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ではおまけのSSを・・・



『MOVE ON 番外編』 〜佐々木の憂鬱・高原の杞憂〜


最近高原の様子が変だ。

まあ、前から外ではこれ見よがしに他の可愛い子を見つけてはちょっかい出してみたり、
俺とはただの友人風情に接していたのだ。
それがあいつのスタイルで、俺自身も束縛や不自由さが嫌いなので構いもしなかった。
尚人が身近になってからは嫌がる祐二の反応が楽しいのか、
尚人ばかりにちょっかいを出していたのだけれど。

「秋人、探したぞ。どこ行ってたんだ」
まただ。
うっとおしいにもほどがある。
「・・・ずっとここでこの本読んでただけだ」
俺は医学部受験対策用の問題集を高原の目の前に突きつけた。
「講義出ないならそう言えよ。途中で抜けるわけにも行かなくて気になってたんだ」
その言葉は本当のようで、ほっとしたような表情のまま俺の座っていたベンチに腰をかけた。
「別にいいだろ。もうレポートは出したし、それより俺は入学し直しの勉強のほうが今は大事だしな」
その言葉に高原は身体を硬くした。

高原が気にしているのはこのことなのはわかっている。
俺は父親の仕事を継ぐと言っては変なのだが、医者になるために医大を受験し直すことにした。
もう一年で卒業なのはわかっていたが、医学部の無いこの大学に残っても意味は無く、
一年でも早く新しい道に向かって進むのが懸命だと考えたからだ。
でもそんな俺に対して高原は戸惑っているのだ。
今まで同じ学部で同じサークルで自由な時間までも共有していたのに、
いきなりまったく違う環境に離れるのだから仕方が無いとは思っていた。

「・・・今日はもう帰るだろ」
高原は俺を窺うようにしている。
そんな姿を見せられて見捨てていけるほど俺も薄情ではない。
「ああ、帰ろう。今日の夕飯はお前に任せてもいいんだろう?」
すると急に目を輝かせ、俺に身体を近づけてきた。
「勿論だ、今夜の献立も色々考えていたからな。和食と思っていたけど、
秋人が食べたいものがあるんなら今からならなんでも作れるぞ。パスタだって中華だっていいし、それとも」
「和食でいいよ、お前のことだからなんか下ごしらえしてたんだろ」
本当は夕飯どころか、食事に関しては一切を祐高原に任せていた。
元々出来ないわけではないが、高原と祐二には敵わない。
最近は尚人も祐二に習っているのかかなり料理が出来るようになったとは聞くが、
たまに遊びに来ても料理担当は高原と祐二になっていた。

まあ、それはいいとして。
このべったりと引っ付いて離れない様子は何なんだ。
24時間体制で俺から離れたがらないのは止めてほしい。
今は俺の部屋にほぼ同棲状態でいるのだから、どこかに離れていくことも無いというのに。
何がそんなに不安なんだ。
俺はついそんなことを真剣に考えてしまっていた。

「・・・・秋人?」
「お前、何でおれにそんなに尽くす?俺はお前から離れていくつもりもないし、
離すつもりもない。ただ大学が変わるだけでマンションだってあのままなんだ。
たしかに遊ぶ時間は減ったけれどいつも一緒に居るだろう」
「秋人はわかってない」
「何がだよ」
祐二は近づけていた身体を戻し、うつむいてしまった。
「お前は新しい先を見据えて動き出してしまった。
俺は、俺の予想していた未来を変えられてしまってどうしたらいいのかわからないんだ」
「予想していたって・・・」
「このまま大学を出たら、同じようにどこかの企業に就職してそしてそのまま今のように付き合っていけたらと思っていた。
けれどお前は医者になると言い出した。俺は先に社会に出てそれだけでもずれてしまうのに、
医者なんかになったらもう俺とは接点までなくなってしまう。
一緒に暮らすことは出来るかもしれないけれど時間もずれてその意味もなくなってしまいそうで怖くて仕方がないんだ」

俺は唖然とした。
こいつはこんなものの考え方をする奴だったのか。
いつもどこか飄々と居ていて、それでも熱い気持ちを持っていて、俺はそんなこいつに救われてきていた。
俺がこいつから離れていこうとしても、きっと抱きとめて離さないでいてくれるとどこかで確信に近い思いでいたのに。

そうだ。
この間尚人が言っていた。
『祐二ってきちんと好きだって言葉で言ってあげないと不安になるらしいんだよね。
だからたまにね、
たまにだけど抱きしめて「好き」ってはっきり言ってあげるとそれだけでいつも通りになるから面白いんだけど。
なんかさ、子供みたい。でも可愛いよね。・・・高原さんって祐二と従兄弟同士だけどそんなことない?』

同じだ。
こいつら、こんなとこまで似てるのか。
俺は急に可笑しくなって吹き出してしまった。

「・・・酷いな秋人は」
笑いが収まらない俺に向かって高原は呟いた。
「酷いのはどっちだ」
俺に言葉に驚き顔を上げた。
すかさずその顔を両手で挟みこむように押さえつけ、俺の正面を向かせた。
「よく聞けよ。俺は大学が変わろうと医者になろうとお前が好きな気持ちは変わらない。
時間がずれたっていいだろ?お前の愛情一杯の料理でも作ってくれればそれだけで俺は満たされる。
俺はお前に何をしたらいい?何をしたら安心できるんだ?」
「秋人・・・」
「俺はな、欲張りなんだ。医者にもなりたい。家族とも今まで以上に関係を良くしたい。
そしてお前と一生一緒に生きて生きたいんだ。
それを全部手に入れるためにはお前に何をしてやったらいいんだ。教えてくれ」

俺はここが学校だということを忘れていたわけではない。
周りに何人か人が居ることも見えていなかった訳ではない。

でも今はこいつに、気弱になっているこいつに喝を入れるつもりで乱暴に口づけてやった。
大きく目を見開き、驚いている様がよくわかったが止めてやるつもりはなかった。
高原はしばらくそのまま硬直していたが、急に我に返ったようで俺の身体を押し離した。

「もう大丈夫」
「何がだ。俺はまだどうしたらいいのかお前から聞いていないんだけど」
「だからもう大丈夫だ。さあ、今日の夕飯は時間がかかるから早く帰ろう」
俺の腕を掴み、立たせたかと思うとそのまま勢いよく俺を引っ張りベンチから離れた。

急ぐ足取りを見ていると心なしか楽しげに歩いているように見えてきた。
こんなので本当に解決したのか、こいつの気持ちは。

そしてまた尚人の言葉を思い出した。
『先輩、祐二は尻に敷いてあげた方が安心するタイプなのかな。僕もうちょっと強くなったほうがうまくいくのかもね』

その通りだな。
揺ぎ無い強い愛情を見せてやれば安心していつもの平穏な生活に戻れるのならそれに越したことはない。
俺にとってもこの男はかけがえのないパートナーなのだから。

「夕飯作ってる間、ダイニングで勉強してもいいか」
引っ張る腕を緩め高原はこちらを向いた。
「勿論だ」
滅多に見ることのない満面の笑顔に俺は少し気恥ずかしさを覚えた。

そういえば尚人は祐二の一喜一憂をまるで女神のような微笑で見守っているなと思い出した。
それを考えると、よく高原や祐二に『秋人は女王様だから』と言われるが、
実は尚人の方がそうなんじゃないかと俺は思い始めた。



2007.09.04
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オチ付きでしたがいかがでしたでしょうか。

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