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お礼SS宍戸です。
ではどうぞ↓

















「あれ?先輩ケガしてますよ」





よいせッ、とテニスボールの詰まったかごを持って歩き始めたあたしの腕を見て、長太郎はわずかに眉をひそめてそう呟いた。











【 きず 】












「ケガ?」
「はい。ほら、ここ」
「あ、ホントだ」




部活終了後の騒がしいコートの中、カゴを抱えた体勢のまま立ち止まってしまったあたしの腕を、長太郎が心配そうに見ながら指差す。

見つめられる視線の先、右の肘あたりには確かに血が滲んでいて、見た所そう深くもない擦り傷のようなものがある。




「……なんかで擦ったのかな、全然気づかなかったよー。よく気づいたね、長太郎」
「いえ、丁度タオルを取ろうとしたら視界に入ったので………それより先輩、手当てしましょう。痛みますか?」
「長太郎に言われるまで気づかなかったくらいだよ、痛みなんかないって。それより片付けしちゃうから、使い終わったタオルちゃんと洗濯籠に入れといてねー」






心配そうな長太郎の視線を振り切って、(なんだか今にも救急車でもよびそうな勢いだが)ボールの詰まったカゴを抱えたまま身を翻すと、いきなり横から伸びてきた腕にカゴを奪われる。

テニスボールが山ほど詰まった重いカゴを奪われたせいで、思わずバランスを崩しそうになりふらついたあたしを、奪い取った腕の持ち主は「何ふらふらしてんだよ」と言いながら軽く支えてくれる。























トン、という軽い柔らかな衝撃と、呆れたように上から降ってきた声。























「………誰のせいでふらついたと思っ……ってゆーか、いきなり何すんのよ宍戸。まさか今からボール使うつもり?」
「バーカ、誰が今から球使うっつったよ。おい長太郎、部室から救急箱持って来い。んで、お前はそこのベンチに座っとけ」
「は?アンタまたどっか怪我したの?どこよ?」



長太郎に救急箱を取りに行くよう指示した宍戸の言葉に、どこか手当てしてほしい所があるのかと、その手足を一瞥したが、見たところ今すぐ治療が必要な程の新しい傷はない(かさぶたとか古い内出血の痕などの古傷なら沢山あるが)



眼に見える傷ではなく、関節に痛みでもあって冷却スプレーでも欲しいのだろうか、とあたしから奪い取ったカゴを片手で持ったままの宍戸を見るが、特に痛みを堪えるような表情をしているようにも思えない。



とりあえず片付けしなきゃ、と未だ宍戸がかかえたボールに手を伸ばすと、「怪我人は大人しく座っとけ」と伸ばした右腕指されて軽く制される。



「………怪我人って…もしかして、この傷の事?アンタ、そんな大げさな」
「部活中、俺がちょっとでも傷作ったらギャーギャー騒ぐくせに。大人しくそこで長太郎待っとけよ」
「あ、ちょ、ボールあたしが片付けるんだから、そこ置いといてよ!」
「……お前に任せてたら日が暮れちまうっての」




馬鹿にしたような口調でカゴを運んでいった宍戸を追いかけようと立ち上がりかけた瞬間、「お待たせしました!」という声と共に長太郎が救急箱を持って現れる。




「サンキュー長太郎。そいつちゃんと手当てしといてくれよ」
「はい、任せてください宍戸さん!」
「え、あの、いや、でも」
「それじゃ先輩、腕見せてください」



てきぱきと治療の準備をしだした長太郎に慌てて「ホントいいから!大丈夫だから!」と言うが、意外にも頑固な後輩は聞く耳もたずで、手際よくガーゼやら絆創膏やら取り出している。


なんて大げさなんだ、このダブルス2人組は…!という思いで宍戸を睨めば、既にマネ業務であるはずの片付けをさっさと始めている。




「ちょっ、待っ、宍戸それホントにあたしの仕事だから!おいといてってば!」
「っとに、しつこいなお前も。おい長太郎、さっさとこいつ手当てして黙らせとけ」
「しつこいって、だからそれはあたしの―あ、そのドリンクボトルはそこじゃなくて、」
「いーから、さっさと薬でも絆創膏でも貼ってもらえって。…………曲がりなりにもお前、女だろーが」
「………………………は?」






















「女が体に傷作ってんじゃねーよ。痕が残ったら嫁にいけなくなんだろ」
















ったく、こんな事言わせんじゃねーよ、と照れ隠しなのかぶっきらぼうに言い捨てて踵を返した宍戸の言葉がうまく理解できなくて、思わずぽかんと立ち尽くす。












『怪我人はおとなしく座っとけよ』












『お前に任せてたら日がくれちまうっての』












『曲がりなりにもお前、女だろーが』



















たかがこんなかすり傷なのに。












いつもは何があっても女扱いなんて、絶対にしないくせに。











「…………………………不意打ちは卑怯でしょ……」







小さくなっていく後姿に呟いた言葉は勿論届くはずもなく。











背後で消毒液を握り締めた長太郎の、「さすが宍戸さん……!!!やっぱりかっこいいなあ………!!」という言葉に、生まれて初めてライバル意識が芽生えた日でした。





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