(鉈×幽谷)



「先輩。今度シュート練習付き合ってもらっていいですか?」
「ああ。大丈夫だ」
「ありがとうございます」
「任せておけ」
「ところで今日三途先輩をグラウンドと、教室で見たんですけど」
「また幽体離脱してたんだなあいつ」
「やっぱりそうでしたか。通りでグラウンドにいる三途先輩妙に薄いなと思ったんですよ…」

幽谷との日常会話には、日常と非日常が入り交じる。
昨日の晩ご飯は何だったのか。から、先日空を飛ぶ生首を見たという話まで。
広すぎるほどに幅のある会話の種を無差別に拾っては話すものの、おかしいと思った事は今まで一度もなかった。
幽霊などが欠片も見えない鉈にとっては、逆に幽谷の話す非日常が面白く、興味深かった。

「あ。そうだ。この前電信柱、見てたんですよ」
「なんでまた」
「自分でもよくわかりません。でも、ふと目に留まったんで見てみたら、電線に何か引っかかってるんですよね」
「ビニール袋とかか?」
「私もそう思ったんですよ。で、よくよく見てみたら手足が生えてまして」
「人だったのか」
「多分、浮遊霊とかそう言う類いの物だと思います。人は普通あんなところにいませんから」
「だろうな」
「で、どうしたんですか。って聞いたんですよ。そしたら漂ってたら引っかかったって」
「霊がか?」
「そうなんですよ!」

カラカラと楽しそうに笑う幽谷に釣られて、鉈も笑う。
話している内容は異質であり、ありえないものだ。
そのせいか、道行く人々が、会話に混じる言葉の端々を聞き取って、怪訝そうな顔をして振り返る。
それに、どうも幽谷が気づいてしまったらしい。急に笑顔を曇らせて、俯く。

「…あ。すみません。こういうこと、公共の場で話す内容じゃ…」
「いい」
「え?」

申し訳なさそうにしていた幽谷が、鉈の言葉にキョトンとする。
鉈にとって、周りの反応等、どうでもよかった。

「俺は聞きたい。その話の続きを」

表情の読めない白い仮面の奥からくぐもった声が響く。
それを聞いた途端に、幽谷は花開いたように笑って話の続きを紡ぎ始める。
そう、その笑顔が、見たいんだ。





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