ありがとうございました!これからも生暖かく見守って下さいませ☆
ささやかなお礼を込めてSSを出しました。こちらは肉1です。
関東某所の山中をザ・ニンジャはその先にある地を目指し、道なき道に歩を進めていた。十有余年前、悪魔将軍の誘いにより悪魔六騎士として彼に仕えると決めた時には、もう二度とこの地を訪れる事もないと思っていた。しかしそこからいくつもの出会いや戦いによる変遷を経て、自分は再びこの地へ戻り、今後の自らの活動拠点かつ終の住処として自然と選んでいた。そうした複雑な感情がある『この地』は、かつての彼が日々を過ごした忍びの隠れ里。しかし、もうそこで日々を暮らし、自分の帰りを待つ者など誰一人いない。それどころか何もかも全てが跡形もなく失われた場所だった。若き日の自分が自らの理想を体現しようと、志を同じくして甲賀の里から共に出奔した数少ない仲間達と一から作り上げ、日々を過ごし、そして――部下であり一番の友と信じていた存在の裏切りにより仲間達を、何より自らの理想そのものを壊され、失い、潰えた――いわば彼の若き日々の墓標とも言えるだろう場所。それでも、いやだからこそか、悪魔将軍の元を離れキン肉マンソルジャーと共に超人アンタッチャブルとしてかつての自らと同じ轍を踏もうとする者たちを捕縛し、更生への道筋をつける任務を得た自分が今後過ごし、後継を育む地はここでありたかった。かつての仲間達の菩提を弔いつつ、もう一度あの日の志と仲間の願いをあの時とは違った形で追い、体現するためにも――再建とはいえ、今度は誰の手助けもなく一人で一から里を作らなければならない。しかしそれが仲間の眠るこの地を一度打ち捨ててしまった事に対する自らの贖罪であり、その仲間達が自分に託してくれた理想と遺志をもう一度継いで、それをまた未来に繋げる事になると自分は分かっている。故に一人である事など決して辛い事ではなかった――
「どういう事だ…?」
彼は自らの視界に広がる光景に目を疑う。確かにかつて里だった地は荒れていた。しかし、自分が覚悟していた様に、十有余年打ち捨てられたままに荒れ果ててはいなかったのだ。草木は十分ではないとはいえ刈り取られ、新たに建てられていた簡素な小屋の横には、狭いものとはいえ作物が植えられた畑まである。何より仲間達の墓が特に綺麗に整えられ、懇ろに供養されている事も伺い知れた。つまり、この場所で永年に渡り彼らを弔いながら生活をしている者がいるという事。最初はこの場所を偶然見つけた誰かが打ち捨てられていた仏達を不憫に思い弔っているのかとも思ったが、それぞれの墓に手向けられている花を改めて見た時、その考えは打ち消される。その花は『手向けられた者達の在りし日』を知らなければ決して手向ける事ができない花々だったからだ。そうだとすれば、自分の生まれ育った甲賀の里の長なり重鎮なりが関東の拠点にすべく、この地に誰かを遣わしたのだろうか。いや、それも違うだろう。本人の意思がどうであれ、傍流の身でありながら本家を凌駕する天賦の才と努力による実力を持った彼を、本家や本家に仕える重鎮達は里の不穏分子として疎んじていた。そしてそれこそが自分達があえて本家の里を出奔する形でこの地に自らの里を作り上げ、そして本家の手により壊滅させられた理由であったのだから。もし本家の命を受けた者であればむしろ里にとって『裏切り者』である彼らの墓など打ち捨てるままにするか、見せしめとして真っ先に破壊するはずだ。ならば本家の意向とは関係なくこの地で墓守として暮らす『里の者』とは――心当たりも、その心当たりが当たっているだろう事を伺わせる物も確かにあった。しかし、同時に彼は『その者』が自分達と同じくあの里を出奔するともできるとも、到底思えなかったのだ。何故なら結果としてその行いは本家自身の手により無駄にされたとはいえ、『その者』は出奔する自分達を案じる余り、表面上の扱いがどうであれ、本質は本家に対して『翻意無し』の証を示すための『人質』という本家の手駒となる形で、自らあの里に残ったのだから。