放課後、誰もいなくなった教室に君と二人。 特にすることもない、何となくという理由だけ。 もうすぐ部活が始まるというのに、離れられない。 教室には、時計の秒針の音だけが響き、僕は時折時間を気にする。君は頬杖をつき、窓の外を見つめる。その瞳が、どこか切ない。 僕の方はちっとも見てくれない。

「ねぇ、どうしたの?」
「別にどうもしてない。もうすぐ部活始まっちゃうよ」

話しかけているというのに、視線は外に向かっている。 今日は怒らせた記憶もない。彼女の機嫌も良かったはずだ。 寧ろ、部活が始まるのを心配してくれている。 なのに、どうしてそんな切ない瞳をしているのかな。

「じゃあ部活行くね、鏡夜先輩に怒られちゃうし」

椅子からゆっくりと立ち上がり、机の上に置いた鞄を手に取り振り返った。 きっと窓の外を見ているんだろうと、思って。 しかし、彼女はしっかりとこちらを見ていた。 かすかに瞳の奥が揺れた、気がした。

「私も帰る」

彼女も椅子から立ち上がって、鞄を手に取る。 それを見た僕は、歩き出し教室のドアまで歩く 後ろから彼女も着いてくる足音が聞こえる。 ドアに手をかけ、帰り気をつけてと声をかけようと、振り返ろうとした。 その時、背中に温もりを感じた。制服を握る手は、少ししか力が入っていない。

「どうしたの?」

問いかけても何も答えようとしない。 不安になった僕は、彼女の様子を窺おうと体を反転させようとする。 すると、彼女の手に力が入る。振り返るなと言わんばかりに。

「ねぇ…」

愛しい彼女の名前を呼ぼうとしたとき。彼女の心細い声が、僕の耳にはっきりと届く。

「馨、行かないで」

たった5文字を言うのに、どれだけ時間をかけたのだろう。 普段、泣き言や甘えを言わない彼女は、かなり決心したに違いない。 いつもの声とは違う、弱い声。 相変わらず、時計の秒針の音は止まらないが、そんなことはどうでもよかった。 君を泣かせる代わりに、僕がホスト部の皆に怒られればいいだけのことだから。 体を反転さえ、思いっきり彼女を抱きしめた。

「了解」

彼女の耳元で囁くと、彼女が僕の体に回した手に力を入れる。その想いに答えようと、僕は力強く抱きしめる。君の不安な気持ちを埋めてあげようと。

「…苦しい」

言葉通り、本当に苦しそうな声が聞こえたが、聞こえていないフリをした。



もっと

したくて。

これ以上できないってくらい、大切にしてあげる

幸せな恋のお題03◆お題配布元:ハニィラブソング



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