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「虹」
~Athrun ver.
「あ」
普段、意識して見ることのない空を見上げたアスランは、その視線を、意識を釘づけにされた。
青い絵の具を無造作に塗ったかのような、突き抜けるような青空に、七色の色を刷いた大きな弓。
――虹。
壮大な自然現象をアスランは魅入られたかのように茫然と見上げる。
プラントでも、月でも、虹を見たことはある。
けれど、ここまでの大きさ、はっきりと浮き出した色の鮮やかさは、彼の記憶の中には無かった。
オーブの強い日差しと澄んだ空気、何もかもを洗い流すような雨。人工の力ではどうしても作り出せないものをこの地は簡単に作り上げてみせる。
弓なりに空に掛かったそれは、まるで橋のようだった。
此処から、空へ。その向こうには、何が――。
『アスラン』
ずっと心の奥に沈めていた記憶が、声を上げる。
『アスラン』
優しい声。
もう二度と、聞けないと思った声。
その声に、浮かぶ人影にもう一度会えるならば――。
「アスラン」
走り出しそうになった心を、身体を、けれど違う声が押し止めた。
名前――アスラン、という名前。
その名前をかの声が呼ぶことを、なによりも欲していたことを思い出す。
「カガリ」
太陽の光を集めたかのようなまつ毛が透明な水滴で光る。
丸いその小さな水滴に、七色の影が映った。
<2013.3.6>