ここのところ随分忙しかったようで、碌に睡眠も取れていなかったのだろう。
もうそろそろお昼になろうかという時間なのにロイはまだ寝室から出てこない。

珍しいなぁと思いつつ、角の洋菓子屋さんの春限定チェリーフィナンシェを頬張る。
鼻に抜けるバターの香りとほどよい酸味。うーん美味しい。3食これでもいいな。あとでまた買いに行こうっと。

静かに感動しつつもぐもぐしていると、かちゃり…とドアノブが回る音がした。
続いてくあぁ…欠伸が聞こえて、のそのそと歩く音。
足音だけでもまだ覚醒し切っていないのがわかるが、ややあってリビングの扉が開かれた。

「おはよ」
「…おはよう」

のろのろとこちらに向かってきた彼に、ぎゅっと抱きしめられた。
凭れかかられた、に近いかもしれないけど。

「食べる?チェリーフィナンシェ。感動的なまでに美味しいの」
「…食べる」

目をしょぼしょぼさせながら開いた口にフィナンシェを放り込もうとしたのだけど、その口元に何やら違和感が。

「ああっ!!」
「…なんだよ」
「髭!」
「へ?」
「髭生えてる!!」

疲れ果てて剃っていなかったのか、顎周りにぱらぱらと。

「いや…俺だって髭ぐらい普通に生える…」
「初めて見た!!」
「あー…そんな濃い方じゃないからな」
「触っていい?触っていい?」
「は?」

許可を得る前に既に手が伸びていた。
顎を包み込むようにして感触を確かめる。

「おおおおぉーーーー、生えてる!」
「一体何に感動してるんだ…」
「ね、このまま伸ばすとどうなるの?」
「あまり綺麗には生えないな…胡散臭い感じになると思う」
「見たい!胡散臭い感じ!」
「見てどうするんだよ」

呆れたように顎に添えられた手を解くロイ。
そして自分の手で髭をさすりつつ。

「確かに忙しさにかまけて放置しすぎたな。先に剃ってくるか」
「えー勿体ない!せっかく生えたのに!」
「勿体ないって…邪魔だろ、これ」
「邪魔かなぁ?」
「邪魔だよ」

そうかー男の人は邪魔なのかーなんて思いながらチェリーフィナンシェを頬張ろうと思ったら、その腕をぐいっと引かれた。
そのまま抱き寄せられて、あれっと思う間もなく唇に触れる柔らかい感触。

と。

「…ちくちくする」
「な。キスする時に邪魔だろ」

しれっとそう言い放ち洗面台へ向かうロイ。
そっか、確かにキスする時にはちょっと邪魔かもなーなんて思ったのだけど。

よく考えたら。

「…なんで普通にキスしてくるのよ」

時間差で自覚してしまい、思わず顔が熱くなる。
髭を剃ってすっきりしたロイにその顔を見られたおかげで、その後も暫く唇を解放してもらえなかったのは言うまでもない。



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髭大佐に愛される…という、ニッチな一本をお届けしました笑






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