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『月夜の秘め事』

今宵は満月だ。
月の光は闇に染まった街を淡く照らし、皆に等しくマナを降り注ぐ。
サプレスの者に恵みをもたらすその光は、他の者達にも充分に魅力的なものだ。まさに今、その輝きの美しさに魅せられた男が一人、夜風に当たりながら月を見上げていた。

緑髪の大柄な男ーフォルテは旅の道中世話になることになった、このギブソンとミモザの邸宅にある庭でのんびりと酒を楽しんでいた。グラスに注がれたブランデーはもう半分ほど彼の喉を通り過ぎたようだ。バランスを崩した氷がカラン、と音をたてる。
(ん?あれは…)
庭で存在感を放つ木に背を預け夜空を眺めていた彼は、ふとあることに気づいた。

バルコニーに二つの人影がある。
普段より強く照らす月の光によって、それがトリスとバルレルであると認識出来た。二人もまた、フォルテと同じように月を見上げている。
夜の色が濃く、深くなったこの時間に一体何を話しているのか。さすがに会話までは聞こえないが時折垣間見える彼らの表情は普段の二人そのままで、大方の予想はつけやすい。

(野暮だね、俺も)
まるで覗き見しているような感覚に襲われたフォルテは自嘲するとグラスを傾けた。

だがそこはフォルテ。見るな、と言われるものほど見たくなるものなのだ。
改めて視線を彼らにやると、どうやらトリスは先に戻るらしい。バルレルに手を振って見せると室内に戻って行ったようだ。
対するバルレルを見て、フォルテは興味をそそられた。

彼の、去りゆくトリスの背中に向けた表情は、とても普段見ることの出来ないものだったのだ。
どこか穏やかで、それでいて真剣で、だけれど少し複雑そうな。

(へえ…)
これは面白いモンが見れた、とまた一口、ブランデーを口に含んだフォルテはそのまま目を見開いた。


バルレルがこちらを見て笑ったのだ。
月を背に、ゆらりと尻尾を揺らしながら不適な笑みを浮かべるその姿は、まさに。

(ちっこいナリしてるけど、さすが…悪魔、だな)

ああ、そういえば悪魔は人間の感情を読みとれるんだったか。

バルコニーから姿を消したバルレルに「こりゃ一本とられたな」とフォルテは呟いた。


「なに言ってるのよ?」
突然届いた声を辿ると相棒の姿があった。
「ケイナ」
「一人で飲んでたの?今、何か言ってなかった?」
「んにゃ別に。ネスティには内緒だぜ?」
「??ネスティに…?」


とにかく、今宵は綺麗な満月だ。


fin


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