彼女にいきなり謎のアンケートを渡され、願い事を書けと言われた。


その目が大変キラキラしていたので、多分何か彼女にとって面白いことなのだろう。
たまたま来ていたエルリック兄弟もまんまと巻き込まれ、書かされていたようで。

その間、彼女は見慣れない植物を持って執務室内をウロウロしていた。

「…中佐、なんだその植物は」
「これはですねぇ…ササです!」
「ササ?」
「先日来たシン国の使者が、こちらには自生していない珍しい植物を大総統にお目にかけたいとのことで持ってきたやつです」
「なんでそんな大事なものを君が持ってるんだ」
「執務室に飾りたいと思って声かけたら1房分けてくれました」
「…すごいな」

相変わらずのコミュニケーション能力炸裂である。

「中佐、願い事とそのササと、何か関係があるんですか?」
「いい質問よアルフォンスくん!」

よくぞ聞いてくれました!とばかりに人差し指を立てる彼女。

「実は…シンの古い書物によると、何か知らないけど1年に1回しか会えないカップルがいて、あ、しかもわざわざ雲の上で会うらしいんだけどね、何でか知らないけど。で、会えた時うれしくてテンション上がったついでにササに吊るした願い事を叶えてくれる伝承があって、その日が今日なのでーす!!」
「え…どういうことですか?」
「そんな頭悪そうな伝承あるわけないだろ。信じるな」
「本当ですって!」

結局ロイの席の後ろ、窓際に立てかけるようにしてササを設置した。

「さて、集めた願い事を吊るしていきますよー!エドワードくん、書けたらちょうだい」
「…俺は自分で吊るすから」
「あ、身長のことね、OK!」
「賢者の石のことも書いてるわい!てかバラすな!」
「ボクはこれです!『兄さんの願いが叶いますように』」
「弟よーーー!」

美しき兄弟愛。
ちなみにアルフォンスは兄のいないところで、「こういう時には他の人の願いが叶うように、って書いたほうがモテると思うんだよね」と言っていた。可愛い声で。

「はい次、これは大佐のね!」

ペロッとめくると、一言だけ。



『特になし』



「ちょっとーー!」
「何だよ」
「何ですか『特になし』って!一番ダメなやつ!」
「しかし…そんな頭悪いカップルに頼みたいことなんかないだろ」
「だから!そういうんじゃなくて!伝承なんだから!もうちょっとあるじゃないですか、こう、大総統になりたいな!みたいな」
「なんでそんな大事なことをそんな頭悪いカップルに頼まなきゃならないんだ」
「頭悪いカップルから離れてもらっていいですかね!そこは私の説明が悪かったから!」
「それを踏まえても『特になし』なんだがなぁ」
「待って待って!『特になし』って例えばですよ、女性を食事に誘う時『何食べたい?』って聞いて返ってきた『なんでもいい』と大差ないぐらい意味ない返答ですからね?!」
「それは相手の嗜好をろくに把握せず、のっけからそんな雑なオープンクエスチョンを投げる男が悪い。モテないだろそいつ」
「やかましい!すごいやかましい!もー助けてエドワードくーん、アルフォンスくーん!」
「大佐、中佐もこう言ってますし。なにか書いてあげた方が中佐も喜びますよきっと。それにこういうのって、乗っかっちゃった方が楽しいじゃないですか」


この中で一番大人なのはアルフォンスかもしれない。


「全く大変だな、わかったよ」
「わーい!」
「アルと俺はもう括りつけたけど…中佐は何て書いたんだ?」
「私はこれ!『いつも売り切れてるそこのケーキ屋さんのフィナンシェを山ほど食べたい』」
「明日の朝早く起きて並べ。一発で叶うぞ」
「そういう問題じゃなくて!ほんっっっとロマンチックと程遠いですね大佐は!」
「私ほどのロマンチストはそういないと思うが」
「どこが!」

そんな話をしつつあっという間に願い事を書き上げると、後ろに立てかけてあったササを手に取り窓を開けた。
その願い事の中身を見ようと、ロイの周りをうろちょろする彼女。

「おっと内容は企業秘密だ。叶えたい願いはそんなに簡単に言わない方がいいというからな。セオリーとして」
「えー!それ早く言えよ!」
「あー身長が…」
「うるせえ!」

ロープを使って、外壁の少し高めの位置に固定した。
天に投げる願い事なのだから、きっと空に近い方がいいだろう。

「わー!なんかそれっぽい!」

嬉しそうな彼女の声。

今日は晴れるが明日は雨の予報だ。
水性のペンで書いた願い事は、きっと明日には流れて読めなくなってしまうだろう。


一日限りの秘密の願い事なんて、なかなかロマンチックじゃないか。


「あとハボックとリザと、フュリーとファルマンでしょ、あとブレダにも紙渡してあるから回収しなきゃ!高いところにササ設置しちゃったから、とりあえずハボックは呼んでこないと!」
「あ、ボクたち探してきますよ!いこ、兄さん!」
「へいへい!まったく久々に来たのにやたら忙しいな…またあとでな、大佐、中佐!」

ばたばたと走っていく可愛い兄弟を見送ると、背伸びしてササを見上げる彼女。

「えーロイが書いたやつ、見えないなぁ」
「だから見ようとするな。秘密だって言っただろ」
「気になるなー、ヒントは?」
「言わない」
「えー…ちなみに私はねー」
「フィナンシェだろ」
「あともうひとつ!そろそろおじさんの域に入ってきたロイの健康も願っておきました!」
「おい」
「ずっと元気でいてくれますように、って書いといたからね!」

えへへ、と楽しそうに笑う彼女。
この笑顔にはどうしても弱い。

「まあ…俺も似たような感じかな」
「え、健康?」
「いや、ちょっと違うが…ある人が生涯幸せであることを見届ける権利が欲しい、ってところかな。」
「へー!」

案の定全然わかっていなさそうな返答が返ってきたが、まあそれでいい。

「今日は部屋の電気を消して、星でも見ながら飲むのもいいな」
「おぉ、ロマンチスト発言!」
「君も付き合うんだからな」
「はーい!」
「じゃ、仕事しろ」
「…はーい…」



この時の願い事が叶うのかどうかは、まだずっとずっと先のお楽しみ。




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今回はお題30「一つだけ」の没ネタより。七夕絡みの一本でした。
没になった理由は、「七夕の願い事は別に一つじゃなくてもいい」という、
お題を根底から覆す衝撃の事実が途中で発覚したからです笑





メッセージがあれば是非^^
あと1000文字。