手をつなごう(紫原と氷室)


久しぶりにでかければ、電車がなかなか来ない。東京と違って、電車の本数も限られている。秋田ではもう雪がちらついており、風が吹けば思わず叫びたくなるほどだ。 待合室なんてものはなく、電車一本逃せば、この寒空の下で何かをして暇を潰すしかない。くだらない話をしたり、お互いぼんやりしたりしながら電車が来るのを待つ。 会話も途切れ、二人でぼんやりと辺りを眺めていると、氷室はそうだ、と紫原の方を見た。
「敦、てのひら出して」
出す前に勝手に腕持ち上げてんじゃん。紫原は微笑む氷室を見ながら思う。 紫原の手のひらは大きい。氷室も標準の男子と比べれば大きい部類に入るのかもしれないが、比べるとその差ははっきりとわかる。
「やっぱり大きいな」
「っていうか、こんなんしなくても分かるし」
「ん?いい手だなと思ってさ」
触りたくなっちゃって、と氷室は紫原に目線を合わせる。あーもう、上目遣いとか、なんなのこの人。分かっててやってんの、計算なの。 学校中の女子のように振り回されている自分に紫原は溜息をつく。でもやられてばっかりは性に合わない。それならこちらも振り回してやらないと、と。
「えーオレ、室ちんの手の方がすきかも」
頭撫でてくれるし、お菓子くれるし。そう言えば、氷室はくすくすと笑った。
「だから食べたくなっちゃう」
合わせていた手のひらをするりとずらして指をからませる。ぐい、と上に引っ張れば氷室の足元がふらつく。 しっかりと指をからませてるし、いざとなればもう片方の腕で氷室の体重は簡単に支えられるので、 ふらつく足元を無視して、紫原は絡まった指先を口元に近付ける。
「あれ、止めないのー?」
いつもなら外だからとか、何だとか理由をつけて止めるのに、おかしいなと紫原は首を傾げる。 氷室を見下ろせば、今気付いたというような顔で、俯いてしまった。
「…室ちん、ほっぺ赤いね」
「…それは寒いから」
「ふーん。そう」
じゃあ、遠慮なく、と繋がれた指に口づけるとひやりとした。一本一本の関節に唇を寄せれば、瞬く間に合わさった手のひらから熱が伝わってきた。 耳まで真っ赤にした氷室を見て、勝った、と紫原は満足した。年上の余裕とかさあ、見せなくてもいいんだって。室ちんはオレに可愛がられてたらいいの。 最後にちゅ、と音を立てれば、ますます氷室は顔を真っ赤にした。これくらいでいいかな、と関節から唇を離して、腕を下ろす。ふう、と氷室の口から白い息が漏れた。頬はまだ赤いままだ。
「…本当はな」
「なにー?」
氷室が続きを言わないので、頭を下げる。目をみられて、続きを黙るときは、耳を貸しての合図だ。
「手、繋ぎたくて」
氷室がぎゅう、と繋がったままの指先に力が込めた。ふふ、と氷室が笑うと、紫原が大きい体を縮めて、反則だしーと呟いた。


お礼は二種類。(黒と火、紫と氷)

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