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王子と悪魔の0ゲーム
おうじとあくまのらぶげーむ

出題編 第一話


静かに月の淡い光が窓から入ってくる。

冷たい色は天蓋で遮られていない部分のベッドに落ちる。


「ねえねえ、王子。僕と結婚して~」

そんな神秘的な空気を壊すようなものが。

「また、君か! 何度言えばわかる、俺は誰とも結婚しない!」


「まったく、僕の王子様はつれないなー」


ふわりと部屋に滑り込んできたその騒音。


「君も結局財産目当てなんだろ」


毎日のように飛び込んでくるお見合い話。

某国の姫だとか、絶世の美女だとか、

そんなものどうせ俺じゃなくてこの王国、つまりはお父様の財産に興味があるだけなのだ。


そもそも結婚というものがわからないし、

拘束されるのは嫌いだし、

それに加えて相手のいいように動かされるだけというのはまっぴらごめんだ。


「王子様も大概僕の話聞いてないよね」


もっともらしくため息をついている。


「王子と結婚したいと思うのは、僕が王子のことを好きだからだよ」


「財産以外に結婚に目的があると?」


「ってか、財産なんていらないから。僕が欲しいのは、王子だけだよ。

 王子のそばにずっといたいから、だから結婚するんだよ」


「だれが君なんかと一緒にいてやるものか!」


こんな風に一方的に絡んできて。

面倒以上のことを考えたこともないのに。


「そんな風なことを言って、あとで財産を取るつもりなんだろ」

「誰にそんなこと吹き込まれたの……」

「姉上がおっしゃっていた」


俺には2人の姉と、3人の兄がいる。

そして、妹と弟が1人ずついる。


二つ上の姉上は去年隣国に嫁いで行ったが、ひと月に一回の手紙はぐちしか書かれていない。

結婚というものがどんなに悲惨なものか。


そして結びの一文には必ずこう書いてあるのだ。


「好きな人をちゃんと作って、その人と駆け落ちすればよかった。

 お姉様みたいに」


そう、一番上の姉上は駆け落ちして、どこかに消えてしまった。

それ以来まったくもって連絡はない。


お父様はどこかで死んでしまったんだろうとおっしゃるが、

姉上の手紙には

「本当に人を好きになって死ねたんだからいいじゃない。私はここで死んだら未練たらたらで幽霊になるわ」

と書いてる。


「まったく、僕の愛をなめてもらっては困るね。必ずや王子を幸せにするよ」

「嘘をつけ」

「そのためにも王子、僕と結婚してよ」


「人の話を聞け、はどっちのセリフだか」


「ねえ王子、結婚しようよ」


「い や だ」


「つれないなー」

そもそも、初めてコレが部屋に来たのはいつのことだったか、

思い出せないというのは、相当前だからか。

「ほら、帰れ」

「王子、こうして僕を一回帰しても、僕はあきらめないからね」

「帰れ。寝れないだろう」

「僕が寝かせないからいいんだよ!」


鼻息荒くつかみかかってくるやつを振り払う。

こっちは眠いのだ。


寝かせないとは肉体的にも精神的にもクる嫌がらせだな。

まったくたちが悪い。


「もう、王子、冗談だってば。だから、僕の話を聞こう! そして結婚しよう!」

そう騒ぐヤツをバルコニーに追い出す。

内側から閂を落として、やっと平和な時間が部屋に戻った。


毎晩毎晩相手にするのもいい加減疲れた。

次来たときはびしっと言ってやろう。

ベッドに倒れこんで目を閉じると、あっという間に意識は闇に落ちて行った。


「僕の愛しい王子様」

窓辺で愛くるしい笑顔を浮かべてやつがそう言う夢を見たような気がした。




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