彼女の眉間に、珍しく深い皺が寄っている。 そしてその険しい視線の先には、堆く積もった未処理の書類たち…というわけではなく。 「さっきからどうしたんだ。何故マドレーヌを睨みつけてるんだ」 おそらく彼女お気に入りの、角の洋菓子屋のマドレーヌ。 いつもであれば、ノータイム且つノールックで即座に口へ吸い込まれていく代物だ。一体どうしたことか。 「…これね、新作なんだって。新作のメープルマドレーヌ」 「うまそうじゃないか」 「バターがね、当社比50%アップなんだって」 「好きだろ、バター」 「大好き。そのまま齧りたいぐらい好き」 「それは議論が必要だが今はいい。どうして食べないんだ」 「…」 恨めしい視線をこちらにくれる彼女。 「明日、身体測定がある…」 ………なるほど。 思ったよりわかりやすい理由だった。 「気持ちはわかるが、マドレーヌ1個食べたところで今更変わらんと思うぞ」 「今更とか言わないでよ!あと1個じゃないから!」 「は?」 「マドレーヌ詰め合わせ12個セットの最後の1個だから!」 「…」 既に11個行ってるなら、どっちにしろもうよくないか。 という言葉を一旦飲み込む。いかんせん彼女は本気で悩んでいるのだ。 「…あ、いいこと考えた!」 「どうした」 「半分こしよう!ロイ半分食べない?」 「なるほど。カロリーを半分に抑えようという作戦か。付き合うよ」 「よし!」 先程までの険しい表情から一変、満面の笑顔でいただきまぁす、と言いながらマドレーヌを頬張る彼女。 美味しそうに食べている姿はいつもながら可愛い。 最近忙しくてなかなか誘えなかったが、久しぶりに食事のお誘いをしてみようか。彼女が好きな肉料理の店に最近新しいメニューが増えたのだ。しこたま食べた後、満足そうに「美味しかったね!」とこちらに向ける笑顔が本当に可愛くて、あの笑顔をまた見たい…って 「こら」 「ん?」 「半分ずつと聞いていた気がするが」 彼女の手には、最後の一口サイズまで小さくなったマドレーヌ。 「はっ…気づいたら我を忘れてこんなに食べてた…」 「病気だぞ」 「それくらい美味しいってことで!はい!ロイ、どーぞ!美味しいよ!」 彼女はそう言うと、食べかけのマドレーヌをこちらの口に押し込んできた。 唇にかすかに触れた彼女の人差し指と、甘いかけら。 「ね、美味しいでしょ!最高傑作だよねえ!」 「…そうだな」 「え…イマイチだった?」 「いや、美味しいよ」 こんな微かな接触で動揺しているなんて、きっと彼女は想像もしないだろう。 人差し指だけじゃ足りないな。 今キスをしたら、きっと同じ味がするんだろうな。 なんて事を考えているなんて、彼女が知ったらどんな顔をするのやら。 「美味しかったねぇー、毎日でも食べたいなぁ」 「痩せる気ないだろ」 「失礼な!ありますぅ!でもロイもまた食べたいでしょ?」 「また食べさせてくれるなら、食べんでもない」 「なにその上から目線!マドレーヌに失礼でしょ!」 「逆になぜ君はマドレーヌ目線なんだ」 体重を気にしている彼女には申し訳ないが、また食べさせてくれるなら明日にでも買ってこようか。 その時は彼女曰くの「マドレーヌに失礼」にならないよう、気をつけないとな。 怒っている彼女も可愛いので、多少の失礼があっても良いと思ってはいるが。 というか本当に何だ、マドレーヌに失礼って。 ----------------------------------- 皆さんお元気でしょうか……!!ご無沙汰しております!!果たしてまだ見に来てくださっている方はいらっしゃるのかしら…と思いつつ笑 未更新期間の拍手コメントも拝見しまして…涙が…遊びに来てくださるだけでお一人お一人にお茶を出して無理矢理ハグしたい気持ちなのですが…(事案) さらには温かいお言葉まで…ありがとうございます!!!!全てのメッセージを綺麗に製本して墓に入れてほしい勢いです…本当に… 未更新期間はもう、シンプルに時間がない(T-T)(T-T)(T-T)という感じでしたので、身体はとっても元気でした!!優しすぎるお言葉で心配してくださった方…ありがとうございます…(無理矢理ハグ) というわけで長くなりましたが、また少しずつではありますが書き書きしていきたいと思いますので、よければ気長にお付き合いくださいませ(^^) また、もしよければリクエストいただければ喜んで書かせていただきます!(以前リクエストしたのに!まだ書いてないやんけ!という方がもしいらっしゃったら、またいただけると嬉しいです…!!!) 長くなりましたが、まずは来てくださって、且つ拍手を押してくださったそこのあなた!そうあなたです! 本当に、心から、ありがとうございます!!! 2021.6.12 |
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