そしてもしその気持ちを翻し同じく出奔したとして、既にこの場所を知られている以上、直ぐに追手を放たれその命を奪われるか、そうでなくともその追手達から身を守らなければならないのだから、今見えている景色が示す様な穏やかさで永年暮らしていられるとも思えないのだ。ではここにいる者は――そうしてどの位彼はこの景色を眼前に佇んでいただろう。不意に木々がざわめく音と共に、奥から藪を分け入って若い女が現れた。農作業姿に手ぬぐいを被り、背負子を負っている事から山菜か何かを採りに山の中へ入り戻って来たのだろうその女に、彼は全く見覚えがない。しかし見覚えがなくともその眼差しと自分を見た時の表情で、彼は『その女』が自分の考えていた通りの存在であった事を確信する。その確信のままに彼はその女に言葉をかけていた。
「お前は…千早……千早だな」
やはり驚いた表情で彼を見つめたまま立ちすくんでいたその女は、その言葉で彼に対する懐かしさと嬉しさが零れ落ちた笑顔を見せ、被っていた手ぬぐいを取り一礼すると、その表情のままの声と口調で言葉を返した。
「はい。兄上…お帰りなさいませ。何より任務とはいえ、永の旅……お疲れ様でございました」
彼女――名は千早といい血は繋がらねど幼少期は彼の父親の下で共に育てられ、そして彼女にとって養父に当たる彼の父親からも、彼女の実の母親からもその行く末の幸を託された、大切な『妹』であった――のその言葉は、彼がこの里を捨てた事を非難するでもなく、また彼のこれまでの行状に対する皮肉から発した物でもなく、純粋に彼の帰りを喜び、その『過酷だった任務』を終えた事に対する労わりから出たものである事は『兄妹』として共に暮らし、その生活の中で互いを熟知していたが故に良く分かった。しかし同時に、ある時期以降彼の行動は、周囲があれだけ大々的に広めていたのだから、彼女とて彼がここに帰って来るまでどう暮らし、何をしていたかを知らぬ訳がない。そんな自分であるのにどうして『それ』を全て『任務』だと言い切って、なおかつ労わる事ができるのか――その心のままに、彼は思わず問いかけていた。
「お前は…何故オレをそうして受け入れる事ができる。オレが『あの時』から今まで何をしてきたか、お前とて知らぬ訳がなかろうに」
彼女は穏やかな表情のまま、しかし同時にきっぱりとした口調でその問いに答えた。
「存じております。しかし内心とその行いの内容や結果がどうであれ、兄上はその時々に仕えた主から受けた命に従い、忍びとして任務をこなしていたではありませんか。望んでいた形とは違っていたかもしれませんが、そこにある兄上の忍びとしての心根に、何の違いがありましょう」
「…」
彼女の穏やかな笑顔と口調の奥に、彼はあの頃から全く変わらぬ自分に対しての絶対的な信頼と、彼女自身が彼や彼に付き従い出奔した彼女の師から身に着けた忍びとしての心構えがはっきりと見えた。そしてその心構えと、それを支えているだろう芯の強さが分かる眼差しで、若き日の自分や今は亡きこの里の者達、そしてその後自らの主や戦友となった者達と彼女が同じ志を持ち、その想いや願いは彼女の心身にも脈々と受け継がれている事も――それを理解した時、彼は小さく溜息を吐くと、苦笑い混じりだが、おそらくここを目指して辿り着いてから初めてだろうと自分でも分かる位張り詰めていた気を緩めた穏やかな表情を見せ、口を開いた。
「違うのだ。…と言いたいところだが、その様子だとお前はオレがいくらそう言っても聞かぬだろうな。…まあそれはそれとして、実はここに着くまで二日程全く休んでいないのだ。すまんがせめて白湯の一杯でも飲ませてもらえぬか。こちらは積もる話もあるしな」
「承知しました。わたくしも兄上にお話しする事が沢山ございますから。こちらは作業小屋ですので生活には向いておりませんが、簡単な食事と休息位は取れる様にはなっております。用意致しますのでどうぞ上がって休まれて下さい」
彼の言葉に彼女も穏やかな笑顔で頷くと、彼を小屋へ促す様に自ら歩を進めた。
|