(加地天)



触れそうで触れない指先。

そんなスリルを楽しんでいる。

隣を歩くその人は、恋人ではない。



けれどいつからか隣を歩くことが増え、

くだらない話や、真剣な話や、どうでもいい議論を繰り広げながら

笑い合っている。



不意に、友人を見つけて走り出そうとする彼女。

待って、と思わず引き止めて、掴んだ腕。



細くて、やわらかな感触に、どきりとした。

驚いた彼女が振り返り、目が合って、

喉元まで「好き」がせり上がってきたけれど、

一歩手前で、弱音に変わる。



「危ないよ、急に走ったりすると。」



それは優しさに見せかけた逃げ道。

一瞬黙った彼女は、小さく息を吐くと言った。



「案外臆病なんだね。」



それは何に対しての言葉なのだろう。

はっとして、じっとその目を見返してみたけれど、わからない。



けれど気がつけば掴んでいたはずの腕はほどかれ、

代わりに彼女のそのか細い手がこの手を握り締めていて困惑。

もう一度その顔を見ると、その澄んだ瞳で、まっすぐな声で言った。



「そう思うのなら、離さないでよね。」



それはどういう意味なんだろう。

確認するよりも先、そのまま彼女が歩き始めたので、

為す術もなくただ、その手をギュっと握り締めるのだった。





『触れられないからこそ、触れた時の喜びを噛み締める話』





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