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"眠れぬ夜に別れを"の続編です

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白み始めた空の光が障子越しに部屋を照らす。
りんはその刺激で目を覚ました。



首が妙なほうへむいていたみたいだ。
凝り固まったように痛む。
首を揉みほぐそうと手を首元へ持っていったとき、ふと右側だけ温かいことに気付いた。



昨夜の記憶が断片的にりんの脳裏に現れて、りんは慌ててもたれていたものから頭をあげた。
妖の冷たい温もりがまだ鮮明に頬に残っている。
思わずその温かさに恍惚として、ぽすりと再び妖の腕に頭を寄せた。
しかしすぐにはっとして頭を起こす。



(きっとりんがもたれて寝ちゃったから、殺生丸さまは一晩座ったまま…!)



すぐさま顔を上げて、口元までごめんなさいとでかかったが、それは口をつく前に飲み込まれてしまった。



息を飲むとはこういうことだろう。
掠れた自分の呼吸音を一つ、りんは聞いた。





寝ている。
殺生丸さまが、眠っている。
目を閉じて、少し首をりんのほうに傾けて。
背は坐椅子の背にもたれかけている。
無造作に膝の上に置かれた手は掌を上にして、まるで真っ白な彫刻のようだ。
流れるようにまとまった髪が今は一筋頬にかかっていて、よく聞けば細い寝息さえ聞こえる。

りんはそのあまりに静かな姿に思わず見入った。







…綺麗。
なんて綺麗なんだろう。


そう思うと同時に、やはり人ではないのだと今更ながら考えた。




野宿をしていた頃でも、この屋敷に来てからでも、いつもりんが先に寝て、殺生丸が先に起きた。
殺生丸が目を閉じているときも多々あったが、りんがこんなにもじっくりと見入っていたらすぐに目を開けるだろう。
先程殺生丸の横でりんがもぞもぞと動いていたときに目を覚まさなかったのが不思議なくらいだ。






二人の前には昨夜のまま置かれた机が、そしてその上にはやはり昨夜のまま殺生丸が読んでいた書物が開いたまま置いてある。


このまま寝てしまったんだと思うと、おかしいと思いながらも少し温かい気分を感じた。




りんは音を立てないよう体をずらし、そっと妖の顔を覗きこんだ。



…まつげ、長い…
りんのまつげ二本分くらいあるんじゃないかな。


顔を近づけたことでさらにはっきりと寝息が聞こえ、それが小さく開いた薄い唇から漏れていることに気付いた。


…お口、開いてる。
珍しい…
…ちょっと可愛い、かも、なんて変…かな。



めったに見られないから、とじっくり妖の顔を観察して、りんは静かに姿勢を戻した。



…どうしよう。
先に起きちゃおうかな。
でも障子開けたら殺生丸さま起きちゃうよね…


りんは少し考えて、再び殺生丸の腕にそっと寄り添った。



…誰かが来るまで、もう少しこのまま…




りんがその腕にもたれると、辺りは再び静まりかえったようになる。
目を閉じるとさらに静かで、まるで水に浮いているかのように心地いい。
りんの意識は再び眠りの中に引きずりこまれていった。









体温を感じる左肩に重みが増すと、妖は頬に落ちた髪をかきあげて左側を見下ろした。

「…無粋なことを」

薄く広がった陽の光を受けて瑞々しく光る黒髪に、殺生丸は目を細めた。

朝の空気は胸一杯に吸い込むと苦しい程澄んでいて、清々しい光が静かに二人を照らしていた。







現在御礼小説はふたつです。
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