桜の花びら、見渡す限りに舞い落ちる。
 始まりと終わりの季節、春。わたしは貴方に出逢った、運命的とは言い難いかもしれないけれど、わたしは貴方に出逢えた。ただそれだけのことさえも懐かしいと思える程に日々が過ぎさり、貴方達はもういない。
 皆と共にした時間、わたしが過ごした時間、貴方と共にした時間、それが楽しいと思えるのも今だから。

 それからだった。
 わたしは笑顔が上手になった。




 灼熱の太陽、わたしをも苦しめる。
 何もかもが暑くなる、夏。わたしは終わらない夏を過ごした、苦しかった、寂しかった。でもわたしには何も出来なかった。することすら許されなかった。そしてそれよりも長い月日が去った、貴方達はもういない。
 貴方の笑顔、皆の笑顔、そのころは見せられなかったわたしの笑顔。今なら何かを伝えられただろうか。

 それからだった。
 わたしは過去の自分を羨ましくなった。



 紅葉の香り、わたしに少しの安堵を与える。
 それでも貴方の香りはしない、秋。わたしに恐怖を与える、過ぎ去りゆく季節が、またあの時を呼び込みそうで。でもわたしには止めることが出来なかった。でもきっとまた同じ日が来ても同じ答えを出すだろう、わたしも貴方も。
 あの時の私、あの時の貴方、あの時の皆。ただ迫りくるあの日を知るのは過去も現在も未来もわたしだけ。声に出せたならどれだけ楽だっただろうか。

 それからだった。
 わたしは貴方に恋をしていたことに気付いた。



 雪、見渡す限り一面の。
 今年もやってきた雪の季節、冬。この時期には嫌でも決まってあの事を思い、そして涙を流す。今更こう感じたって意味がないことなど理解している、そしてそのころのわたしがとんでもない過ちを犯してしまったことも今では分かる。
 今のわたし、記憶の中のわたし、あの世界のわたし。どれも本当のわたしであり、どれも偽物のわたし。全部一括りに出来たなら、わたしは本当のわたしになれるだろうか。

 それからだった。
 わたしが悲しいと思うようになったのは、それからだった。




 季節は巡る。如何なる時でも、如何なる状況でも。
 わたしは思う、貴方のことを。どんな季節でも、どんな時でも、どんな状況でも。それでももう叶わない、叶うはずがない。わたしの手で作り出した貴方の名をつけた人形でも、玩具でも、本当の貴方には変わらない。
 苦しいと感じることも、寂しいと感じることも、悲しいと感じることも、貴方が教えてくれた感情。
 楽しいと感じることも、嬉しいと感じることも、愛しいと感じることも、貴方が教えてくれた感情。

 わたしは、独り。
 水よりももっと冷たく、寂しい粒。

 わたしは、ユキ。
 希望が有ると書いて、有希。
 でもわたしには何の希望も残されていない、ただただこの世の終わりを待つだけの寂しいユキ。

 わたしは、ユキ。
 空から降るそれと同じ字の、雪。
 でもわたしには他人に綺麗と思わせる程綺麗ではない、ただただ過ぎ去る季節を意味もなく見つめるだけの悲しいユキ。

 わたしは、ユキ。
 でもどのユキとも違う、新しいユキ。
 わたしには希望も、美しさも、何もない。でも一つだけ、わたしにはたったひとつだけ持つものがある。

 それは、感情。
 貴方に教えてもらったそれが、わたしを新しく作り上げる。
 もう一度やり直す、そんなことだって今なら。


 貴方の答えを捻じ曲げてまで通す信念ではないかもしれない、それでもわたしは見てみたかった。






 わたしの作った世界で生きる本当の貴方が。



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