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「また会議中に内職かい? スペイン君」
呆れ顔のモナコが呟いた。
だが、当の本人は大きな欠伸をし、悪びれた顔も見せずに手を動かし続けていた。
「んー、しゃーないやろ。相変わらず会議にならんし……っと」
手早く花を作り上げると、彼女の髪に乗せ、満面の笑みを浮かべて見せた。
柔らかな髪の上で揺れる赤いカーネーション。
髪につけられたものに触れ、ガラスに映った自分の姿に少し頬を緩め。
「うん。やっぱ似合うな。かわええ」
素直な彼の言葉に、すぐに表情を引き締める。
わざとらしく咳払いをし、髪から花を取り去った。
「賄賂のつもりかい? 残念ながら、私の家には本物のカーネーションがあるからいらな……」
「本物がええの? なら、俺んちにもあるから。よし、今からいくか」
テンションの上がった彼は、彼女の手を握り締めた。
彼女が静止する暇もなく、引きずられるように会議室を抜け出した。

――もちろん、二人が消えた事に、誰も気がついてはいなかった――


目の前に広がる赤い波。
あまりの光景に言葉も出ない。
息を飲み込み、しばしその光景に見惚れ。
「……綺麗やろ」
満足げに呟く彼の言葉に、彼女は我に返った。
「ま、まあ、手入れはそれなりに行き届いているし、悪くはないな」
「誉めてくれてありがとな」
ひねた言葉も率直に受け取り、屈託の無い笑みを浮かべる彼に、彼女は苦笑を浮かべる。
少し肩の力が抜けたのだろう。
小さく息を吐くと、もう一度カーネーションの花壇を見つめ。
「……うん、綺麗だね」
近くにあったカーネーションを手繰り寄せ、香りを楽しむ。
ほんのりと香る甘い香りに、彼女の表情が和らぎ。
「だが、私の家のカーネーションも中々だ。
なんたってうちの国花でもあるからな」
不敵な笑みを浮かべる彼女に、彼も笑みを深くし。
「そうやな。モナコんちのカーネーションも綺麗やな。
やっぱかわええ女の子が育てると、花も嬉しいんやろなぁ」
次から次へと出る誉め言葉に、ため息を一つ。
「おだてても何もでないぞ」
「おだててるわけじゃなく、本当の事や。
それに……」
彼は顔を近づけ、間近で彼女の瞳を見つめた。
頬を染め、視線を逸らす彼女。
そんな彼女を見つめ、深い笑みを浮かべ。
「可愛い姿を見れたから、俺はそれで十分。
こんなたじたじのモナコなんて珍しいしな」
視線を逸らしたまま、彼女は頬を膨らませる。
顔を俯け、やや上向きに彼の顔を見つめ。
「スペイン君は……意地悪だな」
滅多に見せない子供っぽい表情に、彼の顔から笑みが消えた。
今度は彼が頬を赤く染め、照れくさそうに視線を逸らす。
その彼の行動に、彼女の顔に小悪魔的な笑みが浮かんだ。
「ふっ、まだまだお子様だねるこんな事で動揺するだなんて。
それじゃあ、邪魔したよ」
笑みを深くし、手を軽く上げ去っていく彼女の後姿を見送りながら。
彼は力なくしゃがみ込み、熱くなった頬を押さえ。
「……今回は負けや。くっ、何でモナコは卑怯なくらい可愛いんや?」
楽しそうに風に揺れているカーネーションだけが、彼の敗北宣言を聞いていたのだった。









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