『プチ☆主談義?』




「奴良組の帰る場所になれ」




そう告げて宝船に乗り込んでから早半時

その宝船の中では、リクオに付いて来た二匹の主達が目的地に到着するのを今か今かと待ち構えていた


「そう言えば、さっき君が話をしていた娘はあの時の雪女だよね」


九州に入るかというその手前で、船の先端で腕を組みながら到着を静かに待っていたリクオに、子犬を懐に抱えた玉章が声をかけてきた

その思いがけない問いかけに、リクオは思わず瞳を開けると、ちらりと視線だけを向けて玉章を見た

見下ろした玉章の顔は相変わらず無表情だ


何を考えているのかわからない


リクオは直感的にそう思うと、どう答えようかと頭の中で考えた


あの雪女とはあの『雪女』の事である


リクオは玉章の表情を窺いながらゆっくりと答えた


「氷麗がどうかしたのか?」


「へぇ、氷麗って言うんだあの娘」

興味深げにこちらを見てきた玉章に、リクオはしまったと眉間に皺を寄せた

慎重に答えたつもりが墓穴を掘ってしまったようだ


宝船に乗って来たとはいえ、あの玉章だ

またよからぬ事を考えているかもしれない

しかも氷麗はあの時、玉章の一番の側近であった夜雀を倒した経緯がある

決着はついたとは言え一番のお気に入りを倒した氷麗に対し、腹の中に恨みの一つや二つ渦巻いていてもおかしくはないだろう

リクオはその危険性に、胸中で己の失態に舌打ちした

「だからなんだ?」

「ふふふ、そう怒らないでよ、別にとって喰ったりはしないからさ……ただ」


「ただ、なんだ?」

玉章の含んだ言い方に、リクオは片眉を上げて聞き返した


「ただ……君にもしもの事があったら、あの氷麗って娘はどうなるのかなって」


リクオの反応を面白そうに窺いながら、玉章は懐に抱いた子犬の頭を撫でるとそんなことを言ってきた

その言葉にリクオの瞳が見開かれた


「そんな事には……」




「まあでも、その時は僕が面倒見てあげるよ」




は?


「そんな事にはならない!」と、はっきり言おうとしたリクオの言葉を遮るように玉章の声が重なってきた


今、この男はなんと言った?


その信じられない言葉の内容にリクオは一瞬呆けた

リクオは口をあんぐり開けたまま、目の前で涼しい顔をしながら子犬の頭を撫でている男を見下ろす


「お、おま……何を……」


口をパクパクさせてこちらを見るリクオに、玉章はくすりと口元に笑みを作ると更に言葉を続けてきた


「何って……夜雀を倒したほどの娘だからね、僕の八十八鬼夜行に加えても十分役に立つと思うし」


「それに僕面食いだから」

そう言って見上げてきた玉章の顔は憎らしいほど涼しいもので

あの娘なら合格点だ、とニヤニヤと笑う玉章の顔面に蹴りをお見舞いしてやりたくなった


「そんな事にはならねえ!!」


リクオはありったけの大声で断言する

決意をメラメラと燃え上がらせて見下ろしてきたリクオを、玉章は挑発的な瞳で見返す

二人の間にバチバチと火花が散る

そして、そんな二人から離れた場所では、酒飲み愚連隊の主が面白そうにニヤニヤしながら二人を見ていた


「そうかい、まあそうならないように精進することだね」

「言われなくてもわかってるわい!」

くすりと笑いながら言ってきた玉章に向かってリクオは叫ぶように言うと、くるりと背を向けてしまった

そんな男の背中を玉章は面白そうに見つめる

そして――


「まあ、危なくなったら僕は逃げるから、君は後の事は心配せずに鵺を倒してくれればいいよ」


追い討ちとばかりにそんな事をぽつりと呟くのだった


ここに一人ライバル出現?


そんな玉章の呟きを背後に聞きながらリクオは胸中で叫んでいた




絶対に絶対に!


そんな事させてたまるか!!


いや、もう絶対意地でも生きて帰ってやる!!!


リクオの心に新たな決意が芽生えた瞬間だった







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