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このまま下にスクロールすると、大人ザックラの七夕パラレルなSSが出てきます。

キャスティング

織姫→クラウド 彦星→ザックス 天帝→セフィロス カササギ→ユフィ






















七夕



「ほう、これは見事な織りだな」

「天帝様…」

 無心に機を織っていた織姫は、突然背後からかかった声に振り返った。

 その視線の先で、絹糸のような銀色の髪を優雅に揺らしながら、付き人も伴っていない天帝は、ゆっくりと機織り部屋に入ってくる。

「手を止めなくていい。邪魔はしたくない」

「はい、天帝様」

 促されるまま、織姫はまた機を織り始めた。

 その優雅で繊細な指先が紡ぐ精緻な織りを興味深げに眺めつつ、天帝は溜息を吐いた。

「織姫、他に誰もいないのだから、天帝様などと他人行儀な呼び方はどうにかならないのか?」

「…では、お父上。このようなところに何かご用でも」

 とってつけたように白々しく問いかけてくる織姫に、天帝は再び溜息を吐いた。

「相変わらずだな。あの者には簡単に笑顔を見せるというのに」

「!」

 含みのある口調で呟く天帝を、織姫は思わず睨みつける。

 それを真正面から受け、天帝は面白そうに口の片端をつり上げた。

「知らないとでも思ったか?私を誰だと思っている、天帝だぞ」

「…天然ボケのくせに、そういうことは敏いんだったな」

「織姫、天帝に向かって口が過ぎると思わないのか?」

「他人行儀は嫌だとおっしゃったのはお父上ですが」

 憮然として文句を言う天帝に、慇懃無礼に織姫も応戦する。

 そこに、遠くから騒々しい叫び声が響いてきた。

『天帝様ー!どちらにいらっしゃいますか、天帝様ー!』

「ほら、文官が探していますよ、お父上。天帝の仕事はお忙しいのですから、そろそろ執務室にお戻り下さい。」

「ふん。仕方がない、戻るとしよう。また様子を見に来る」

「来なくていい!」

 仕事を放棄して後ろめたいのか、文官の声に誘われるように、天帝は機織り部屋を出て行った。

 その後ろ姿に怒声を投げつけ、織姫は肩を落とす。

「なんて疲れるんだ、あの人は」

「きゃーvキレーイv」

「…どこから入ってきた、カササギ」

 いつの間に入り込んだのか、カササギが織りかけの布を手にはしゃいでいた。

 織姫の冷静なツッコミを、カササギは気にも留めない。

「これ綺麗ねぇ。さすが天界一の機織り手ね、クラウド!」

「その名で呼ぶな」

「あっ、ごめーん。大切な人にしか呼ばせないんだもんねvそうそう、彦星ってばさっき、牛に引きずられて川に落ちてたよー。今日は来るのちょっと遅いかもね♪」

「川に落ちただって!?怪我してないかな」

 カササギは楽しそうにケタケタ笑いながら彦星の災難を告げるが、織姫は途端に不安そうに顔を曇らせた。

 それにもカササギはあっけらかんと言い放つ。

「大丈夫大丈夫。頑丈なのがあいつの取り柄なんだし!」

「だったらいいけど…心配だな」

「…織姫って、あの強面の天帝様に悪態吐くくせに、あいつのこととなると乙女だねぇ」

「う、うるさいなっ」

「なによ、悪いって言ってんじゃないのに。むしろよかったなぁって思ってさ」

 豊かな表情の変化を見せる織姫を見ながら、カササギはのんびりと羽繕いを始めた。

「織姫、昔は無表情だったじゃん。あんまり周りの人に興味示さなかったし」

「そんなことは…」

「あったの!もー、顔は綺麗だから氷の姫とか言われちゃってさ」

「‥顔はって」

「だって、本当のことでしょ!‥あっ、来たみたいだよ」

「えっ」

 彦星が来るのを察知したカササギが呟くと、それに織姫はぱっと顔を明るくする。

 それを見て、カササギも微笑ましげににっこりと笑みを向けた。

「いつもの時間に来れたんだ。よかったね」

