大佐って、人の幸せだけ眺めてるやつなのかな。

そう言った金色の子供の瞳は、見えないものを見る様にぼんやりしていた。
多分、口に出したことにも気付いていないだろう。


エルリック兄弟が報告書提出に訪れた時、大佐は仮眠中だった。
殆どが出払っている部屋を見て不思議そうな顔をする。
少し面倒な場所でテロが起き、その後始末がつい数時間前に終わったのだと教えると、謎が解けた様に頷かれた。
どうやら、偶然誰もいなかった時に電話を掛けていたらしい。
猫に会いに行くという弟を見送り、大佐が起きるのを待つらしい兄の土産話を聞く。
国内のあちらこちらを巡る兄弟の話は、聞いているだけでも面白い。
話題が土産話からテロに変わり、当たり障りの無い範囲で答える。
生意気に見えて心根の優しい子供が事件に関わることを、上官は本当は好まない。

普段は隠しているが、ふとした時に滲むものがある。
比較的近い自分達だから気付いた、彼はあの金色の子供が愛しいのだと。

そんな事を思い出していたら、いつの間にか二人とも沈黙していた。先程の独り言が聞こえたのは、ちょうどその時。
どうしたものかと考えていると、我に返った子供が焦りだした。
つつくのも可哀想かと思い、聞こえなかった振りをしてみる。
ほっとしたが居づらくなったらしい、理由を作って部屋を飛び出していった。
その内戻ってくるかとのんびりしていたら、執務室のドアが開く音が。
上司が起きたのかと思ったが、音か聞こえるか聞こえないかの微かなものだった。
もしやと見てみると、執務室の内側からほんの僅かに赤いものが。
さて、どうしたものか。邪魔はしたくないしな…。

実を言うと、当人達以外は気付いているのだ。
上司だけでなく、金色の子供の方も恋うていると。

なので皆もどかしくなりながら見守っている。
そんな風に思っている立場からすれば、そっとしておきたい。
しかし寝ている上官に近付くのは危険だ。発火布着けたままなので、無意識に攻撃してくる。
不安になってきたので、執務室の中を窺ってみる。
僅かな隙間から覗くと、ソファで寝ている上官と少し手前に金色の子供が立っているのが見えた。
近付いても攻撃してない…! 何だか感動した。
やっぱ愛ってやつか、なんて考えた自分に微妙な気分になる。
大丈夫そうなのでそっとしとこう。そう思い、離れる前にもう一度視線を向けた時だった。


上官を見ていた子供か、静かにソファに近付く。
音も無く膝をつき、放り出されていた片手に触れた。
何度か軽く撫で、柔らかく、でも恐る恐る持ち上げる。
そうして唇が落ちたのは、掌。まるで願うように、祈るように。




呼吸が止まる程の何かを抱え、そっと扉を閉めた。



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