太陽の使者 鉄人28号 こばなし・その 38   ~ たからもの  ~

「パパ……、ママ……」
 どこからみても完っ璧。
 きらめくラインを思いっきり抱きしめる。
「ありがとう! 一生の宝物にするわ!」
 念願のあたらしいラケット。嗚呼、何年越しかしら!
 道具は大切にしなさいって、ニューモデルを何度も見送って……。でもでも、とうとう手に入れたわ!
 うっとりと、まさに天にも昇る心地が、正太郎くんと目があって我に返る。
 私ちょっと、はしゃぎすぎ?
「正太郎くんは?」
 照れ隠しにコホンと咳払いをして、すまして聞いてみる。
「正太郎くんの宝物って、なあに?」
「え?」
 首をかしげるから驚いた。
 鉄人でしょ? ぜったいすぐそう返すと思ったのに。
 迷うように視線をただよわせて、それから、正太郎くんは口をひらいた。
「ぜんぶ、かなあ」
「ぜ、全部?」
「うん。ここにある全部」
「…………」
 正太郎くんの『ここ』は世界中って意味かもしれないし、ひょっとしたらこの宇宙って意味かもしれない。
 まあ『このリビングにあるもの全部』って意味だったとしても、負けたわ。
 うん。すごくらしい。もちろん心底本気で云ったってわかってる。そんなふうに思う理由もいろいろ少しは分けてもらってきたから。
 心の内では降参の両手をあげて、でもちょっとニヤついてしまう。
「つまり」
 勝ち誇ったような顔しちゃってるかも。正太郎くんがちょっと身構えるように眉をよせた。
「それって、この私も正太郎くんの宝物ってことよね!」
「えっ。……マッキーは、抜かそうかなー」
「抜かないでよっ」
 パパと警部が同時にふきだしたのを睨みつける。
「だってだって、そういう話でしょ?」
「いやー」
「わたしの宝物はね」
 私たちが鉄人と同列だなんて話、はっきりもう一度云わせたかったのに、パパが助け船をだしてきた。
「牧子。正太郎くん。きみたちが、わたしの一番の宝物だよ」
「あら同じね」
 パパとママが顔をみあわせ微笑む。
 そんなの当然って思ったけど、正太郎くんは驚いた顔をして、それから照れたように笑った。
「ありがとうございます」
「よーし」
 大塚警部が両手でヒザを打って身を乗り出してくる。
「真打ち登場じゃな。わしの一番の宝物は……」
「きょうのヘイオン!」
 正太郎くんと私の声がばっちり揃った。
 今日の平穏が一番、って警部の口癖だもの。
 お?って顔の警部に、こっちが驚いちゃうわよ。
 みんなで笑って。
 私の誕生日。みんなでこうして一緒にケーキを食べて笑ってる。
 確かにこの時間は、今日の平穏のおかげね。
 警部の宝物が……、ううん、みんなの宝物が、明日も明後日も、どうか、ここにありますように!

 

     (おわり)

 


 ■あとがき■

 またケーキを食べに来ている警部です(^_^)
 祈って終わるパターン多いですが、いろいろ祈りたくなる昨今です。正月から「鉄人がいたら!」と思う年明けでした。
 みなさまが、どうか平穏に過ごされますように。

      2024.2.14 WebUP




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