「う‥うん」

 カササギの言葉の意味が分からないまま織姫は曖昧に頷くが、そわそわと落ち着かなげだ。

 そんな織姫に一つウインクを寄越してから、カササギは彦星が現れる前に姿を消した。

「織姫!会いたかった!」

「彦星…」

 機織り部屋に入ってくるなり、彦星は織姫を抱き締める。

 その広い背に、織姫も両腕を回した。

「カササギに、川に落ちたって聞いた。大丈夫か?」

「ちぇっ。隠しとこうと思ってたのに」

「どうして隠すんだ?」

「カッコ悪ぃだろ。好いた相手には、カッコよく見られたいのにさ」

 彦星は、織姫の髪に頬擦りしながら溜息を吐く。

 しかし織姫は、その腕の中でくすりと笑った。

「別にカッコわるくてもいいよ。怪我してなければ」

「ありがとう。怪我はしてねぇ。…もうクラウドって呼んでいい?」

「ん。ザックス‥」

 愛しげに本名(ほんめい)を囁かれて、織姫も、うっとりと恋人の本名(ほんめい)を呟く。

 そうしてしばらく抱き合っていたが、どちらからともなく身を離して見つめ合い、そっと唇を重ねた。

 ただ啄むだけの優しいキスの温かさに、織姫は幸せに浸る。

 が、その幸せな時間はあっさりと壊された。

「…何の真似だ」

「て、天帝」

「ザックス!」

 ひたり、と彦星の頬に、冷たく光を弾く刀身が押し当てられている。

 いつの間にか戻ってきていた天帝は、いつもと変わらない表情をしていながら、怒りのオーラを迸らせていた。

 その怒りの矛先から彦星を庇うように、織姫は刀身を手の甲で避け、二人の間に滑り込む。

「…知っていたんじゃないのか?」

「こ奴が出入りしているのは知っていた。だが、よもやお前がこの様な不埒な行為にまで至っているとはな」

 真正面から睨み合う、天帝と織姫の親子。

 織姫に庇われながら、その背後で彦星は呆れたように呟く。

「不埒って、たかがかるい接吻で‥」

「たかが?たかがと言ったか、この下郎が!我が天帝の子に、接吻など軽々しくしておきながら、何たる言い草!」

「余計なこと言うなよ、ザックス…」

 一気に怒りが沸点に到達した天帝を見て、織姫はがくりと肩を落とした。

 しかし、このままでは天帝の怒りのままに、彦星が切り捨てられたとしてもおかしくない。

 何とかこの状況を打破しようと織姫が考えを巡らせようとしたとき、彦星は突然天帝に言い放った。

「軽々しくなんかしてねぇよ!俺はクラウドと夫婦(めおと)になるって決めてるんだからな!」

「えっ!?」

「な、なんと…」

 面と向かって織姫を自分のものにする、と宣言した彦星に、天帝はぽろりと愛刀を取り落とし絶句する。

 そのままふらふらとよろけ、機織り機に手をかけて身体を支えた。

 そして天帝と同じく衝撃を受けている織姫に、苦悩の表情のまま問いかける。

「織姫、それは本当なのか。この男と夫婦(めおと)になりたいのか?」

「え。今初めて聞いたけど…でも、ザックスと一緒にいたい。ずっと側にいて欲しいって思ったの、ザックスが初めてだ」

 戸惑いつつも、彦星を庇い寄り添う織姫の顔を見て、天帝は愚問だったな、と内心自嘲した。

「……そうか。こ奴も女癖はともかく、働き者だと評判もいいし、先の行為の責任も果たしてもらわねばならんな」

「そ、それじゃ‥」

「ふん。口惜しいが、織姫までそう言うのであれば、結婚を許してやろう」

「やった!!」

 姿勢を持ち直した天帝は、傲然とそして憮然と二人の結婚を許す。

 それに織姫を抱き寄せ、彦星は歓声を上げた。

「ただし!織姫を泣かすようであれば、私手ずから成敗してくれるわ!!」

 天帝はダンッと床を踏みならし、彦星に激しく釘を刺してから、荒々しく足音を立てつつ部屋を出て行く。

 その背を呆気にとられて見送った二人は、しばらくしてほぼ同時に溜息を吐いた。

「…怖いもの知らず」

