※特級術師if夏油がいます※


栗、かぼちゃ、さつまいも、新米、ぶどう、柿、そのほかたくさん…。
どうして秋の味覚って美味しいものばっかりなんだろう。

「うーん…」

傑と同棲している自宅マンションの洗面台の鏡に映るお風呂上りの自分の姿を見ながら、私はここ最近の食生活を振り返る。

1週間前は農家と窓を兼業している方からいただいたさつまいもでさつまいもの天ぷらを傑と食べて、
5日前は1年生が山奥の任務先で拾ってきてくれた栗で寮内の厨房を借りて1年生2年生たちと栗ご飯を作って食べて、
一昨日は硝子と日本酒が美味しい居酒屋に行って秋刀魚やかつおといった秋の味覚を堪能しつつ日本酒を飲んで、
昨日は自宅で1人きりでの夕食だったので茹で野菜だけのヘルシーな夕食にしたのに、22時過ぎに任務から帰って来た傑が「お腹が空きすぎて新米のことしか考えらない」「新米にはどのご飯のお供が合うか新米選手権しよう」と言いだして、結局誘惑に勝てずにお米を食べてしまった…。

「ダイエットしよう…」

決意するように1人そう呟いてから、パジャマに着替えバスルームを出ると、お偉方との会合を終えて今しがた帰って来たばかりの傑が玄関で革靴を脱いでいた。

「おかえり傑、遅くまで会合お疲れ様」
「ただいま。本当、うちのお偉方は無駄に話が長くて疲れるよ」

傑はネクタイを左手で緩めながらお酒の匂いが交じったため息をつく。

「お酒結構飲んだ?」
「悟が飲めない分勧められてね。ごめん、酒臭い?」
「ううん、平気。何か軽く食べる?お茶漬けで良ければすぐ用意できるよ。それとも先にお風呂入る?」
「うーん、そうだね。まずは疲れを取りたいかな」
「お風呂?入るなら…んっ」

すぐ入れるよ、と伝えようとした私の言葉は傑の唇に吸い込まれるように消えていく。
唇を啄みながら傑の大きな左手が腰をゆったりと撫でてきて、腰がぶるりと揺れる。
ちゅ、っと音を立てて唇が離れるといたずらっ子のような笑みを浮かべる傑と目が合う。

「うん、ちょっと回復した」
「それは良かった」
「お風呂入っちゃおうかな」

私の米神に一つキスをしてから、傑はバスルームへと向かおうとするが何かに気が付いて、足を止める。

「あ、そうだ」
「ん?」
「これ、お土産」

傑の右手が掲げた有名パティスリーのロゴが入った白い箱を私ははっとしながら見つめる。

「あのお店の季節限定のケーキ」

傑はにっこりと満面の笑みを浮かべながら、ここのフルーツ乗ってるケーキ好きでしょ?と悪意なく言う。

「明日休みだったよね?私も明日は夕方出発の任務だから、秋の夜長って事で少し夜更かししよう」
「あ、うん」
「お風呂上がったら前に観たいって言ってた映画観ながら一緒に食べよう、冷やしておいてくれる?」

任務、授業、会合など特級術師として多忙な毎日を過ごしているのに、こうして一緒に過ごす時間を作ってくれる傑の優しさに、ノーと言えない私は、言われた通り冷蔵庫へその白い箱をしまう。
お風呂から上がってスウェットに着替えた傑と私はソファで並んで腰掛けながら、ローテーブルの上に置いたケーキを眺めていた。

「シャインマスカットと巨峰が乗ったやつ、どっちが良い?」
「う、うーん…」
「半分こする?」
「うっ…うう、ん」

煮え切らない返事をする私に、傑が心配そうに私の顔を覗きこんでくる。

「これじゃない方が良かった?」
「ううん、すごい美味しそうだし嬉しいんだけど…最近ちょっと…食べすぎてるなあって思って…」

私の言葉はどんどん言葉尻に向かってしぼんでいく。
不思議そうな顔で私を見ていた傑が、ぷっと吹き出す。

「笑わないでよ」
「ごめんね、可愛かったから」
「もうっ、真剣なのに」

私がぷいっと顔を逸らすと傑の大きな手がよしよしと私の頭を撫でてくる。

「罪悪感を持ちながら食べるより、楽しみながら食べたほうが脂肪に変わりにくいらしいよ」
「本当に…?」
「本当に。あと、筋トレとかジョギングとか激しい運動をした後30分間は多少カロリーを摂っても大丈夫なんだよ」
「うっ、傑の誘惑に負けそう…っ」
「先に動いたほうが罪悪感ないなら一緒に動こうよ」
「今から?」
「今から」

少し空いていた距離を傑がゼロまで詰めてくる。
傑の長い髪が私の首筋に当たってこそばゆかった。

「ここで運動するのと、ベッドで運動するの、どっちが良い?」
「え、それ、運動?」
「うん、私としか出来ない運動」

口元にゆるりとした笑みを浮かべているのに傑の瞳は熱を孕んでいて、その熱さに思わず体がぎゅうと甘く疼く。

「じゃあ…ベッド」

もじもじと答えれば傑は短く了解、と答えて私の膝裏にその逞しい腕を差し込んで軽々と持ち上げてくる。
突然の浮遊感に驚いた私は傑の首に手を回して、落ちないようにぎゅっと力を込めた。

「食欲の秋も大事だけど、運動の秋もしないとね」

傑が耳元で婀娜っぽく囁いて私たちは寝室へと消える。
結局運動した後はやってきた眠気に勝てず、ローテーブルの上に寂し気に放置されたケーキを食べられたのは、次の日の朝の事だった。



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