![]() 銀さち 千夜一夜ものがたり 2 一戦交えたあとが必ずしも死屍累々とは限らない。 攻められることを望んでいる合戦もあるというわけだ。男と女の合戦のように。 どちらとも勝つことが可能な、不思議なものであるが。 だが、真の勝負は合戦後とも言える。 欲望のままに行動した結果、兵どもが夢の跡とならぬよう相手の話を聞いてやるのも大事な戦後処理というわけだ。 気だるさと戦いながらも、銀時はあやめに請われるがまま日常の出来事を話して聞かせる。 「とまあ、そういうことでな・・・」 「そうだったの。だから神楽ちゃん、あんなにうれしそうにしているのね。」 つぎはぎだらけなのに、これみよがしに目に付くところにぶら下げている様子から何か大事にしているということはわかっていた。 いつものように万事屋に現れたあやめを邪険にすることなく、真っ先に声を掛けてきたのは、“万事屋”と書かれた木製の神楽手書きのストラップを自慢したかったのだ。 三人が一様に身につけているということで、いつも心は一つ、という象徴のようなものなのだろう。 「まったく、女ってのはそんなことがうれしいのかね。」 ぶっきらぼうにそういい捨てた銀時の横顔を見て、くすっ。と笑みをこぼす。 「何?俺、おかしーこと言った?」 「わかってるから、神楽ちゃんの作ったのを身につけてるんでしょう?」 ここでカワイイとか言わないあたり、あやめも男心をわかっているようだ。 優しいくせに、ストレートにそう言えない、そんな不器用な男の気持ちを。 「神楽ちゃんがうらやましいわ。私もあと10歳若かったら銀さんにそんな風にしてもらえたのに。」 案外本気でそう思っているのか、少し妬ましそうな目で銀時を睨んだ。 心外だと言わんばかりに銀時はあやめの鼻をつまんだ。 「ああ?俺ァいつだってテメーに優しいだろが。」 だがあやめは口を閉ざしたまま、銀時の腕に抱きついた。 以前買ってくれた眼鏡のことを思い出す。結局自分で壊してしまったが、もらったときは本当にうれしかったのだ。ちょうど今回の神楽のように。 なんだかんだいって、形に見えるものでないと不安になるのは女の悲しい性なのか。 だが、そんなあやめの髪を何も言わずに撫でてやる。 「まったく、女は幾つになっても甘えん坊でいけねェや。目に見えねーと不安なのかよ。こんなに銀さんがそばにいるってのに。」 静かに唇に口を寄せる。 「男はなァ、言質や物証取られると弱みを見せたみてーでイヤなんだよ。テメーの弱点に印し付けたら速攻で攻められるだろ?」 「・・・・そうね。七人の敵がいるものね・・・・」 そう言葉では歩調を合わせてみたものの、ここは私の気持ちをわかって欲しかった。 心から男と女はわかりあうことは出来ないと知っていても。 「だから形のねえもんならいくらでもくれてやらァ。」 あやめの胸元から肩甲骨の下までを丁寧に口付けていく。 しばらくすると、唇の赤い跡がいくつもの体をなしていく。 縄で縛られた赤い跡のように。 「形が欲しくなったら、いつでもつけてやるからよ。」 |
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