「んなこと言ったってよー。クラウドとのこと、遊びみたいに言われたら頭きちまって。俺はクラウドを運命の人だって信じてるのに」

「ん。あんな風に父上にはっきり言ってくれて、嬉しかった」

 運命の人、と言われて、織姫ははにかんだ笑みを浮かべる。

 その可愛い笑顔に我慢できず、彦星はまた織姫に口づけた。





「あーあ。だらしないねぇ」

「…カササギ、勝手に入ってくるなよ」

「いーじゃん別に。ナニしてるとこには来ないんだから」

「お前‥」

 機織り部屋に颯爽と現れたカササギは、昼日中からそこに入り浸っている彦星に顔を顰める。

 なんの前触れもなく突然部屋に踏み込んできたカササギに、彦星は織姫との二人っきりの時間を邪魔されて不機嫌丸出しだ。

「そもそも、なんであんたがこんな時間にここにいるのか分かんないんだけど」

「そりゃー、夫婦(めおと)になったんだから、一緒にいるもんだろ。な、クラウドv」

「そうだよ。何が分からないんだ?」

「恋愛ボケかよこいつら…。あんたたちね!ちゃんと仕事しなさい、ちゃんと!織姫だって、最近機織りしてないでしょ。織物が品不足で女官や女房達が困ってるよ!」

 結婚してからは、機織り部屋にいても結局いちゃいちゃしているだけで、二人とも従事していた仕事を全くしなくなっていた。

 その影響を受けた人々の姿を見たカササギは、危機感を覚えて忠告にやってきたのだ。

「そんなの、他にも機織り手はいるだろ。俺はやっとこうしてザックスとずっと一緒にいられるようになって幸せなんだから、邪魔しないでくれ」

「‥あーっそ。そういうこと言うわけ?…分かった、それじゃね」

 織姫の言葉に、誰が見ても明らかにブッチンとキレたカササギだったが、彼女の性格からは珍しく、そのまま部屋を出て行った。

 しかしこの状況は放っておけるわけもなく、カササギはその足で天帝の元へと赴く。

 彦星に負けず劣らず、カササギも相当な怖いもの知らずだった。

「天帝!」

「‥なんだ、騒がしいなカササギ」

「あの二人どうにかしなさいよ!天界が安定してないと、人間界にも影響が出るのを知らないわけないでしょ!」

「さすが、界を渡るカササギだな。よく見ている」

 人間界のことを言い出したカササギに、天帝は感心した顔をする。

 が、カササギはそれに構わず、キッと天帝を睨みつけた。

「あたしのことはいいから!あの二人が今まで通り、ちゃんと割り当てられた仕事をするようにして」

「私も手をこまねいていたわけではない。ただ、あまり効果が出なくてな…」

「もういっそ、引き離したらどう?」

「そんなことをすると、織姫が泣いてしまうではないか」

「…こっちは親バカかよ」

 織姫に嫌われたくない天帝は、カササギの提案をあっさり却下する。

 そしてカササギに呆れた視線を注がれつつ、天帝はしばらく黙考に沈んでいたが、ふと、顔を上げた。

「いいことを思いついた。カササギ、手伝ってくれ」

「あたしが?…まぁ、あの二人がちゃんとするならいいけど」





「ぇっく、ぐす‥ザックスゥ」

「そんなに泣いてたら美人が台無しよ、織姫」

「カササギ…。ザックスに会えなくなってしまったんだ‥ううっ」

「あんな大きな川だと、泳いで渡れないもんね」

「…もう姿も見えないし、声も聞こえない。俺、ザックスに二度と会えないなら、死んだ方がいい…」

「こらこらこら!なんってこと言うの!」

 とんでもないことを言い出した織姫に、カササギは慌てて突っ込む。

 そこに、不意に呆れた声が割り込んだ。

「‥まったくだ。相変わらず悲観的だな、織姫」

「天帝様…。あなたがあの川を作って、俺とザックスを引き離したんでしょう。そんなに俺達の結婚が気に食わなかったのですか」

「気に食わないのは結婚ではない、お前達がきちんと仕事をしないことだ。口で言っても聞かないから、実力行使に出たまで」

「だからって…ザックスに会わせてください。お願いです、お願い…」

