【コバナシ】

鈴宮家の夜の風景①



抜き足

差し足

忍び足


ぎしりぎしりと足音を忍ばせて近づく人影がひとつ。

とある部屋まで辿り着くと足を止めて中の様子を覗う。

月明かりの下、障子に映し出された影の口元がにやりと弧を描いて歪んだ。

夜の帳が降りてから大分経ち、そろそろ良いかと足を運んでみたのだが。

どうやら丁度良い頃合だった様だ。

部屋の中の住人はどうやら眠っているようで夜風に紛れてスースーと寝息が聞こえてきた。

すすす~と音を立てずに障子を開けるとスルリと中へと入る。

後ろ手で障子を閉め、にやりと笑った。

『うふふふ~成功♪』

口元に手を当ててにやにやと笑いながら侵入者は喜びを噛み締めた。

『最近邪魔されてなかなか来れなかったんだよね~。』

そう呟くと目の前の布団の側に腰を下ろし、その寝顔をそっと覗った。

『可愛いなぁ~♪』

スヤスヤと眠る横顔は幸せそうで。

太陽の下で笑う彼女も魅力的だが、月明かりに照らされて眠る姿はどこか儚げだ

どこぞの御伽噺に出てくる眠り姫のようで魅力的だった。

『ほんと可愛いよね~北斗ちゃんは。』

じっと気が済むまで彼女の寝顔を堪能する。

『う~ん、拙いなぁ~。』

ムズムズする感覚に頬をぽりぽりと掻きながら呟いた。

『キス・・・しちゃおうか?』

本来自分の欲求に忠実な男は怪しげに微笑むと、ゆっくりと顔を近づけていった。

そのすぐ後に軽いリップ音が響く。

少し離れて彼女の顔を見つめていると、小さく身じろいで仰向けになろうとする。

上に顔を向けた時、唇が掠めそうになったが顔を引いて免れた。

『まだ、だものね。』

くすりと笑うと彼女の頬をそっと撫でる。

起きている時ならまだしも寝ている時に、しかも事故でしてしまっては彼女に悪い。

頬にしたのも彼女を大切に思っているからで。

本人がその気になってくれればいつでも大歓迎だ。

いくらでもしてあげる気は十二分にある。

『その時は言ってね♪』

あるかもわからない未来に幾ばくかの希望を込めて囁いた。

暫くの間可愛い寝顔を堪能していた男は、ふあ、と欠伸を噛み殺す。

『ん~眠くなってきちゃった。』

目を擦り、そおっと布団の中に滑り込む。

『添い寝、してあげるね♪』

勝手な事を言いながらにっこりと微笑むと、彼女の寝息を子守唄に眠りについた。


数時間後。

たまぎる少女の絶叫と、慌しく廊下を走り抜ける騒音が屋敷中に響き渡った


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