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「……綺麗だな」
色鮮やかな花壇を見下ろし、男はぽつりと呟いていた。
「うん、綺麗やろ」
花壇の手入れをしていた少女がにこやかに応える。
頬に土汚れをつけたまま。
植えてあるチューリップを一本一本確認しながら、丁寧に土を弄る。
その姿はとても楽しそうで。
仮面を身に着けた男は黙ったまま、その姿をただ眺め。

「ご苦労なこった。ベルギー、チャイでも飲むか?」
手入れが終わり、一息ついていた彼女の頬に、何か冷たいものが当たった。
ぴくりと肩を震わし、後ろを振り返ると、男が冷たいカップを手に立っていた。
「あんがと。トルコはん」
そのグラスを手に取ると、ぽんぽんと自分の横を叩き、彼を見つめる。
横に座れという事だろう。
柔らかい笑みを浮かべ、彼女の横に座り、手入れの届いた花壇を眺めた。
「にしても、よぉ育てやがったな。完璧じゃねぇか」
「当たり前やん。私んちの花なんやから」
満足げに微笑む彼女に彼は苦笑を浮かべ、
「ばーろぉ、チューリップは俺んちのっていってるだろうが」
カップの中身を一気に飲み干すと、ため息をついた。
「あの坊ちゃんちの小僧が持っていきやがったから、いつの間にかてめぇの兄貴んとこにお株奪われて」
「ん、ほんますまんなぁ。でも……」
満面の笑みを浮かべ、1輪のチューリップを彼に差し出した。
「可愛いやろ。私んちのチューリップも」
差し出されたチューリップを彼は受け取り、花と彼女の顔を交互に眺め。
「花には罪ねぇし、可愛がってるなら、文句はねぇ……っと」
立ち上がり、ズボンについた土ぼこりをはたくと、彼は花壇の中に入った。
一つ一つ花の様子を確認し、花びらの色合いも確かめ。
「うん、中々の手入れじゃねぇか。おっ、これは変わった品種じゃねーか」
「あ、それ?」
彼女も立ち上がり、花壇の中へと入っていく。
根元を踏まないよう、慎重に。
「これね、最近作った新種。ドレスのようで可愛いやろ。
そうだ。トルコはんに球根あげる。大切に育ててや」
「そんなら、俺んとこの変わった品種やるよ。今度取りにこいや」
チューリップ談義に花を咲かせながら、二人は自然と花壇の手入れを始めていた。
服が土で汚れる事を気にせずに。

「おっ、ミミズ」
「あ、ほんまや。ほら、頑張って土たがやしてな」
彼が掘り起こした土の中にミミズがいても、慌てる事もなく、ミミズを土に戻してやる彼女。
さすが土いじりやりなれているだけあって、虫ぐらい平気なのだろう。
そんな彼女に、彼の顔に笑顔が浮かび。
「女ならば、ミミズに『きゃあ』とか叫べばいいのによぉ」
彼の言葉に、彼女はきょとんとした顔を向け。
「ま、そんな女は俺は嫌いだが」
彼はけらけらと笑い、ズボンで手を擦る。
それから汚れの取れた手で彼女の鼻についた土を擦り取り。
「ドレスが似合うお淑やかな女より、土がついてても可愛い女のほうが俺は好きだねぇ」
にかっと笑う彼の笑顔に、彼女は顔を真っ赤に染めたのだった。




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