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新婚儀式・翼編
〜VitaminX・翼〜
ピンポーン。
チャイムがなり、旦那さまが帰って来たことに気付く。
リビングのソファに座っていた悠里は慌てて駆け出した。
何か遭ったらどうすると小煩い彼が部屋にまでつけた玄関の鍵を開ければ、ガチャッとドアが開く音がし、その小煩い彼が姿を現した。
「お帰りなさい」
「………」
「翼くん…?」
満面の笑みで迎えたのに彼は何も言わない。
そればかりか、何処となく不機嫌そうな顔で悠里を見ている。
「翼くん、どうかした?」
「『お帰りなさい』だけでは足りん!」
「へっ?」
口を開いた翼の言葉にキョトンとする。
お帰りなさいだけでは足りない?だとすると…。
「お勤めご苦労様でした?」
「違う」
「じゃあ何…?」
昨日までは『お帰り』だけで何も言わなかった。
笑って『ただいま』とキスをくれた。
しかし、今日はそれ以上の何かを求めているらしい。
本気で分からず首を傾げる悠里に苛立ったのか翼は声を荒げる。
「新婚ならば行う儀式があるだろう!」
「なっ、儀式って何よ!玄関で何させるつもり!」
「オマエは何を想像している…まぁ、いい。新婚が行う儀式と言えばー『ご飯になさる?お風呂になさる?それともわ・た・し?』だろう!」
「……………」
誰か…いや、清春あたりのの入れ知恵だろう。
どうせ、新婚はするのが当然だとかなんとか言ったに違いない。
はぁ、と溜め息をついて悠里は崩れ落ちる。
何か怒らせたのかと不安になっていたのにそんなことだなんて…。
「どうした?さぁ、やれ。」
「やれ、じゃありません!人が真剣に悩んだのにそんなオチですか!」
「何を怒っているんだ、オマエは。さては照れているのか?」
「照れてません!全く…」
仕方のない人だと溜め息をもう一つ。そして悠里は翼を見据える。
「『ご飯になさる?お風呂になさる?それともわ・た・し?』」
「……………とりあえず風呂にするか」
「なっ!!人にやらせておいて何よ、それ!」
「帰って早々変なものを見た。風呂に入って忘れることにしよう」
「ひどっ!可愛かったでしょ!翼くん!翼くんたら!」
悠里の怒号が響く中、翼はそれから逃れんとばかり、そそくさと風呂へと向かった。
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