銀さち 千夜一夜ものがたり 1


自分のいびきで目が醒めることがある。
ちょうど、ふごっ、という詰まった音を自分の鼻が鳴らしているのに気がついたときには、一人暮らしでよかった、と胸を撫で下ろす。
だが撫で下ろそうと胸に手を当てる前に、何かがすでに胸の上に置かれている。
何かしら?枕??
眼鏡をかけていないが、身の回りのことなら大体はわかる。
薄目でじっとこらしてみると、それは手のひらだった。
あら?私の手はここにあるじゃないの。
右手は耳の隣、左手はおなかの上に。
とりあえず触ってみた。少しごつごつしていて、私の手よりも一回りぐらい大きい。
摘んだり、つねったりしてみても何にも感覚がない。
当然だ。それは私の手ではないからだ。
寝ぼけていていまいち実感できないけど、私、誰かと同衾しているみたい。
落ち着くのよ、あやめ。
銀さん以外の男と寝るなんて、私はそんな尻軽女じゃないわ。
だから、こんな手、きっとまやかしなのよ!!これは夢だわ!!
ぎゅううううううっと思い切りつねった。


「痛えだろォ!!コノヤロー!!」
「その声は銀さん!!夢じゃないかしら!!」
しかえしとばかりに、銀時は広げていた手のひらをぐっと握りしめた。
「ああん、痛いっ!!夢の中でもSなのね、銀さんんんん!!」
「夢じゃねーよ。人のてのひら、散々苛めてくれてありがとうよ!!3倍返しだコノヤロォォ!!!」
片手が両手に増え、乳絞りのようにしばれる痛みが走る。
どことなくにやけた顔なので本気かどうか怪しい。しかしその力は益々強くなるのでついにあやめも白旗を揚げた。
「あの、本当に痛いわ!!千切れちゃう・・・・」
「だったら、俺の右手に謝れ。」
ぐっ、といくつか痣になった手のひらをあやめの目の前に突き出した。
「ごめんなさい、銀さんの右手。」
ちゅっ、と優しく口付けた。
「じゃあ、俺もお返しだ。」


二人が寝床から起き上がるのはもうしばらく後になりそうだ。



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