかな。

初美の好意っつか、俺への評価的な、その、なにか。


「それならハッつぁん、手ほどきの礼はなんだい」

「クマさんたらいやですよぉ、ご飯はもう食べたでしょ?」

「マジで? もう喰ってた?」


内心の悶えに初美のボケがピンポイント過ぎて突っ込みに芝居を載せるのを忘れた。

食べたいんだよ。俺は。切実に。

八つぁんを。

お前の心が喰えるなら差し出せよ馬鹿野郎。ダンジョンで巨大スライム倒してる場合じゃねぇだろ、俺にくれ。

皿にのっけて確実に食べていいサイン、『喰っていい』って書いとけチクショウ。


「そうそう今朝のおかゆが今日のご飯ですからね」

「少なくね?!」

「ウチのロクデナシがたんと稼いでこないせいで」

「ロクデナシ言うな」

「ヘタレ?」

「ヘタレでもねぇ」


だが待ってほしい。爺さんの小芝居より先にロクデナシとまで評される初美の架空の亭主が
気になるんだが。なんだヘタレって。

いもしない旦那でもヘタレなら切れよ。

俺にしとけ。


「……オーズバーガーのフレンチフライLサイズ2で」

「えっ。いいけどクマさん持病の糖尿は構わないかい?」

「ロクでもねぇ持病だなオイ。八つぁん、バーガー屋のポテトがこじゃれた名前ってなぁ突っ込まねぇんだ?」

「あそこのオーナー、フランス人だって噂だもん」

「どうでもいいけどポテトは揚げたて」


小ネタと素の会話が入り混じってるうちに生々しい願望をさらっと告げる。

フレンチフライの名前ごときどうでもいいが、どこぞの店にふたりで行けるチャンスは逃がしたくない。

このあいだの告白事件のことはいつだって思考のど真ん中に居座って手酷い主張を繰り返す。

ふざけんな、いまさら他の男にやれるわけがねぇだろ。

しっかしオーナーがフランス人のバーガー屋ねぇ。確かにあそこはイロイロ変わってるけどな。

そんな店だったのか。


「だったら算数もそこで教えてもらえる?」

「揚げ物油がノートにつくだろ。あと匂いも」

「確かに」

「うちでやれ」

「はい」


いやいやいやいや家に来る初美の数は減らせるかっての。コイツがあほみたいに『タイヘンだよ
クマゴロウ』って言ってくれるから俺もノれるんであってな。

年頃の娘さんとこに、そんな、お前、俺がノコノコ行けるかっての。


向こうさんとは詰めも見据えての連携がチョコチョコ取れてるだけに行きにくい。


なんだこの状況。よくよく考えればあとは俺の頑張り次第じゃないか。どう見積もっても初美はトロい。

馬鹿じゃないぶん、判断して俺の部屋に来るわけで。

呑気にココに居るんだから推して知るべし、俺に嫌気はさしてない。


「げっ、ちょっとぉエゲツなくない? こんなところでボスと会う?」

「むしろ俺はどうしてお前がそのダンジョンの到達レベルに達してない状態でそんな奥まで潜り込めるのか
が知りたい」

「えーー。するーって、こう、逃げ回ってたら? いつの間にか?」


そう。そこな。そうなんだよな。初美は逃げるんだよ。こっちが詰めたら碁盤の外に石置きそうで。

だからついこっちも手控えるっていうか。



うん。つーことで初美は速やかに、まずは俺への好意を数値化して示すべし。





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