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ジュード君の女子力・1
きっかけは大したことじゃなかった。
車に、スチールの棚に、デスクに触るたびに冬将軍に辻斬りされて痛い目を見る。
冬は乾燥して嫌だねぇ、なんてそんな一言。
自炊なんて殆どしないから、水仕事で荒れることは無いにしても手は乾燥してカサカサしていた。
ふとした時。例えば部活帰りで遅くなったジュードを送って行く時に、それとなく手を繋いだりなんかして。
おずおずと、ためらいがちに手を絡ませようとした瞬間に、バチン!
ただでさえ、年の離れた、男同士の、教師と生徒なんていうハードルの高い恋愛をしているのに、静電気にまで邪魔をされたのではたまったものじゃない。
はぁ、と吐き出した息は白く、二人して苦笑いをする。
「悪い。俺、帯電しやすいみたいなんだわ。やたらと手乾燥するし」
それでも、一度電気を逃がしてしまえば大丈夫だろう。
今度こそ、しっかりジュードの手を握って指を絡ませた。
「こればっかりはしょうがないよね……」
くすくすと笑うジュードの頬が、いつもより赤いような気がする。
指先も、冷たい。
けれど、その手はしっとり、すべすべしていてさわり心地がいい。
いいな、とは思うけれど羨ましいというわけでもない。
ただ単に、そんなジュードの手を好きだと思った。
「あ、じゃぁこれあげるよ」
ふいにジュードが立ち止まり、繋いでいない手でごそごそと鞄の中を漁りだす。
片手でするよりも、一度手を離したほうが早いだろうけれど俺は黙っている。
そうして、奮闘しながらジュードが引っ張り出したのは白地にピンクで文字の書かれたチューブだった。
はい、と目の前に突きつけられたチューブにはあれこれとアルファベットで字がつづられていて分かりづらい。
字の大きなそれを目で追うと、『ハンドクリーム』と書かれているのが見えた。
「無香料だから学校で使っても気にならないだろうし、伸びも保湿力も他のに比べて断然良いよ。口コミの評価も中々みたいだから」
ニコニコと笑顔で差し出されたそれを、手にとってなんとなく眺めた。
へぇ、と相槌を打てばジュードはさらに説明を付け加える。
成分がどうの、今年度のベストコスメ賞がどうの、とにかく十五歳の男子高校生というよりは、女子高校生がよく口にするような内容をつらつらと。
その殆どを聞き流して、生き生きと喋るジュードの横顔をひたすらに眺めていた。
「だから、良かったら使ってね」
「……おう」
内容なんて、殆ど聞いていなかった。
とりあえず、ジュードの女子力がそん所そこらのお嬢さん方に負けないくらいあるって事で、OK?
俺のために効果があるらしいハンドクリームの説明を一生懸命してくれる様子だとか、寒いのを我慢しすぎて震える指先だとか、そんなどうでもいいような事さえ愛しくて。
叫びだしたい気持ちを抑えて、とりあえず繋いだままの手を俺のコートのポケットに押し込んだ。
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