世界が、真っ白だ。雪が音を吸うからか、辺りはとても静かで自分の呼吸の音がやけに耳に響く。
は、と吐いた息も白くて、このまま白に溶けてしまいそう。
明日の朝はさぞかし寒いだろう。きっとみんなのはしゃぐ声で目が覚めるに違いない。
それを思うと、少し心は温かくなった。
「……寒いなぁ」
独り言も、雪に吸い込まれて消えていく。
両手を擦り合わせて、静かに鶴丸は再び歩き出した。
素足には濡れ縁の床がしみいるように冷たい。
足袋を履け、と口うるさくいってくる昔馴染みのいうことを今夜くらいは大人しく聞いておけばよかったと思った。
音を立てないようそろそろと、廊下を進む。
大体の者が寝静まっただろう夜は本当に、とても、静か。
世界で一人ぼっちみたいに。




何度か角を曲がり、目的の部屋の前についた。
手も足も体も、芯から冷えてしまった。
そおっと襖を開けると、部屋の中心の布団の上はこんもりと丸い。
静かな寝息が聞こえて知らず頬が緩んでしまった。
滑り込むように部屋の中へ入り、後ろ手で襖を閉めなおす。
部屋の中は温かく、隅の方では先ほどまで燃えていただろう火鉢が名残の赤をちろちろとその上で燃やしていた。
ほっと息を吐いて、布団のそばまでにじり寄った。
聞こえる寝息に誘われるように覗き込むと、鶴丸を置いてさっさと寝床へ引き上げてしまったつれない男が眠っている。
寝つきのいいやつ、と心の中で文句を一つつぶやいて、容赦なく布団をめくりあげた。
よいしょ、と隣にぴったりくっついて、嫌がらせのように抱きついてみる。
どうだ。真夜中で冷え切った体はさぞかし不快だろう。
温まっていた彼の体は、とても心地が良かった。
「っ、ん……鶴丸殿…………?」
「んー」
「………………追い出しますぞ」
「つれないこと言うなよ。先に寝たきみが悪い」
三条の宴(というよりも酒飲みの会)に誘われてついつい夜更かしをした自分が悪いのは分かっていても、一緒にいたはずなのにいつの間にか裏切って先に姿を消した要領のいい恋仲の文句なんて、今は絶対に聞きたくない。絶対に。
「………………遅かったですね」
「石切丸の恋愛相談とやらを聞かされてた」
「それはそれは」
「あと三日月がいなくなったから探したらあいつ、縁側で雪見酒してた」
「……そうですか」
「…………きみもいないから、ちょっと焦ったから仕返しだ」
冷えた体が、一期の体温で温まっていく。
ふ、と笑う声がして抱き寄せられた。
「素直に一緒に寝たいと言えばよろしいのに」
「うるさい」
「おやすみなさい」
「……うん」
二人分の体温を分け合って、目を閉じる。
すぐにまた寝息が聞こえてきて、本当に寝るのかよ、とちょっとだけ恨み言をつぶやくけれど、ここのところ出陣続きの彼のことを思い出して少しだけ悪いことをしたかなと思った。
とろとろと眠気の波が鶴丸を揺らす。抱きしめられている腕の暖かさは、やはり何物にも代えられない幸福だと、ふと思った。




朝起きると一期はもういなくて、寝過ごしてしまった鶴丸が光忠にご飯ないよ、と怒られそうになったのは別の話。

「きみの仕返しって意地悪だよな!」
「真夜中に起こされた上に布団を冷たくされた私が怒ってないとでも?」




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