 自分の非を知りつつ、彦星と会えない悲しさに、織姫はぽろぽろと涙を零す。

 そんな織姫を見て、天帝は優しく声をかけた。

「私は会わせないつもりはないがな」

「えっ?」

「さっきも言っただろう。お前達が仕事をしないから、私は怒っているのだ。以前の通り仕事をするなら、このカササギの力を借りて会えるようにしてやろう」

「ほ、本当に!?また、ザックスに会える?」

「私を誰だと思っている、天帝だぞ。約束を違えることなどない。きちんと仕事をすると。誓えるか?」

「ち、誓います!以前よりもっと、頑張ります!」

「‥だ、そうだ。カササギ、手を貸してやってくれ」

「りょーかいっと。そんじゃ織姫、その時が来たらこの機織り部屋に迎えに来るね」

「うんっ!ありがとう、お父上」

 愛しい彦星に会える嬉しさに、満面の笑みを浮かべる織姫を見て、天帝も表情を緩める。

 愛娘に愛らしく礼を言われてにやつく天帝を横目で見つつ、カササギは呆れた顔を隠しもせずに溜息を吐いた。





「やっほーい!今日も頑張ってるね、織姫」

「あ、カササギ。もうそんな時間?」

「うん。あっちはもう準備終わってるよ。早く行こう」

「ありがとう。いつもごめん」

「いえいえ。今はこれがあたしの仕事だからね♪」

 織姫は、カササギに手を引かれつつ、天の川の岸辺に立つ。

 それを見届けてから、カササギは右手の平を対岸に向けて広げた。

 すると、一条の光がその手の平から放たれ、対岸からも同じ光が迫ってくる。

 広い広い川の中央でその光がぶつかり絡み合うと、次の瞬間、立派な橋が天の川に架かった。

「準備完了!明日は休みの日だし、彦星がこっちにくるんでしょ?」

「そう」

「ふふ。織姫、すっごく嬉しそうだね♪」

「うん。毎日会ってるけど、橋の上でちょっとだけだから」

「クラウドー!」

 織姫とカササギのおしゃべりに、彦星の遠くからの叫び声が割り込む。

 その声の方を向き、カササギは楽しそうに笑った。

「おー、来た来た。休みの日はめいいっぱい甘えときなよー」

「ん、そのつもり」

 カササギの言葉に、織姫はいたずらっぽく笑う。

 そんな織姫を見て、カササギは満足げに笑って片目をつむった。

「そんじゃ、まったねーv」

「またよろしくね」

 手を振り合ってから、飛んでいくカササギを織姫が見送っていると、彦星がぎゅっと織姫を後ろから抱き締める。

「‥カササギ、帰っちまったのか」

「うん」

「あいつ、俺達のこと分かってるよな~♪クラウド、会いたかった」

「俺もvザックスv」

 織姫は、くるりと身を反転させて向かい合い、背伸びをして彦星の頬にキスをした。

 それに彦星は嬉しそうに笑って、織姫の色づいてふっくらとした唇に、唇を重ねる。

 こうして二人は、毎週楽しく週末を過ごすのだった。





「はぁ~?彦星と織姫は一年に一度の逢瀬じゃないのかだって?何言ってんの?」

「ユフィ様、誰としゃべってるんですか。独り言にしては声が大きいですよ」

「あ、海兄。いつも橋を架けるの手伝ってくれてありがとうv一人じゃあんな大技無理だから」

「いえ、ユフィ様の補佐をするのが僕の仕事ですから。それで、どうしたんですか、大声で独り言なんて」

「独り言っつーかさ、あの二人が一年に一回しか会えないって話、聞いたのよ」

「ああ、それは人間界の噂でしょう。天界の一日は、人間界の一年ですから」

「なーんだ、そういうこと?あの二人が一年も会えないなんて条件、飲むわけないのにね」

「そうですね。ではそろそろ、僕達も館に帰りましょう」

「うん。お腹空いた~」

 星空の元、陰の功労者である二羽のカササギは、人知れず音もなく家路についた。


★お わ り★



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