「タイムスリップ 72」




頬杖をつき、セイはぼうっと一点を見つめている。

今朝瀬奈の兄である佑真に会ってからというもの、かれこれ何時間もそうしている。
その様子を見て、総司は小さく息を吐く。

颯太と瀬奈は、あの後すぐに仕事へ行ってしまい、この家には2人しかいない。
昨日から本当に色んなことがありすぎた為、普段心身ともに鍛えている総司ですら疲れ切っていた。
そのため、今こうしてゆっくりできる時間があることに、少しほっとしている。

だがしかし、やはり頭の中では近い将来訪れるであろう、自分の死の事ばかりぐるぐると考えてしまう。

死ぬことが怖いなどと、思ったことがなかった。
なのに今、なぜこんなにも死にたくないと思ってしまうのか。
そう考えたところで、ちらりとセイのほうを見る。

この人を、残して死ねない。
それに、戦いの中ではなく病で死ぬなんて。
自分の使命は、近藤を守ることだ。
それなのに、病になどなって隊の足手まといなどなりたくない。

しかし、本当にどうにかすることはできるのだろうか。
自分には一切医学の知識などない。
元いた時代とこの時代の医学の技術がどれほど違うのかも、検討もつかない。

こちらでは、労咳は不治の病ではないのだろうか。
今朝初めて会った瀬奈の兄の顔を浮かべながら、小さく息を吐くと、静かに目をつむった。





携帯電話がなり、表示を見ると兄の佑真の名前があった。
瀬奈は作業を止めると、電話に出た。

「もしもし、お兄ちゃん?」
『あぁ、瀬奈。今いいか?』
「うん、大丈夫」
そういうと、一緒に作業をしていた同僚にジェスチャーでちょっと待ってと伝えて部屋を出た。

「今朝のことだよね?」
『あぁ、そうだ。ちょっとあれから考えてみたんだけど』
「うん」
『あの彼が本当に沖田総司だとして、何年後に死ぬのかはわかるか』
まだイマイチ信用しきれていないであろう佑真に、瀬奈が仕方がないとは思いつつ、苦笑いをした。

「史実を見る限りだと、あと2年もないかな。実際沖田さんたちがいた季節が夏らしいという事くらいしかわからないから、はっきりとした期間までは断定できないけど」
それを聞くと、ふぅっと息を吐くのが聞こえた。
『2年か。じゃあ、まだ感染はしてないな』
「そうなの?」
『いや、絶対ないとは言えないけど。大体結核の潜伏期間は長くて数カ月だ。もし既に感染してたとして、潜伏期間に入ってたとすれば、対処できないこともないとはおもったんだが』
「調べる事は出来ないの?」
『出来ない事はない。ただ、彼はこっちに戸籍がないから保険にも入っていないだろう』
瀬奈は、はっとした。

そうだ。
検査するにも、今後の対処をするにしても、健康保険がなければ何もできない。
どうしようかと頭を抱えたところで、佑真があり得ない事を言い出した。

『あの男になりすまして検査をさせるのも、手かな』
「えっ? あの男って、颯ちゃんの事?」
驚いた瀬奈が、思わず声を上げた。

「そんなこと、できるの?」
『正直、かなりリスクはあるが…』
「だよね」
瀬奈はがっくり頭を下げた。

『それに、今後の事を考えると協力者も必要になる』
その言葉に、瀬奈ははっとした。
「セイちゃんのこと?」
『だな。結核は基本的に投薬治療になる。それも長期で。そうなれば、本人だけでは難しくなるだろうな』
「でもセイちゃんに言うわけには…」
瀬奈は頭を抱えた。

『まぁ、それは追々考えて行けばいいな。俺はもう少し対策練ってみる。また連絡する』
「ありがとう。お願いします」
そういうと、電話を切った。

瀬奈は長く息を吐くと、壁にもたれかかった。

総司の病気の事をセイが知った時の事を想像して、胸がぎゅっと痛くなる。
セイが天涯孤独だという事は聞いている。
今の彼女には、沖田総司と新選組が生きがいだとも。
その沖田総司を失うと分かった時、セイはどう思うだろう。
果たして耐えられるのだろうか。

瀬奈は、頭をぶんぶんと振ると、携帯電話をポケットにしまい仕事に戻った。



お時間ありましたら、お話の感想も1つ◆'∀`艸){オネガイシマス♪}(艸'∀`◆)
お名前
メッセージ
あと1000文字。お名前は未記入可。

簡単メッセージ