いつもの様に歓楽街を歩いていたゼレットはふと視界の端に気になる物を見つけて立ち止まった。 閉じたシャッターの前に広げられた数々のアクセサリー。さして珍しくもない露天なのだが。 「いらっしゃいませ」 商品の向こう側に座っている青年が声をかけて来た。 どうぞ、手にとってみて下さいという言葉に甘えて、ゼレットは自分の足を止めた物を摘み上げる。 小さなピアスだった。 銀色の台座は繊細な細工がなされ、派手なのに上品さは失っていない。そして台座にはまっているのは、美しい緑色の石。 「それ、僕の自信作なんですよ。石は人工なんですけど、それも僕が作って」 青年の説明に納得したように、ゼレットはピアスを街灯にかざした。天然ではなかなか見ることのない、珍しい色合い。 ゼレットは、唐突に何故このピアスが気になったのかに気が付いた。 少しだけ、ほんの少しだけ似ているのだ。いつも見ているあの稀有な翠色に。 この小さな石よりもっと奇麗で、もっと力強くて、色んな表情を持っていて、もっと、もっと・・・。 そこまで考えてゼレットは持っていたピアスを置いた。 まだ夜は始まったばかりだから。 呼び出して酒でも飲みにいくか、何時ものように押しかけて夕食にするのも良いかもしれない。 とにかく、本物が見たくなったのだ。 力に満ちて美しいあの 皇帝の翠 が。 そのままアクセサリーの前から立ち去ろうとした時、悪戯を思いついてゼレットは笑みを浮かべた。 他の商品を見渡し、その中から同じように上品な細工がされた小さなリング状のピアスを手に取る。 「ありがとうございました」 見送りの声を背に、ゼレットは携帯電話を取り出した。 さて、相手の反応が楽しみだ。 ゼレットは込み上げる笑いを必死に押し殺した。 Copyright (C) 2005 Suou Mizunoto and Tuduki All Rights Reserved. 無断転載厳禁 |