奴良組三代四方山話 其の四



「まぁ、リクオ、本当にあなたは妖様の血を引いているのですね!昼はどうしたものかと思いましたが安心しました」
「………」
 瞳を輝かせて夜の姿のリクオを見つめる珱姫に、リクオは言葉無くただ見返していた。小さな小さなまるでお人形の様な祖母。

——そんな言い方するんじゃねぇ。それじゃまるで昼のオレがどうしようもねぇみたいに聞こえるじゃねぇか――

 心中毒づくも、口に出して言えよう筈も無く。

 リクオの記憶に祖母の姿は無い。そして、その人の姿を残す写真も無い。江戸時代初期の人なのだから致し方のない事だ。
 けれど父が、まわりの古参妖怪達が、その人を『珱姫』だと言うから、あぁそうなのだと、この人は自分の祖母なのだと思っただけだ。
 認めたのかといえば正確には嘘になる。

 そんな時だった、ぬらりひょんが文字通りひょっこりと帰ってきたのは――。



「珱姫ぇぇっ!?まことか、まことに珱姫かぁっ!?」
 奴良組本家が全壊しそうな程に、その声は激しく響き渡った。

 が、しかし。
「……。どなたです?」
 パチクリ。珱姫はクリッとして大きな目をしばたかせた。
「何を言っておる!ワシじゃ!よもや夫の顔を忘れた訳ではあるまいな!?」
 ぬらりひょんの言葉を受けて、おやゆび姫の様な愛らしい珱姫はふるふると頭を振った。
「…もちろん、覚えております。で…あなたは…だれ?」
「だれって…誰とはなんだ!?ワシじゃ珱姫!ぬらりひょんじゃっ!!」

 無理もない。今のぬらりひょんは珱姫の知るそれではなかったのだから。

「わたくしの妖様は強くてカッコ良い魑魅魍魎の主ですわ」
 あなたなんか知らない、と言外ににおわしていた。
「なんと…なんと言った珱姫…それはあまりにもあんまりじゃ…」
 まるでこの世の終わりの様な顔をして、ぬらりひょんはガックリと肩を落としてしまった。

「そ、そうじゃ、ワシもこの際若返ってみようかの。そうすればワシがぬらりひょんと珱姫もわかる筈じゃ!」
 そうじゃそうじゃ、とぬらりひょんは独り言の様に呟いた。
「どうじゃ、牛鬼。お前も一緒に若返ってみんか!?」
 ぬらりひょんが訳の解らない事を言って牛鬼を誘っていた。その眼はもうなんだかどこかしら逝っちゃっている様にも見える。
「……」
 皆の予想通り、牛鬼は答えに困惑し固まっていた。




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