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「主、これを少し見てはくれまいか?」
障子が開くと同時に、美和の部屋へ三日月宗近が入って来た。手には宗近の着物と同じ色の扇子が握られている。
それを優雅に開き、パタパタと自分をあおいでみせる。まさに、「それはどうしたのか」と聞いて欲しそうな感じである。
「えっと・・・それ、どうしたの?」
待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべ、宗近はパチンと扇子を閉じて答えた。
「小狐が万屋に行った時に見つけて来てだな、土産にと俺に買って来てくれたのだ。」
「え。小狐丸、そんなことしてたの?全くもう!困った子ね。近侍だからって、すぐ勝手な事しちゃうんだから・・・。」
「まぁ、そう怒るでない。小狐は俺が喜ぶと思って買ってきてくれたのだ。現に、気に入っておるぞ。」
宗近の綺麗な指が、ツツー・・・と扇子を伝う。そのまま、三日月が浮かんだ宗近の目が細められた。
「それに扇子は便利だからな。いろんなことに使えるぞ。例えば・・・扇子で箸を表現したりだな・・・」
「それって、落語じゃないの。」
審神者がすぐに突っ込みを入れる。落語での扇子の使い方なんて、一体どこで覚えてきたというのだろうか。
苦笑している彼女を見て、三日月は「では・・・」と言い、腰を上げる。
彼女のそばに座り、「近う寄れ」とにっこり笑ってささやいた。
「・・・三日月の側にいくと、大抵ろくなことがないのよね。膝枕させられたり。」
「そう言わずとも、何もせぬ。あの時は眠くなってしまってだな・・・。」
「はいはい。わかったわかった。今そっちに行くから。」
ケタケタと笑い、三日月を信じてそばに行く。彼のそばに座ると、三日月は審神者の顔と彼自身の顔を扇子ですっぽりと隠し、彼女の耳元に唇を寄せて囁いた。
「俺は主を好いておる。叶うなら、主を独り占めしたいと思っておるぞ。」
三日月の言葉に驚き、何も言えないでいる審神者。
彼女から身を離し、満足したような表情でパタパタと自身をあおぐ三日月。
彼は何一つ動揺しておらず、むしろいつも通りであった。これが11世紀の末に生まれた者の余裕なのだろう。
言葉の意味を理解した審神者はやがて、顔を真っ赤にする。
恥ずかしさのあまり三日月の顔を直視できないため、正しく使われている扇子をじっと、ただただ眺めるのであった。
扇子の正しい使い方(?)
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