ありがとうございました!これかも生暖かく見守って下さいませ☆
ささやかなお礼を込めてSSを出しました。こちらはドカ2です。
「まあそういう訳で、偶然とはいえこうして集まっちまった訳だし、今日は一旦シーズンの事は忘れた交流会って事にしようぜ?」
「確かに。今からお互い河岸を変えるのも面倒だし、店にも悪いしな。後半戦に向けて気分を改めるという意味も込めて一時休戦といくか」
「それに女子連は俺らの事情関係ないから、仲良くして欲しいしな」
「というよりあたしらの殆どが元々親友なんだから、悪いけど女の友情最優先で君らの事情なんて何があっても完全無視するつもりだからね」
「だよな」
「違いない」
「づんづら」
「久しぶりに皆と一杯喋れるし、お姉さん達や智さんからずっとお話を聞いてた人にも会えたしあたしはすっごく嬉しい!これからもよろしくお願いします、真理子さん」
「こちらこそよろしくね。サっちゃん…って私も呼んでいいのかしら」
「もちろん!」
「じゃあこういう面白い縁があった結果の一時休戦に、乾杯!」
『乾杯!』
交流戦も終盤に差し掛かった都内の居酒屋で、東京スーパースターズと四国アイアンドッグスのメンバーとその恋人達が楽し気に乾杯をした。元々はスターズの面々が偶然試合観戦に来ていたそれぞれの恋人も含め食事をと入った店で、偶然遠征中の四国アイアンドッグスの面々と行き会わせて行きがかり上こうなっている。更に言えばドッグス側は不知火の許嫁である大久保真理子も研修と会議のために都内に来ていたので不知火は彼女と二人で過ごそうとしていたところを真理子共々巻き込まれてチームメイトに同行させられたという、発端が不知火にとって不本意この上なかった状況が結果として彼女の親友も同行していたスターズの面々が加わった事で、ある意味チームメイトだけよりも彼の心情としては良い状況になっている事は余談である。そうしてそれぞれ楽しく雑談しながら飲み物や食事がある程度進んだところで、土井垣の恋人である葉月がノンアルコールカクテルを口にしながら感心した様に言葉を紡いだ。
「ここで初対面なのは、ヒナとお姫がドッグスの皆さんの大半、真理ちゃんがサっちゃん含めたスターズの皆さん…か。よく考えると、この人数が現時点でほとんど全員永年の友人か知り合いってある意味凄いわね」
「まあチーム創設の経緯やら編成の大半からして、中学高校時代からの腐れ縁連中が山田軸に二分した形で土井垣さんと小次郎さんの下に集まってる様なもんだし」
「まぁな」
「とはいえあたしは直に会った事がある不知火君以外は、三太郎君達の話でしか知らなかったドッグスの皆、特にバレエのコアな話でこんなにとことん盛り上がれるマドンナさんと知り合えて嬉しいわ。話してたら、あたしも久しぶりに踊りたくなっちゃった」
「そんな風に言ってもらえて、わたくしも嬉しいですわ」
「私はスターズの皆さんとも少し前に知り合ったばかりなのに、こんなに早くもっとご縁が広がって嬉しいです。…改めてドッグスの皆さん初めまして、神保若菜です。今後ともよろしくお願い致します」
「折角こうやって知り合ったのに固い、固いよ若菜さん!」
「公務員って言っても、プライベートはフレンドリーでもいいんですよね?」
「そんなに緊張しなくていいからさ、こっち来てもっと仲良…って、あれ?なんっか殺気がどこからか…って、おい」
「な~んでそんな怖い面してこっちを睨んでるのかな~?…義経さんよ」
外見は愛嬌のある日本美人かつ、その見た目と同じく大人しく控えめな性格が良く分かる言動が周囲の女性陣(特にマドンナ)の雰囲気と全く違う事もあり魅力的に見えているのか、ドッグスの面々が若菜をそれとなく口々に口説いていると、戸惑っている彼女の隣から殺気に近い雰囲気を帯びた鋭い視線が向けられている事に彼らは気づいた。その視線の主――義経――に代表する形で武蔵が問いかけると、彼が答えるより前に三太郎が軽い口調で彼らに言葉を返した。
「ああ、被害が出ない様先に言っとくが姫さんは義経の彼女、しかもこいつベタ惚れだからな。変な粉かけたら、漏れなくそいつはこいつが徹底的に絞め上げた上で呪うから覚悟しとけ」
「…」
「…やってもいいならそうしてやろうかという考えは確かにあるがな、俺も一応理性と常識は持ち合わせているつもりだぞ。三太郎」
「あれ?俺冗談で言ったんだけど。お前本当に呪いとかできるんだな、知らなかったぜ」
「…お前…よし分かった。ならばまずお前から体験してみるか?」
三太郎の言葉に、義経は一見普段通りの爽やかだが、目は全く笑っていない笑顔に変わると軽い冗談を装った、実際はその表情のままの感情が滲み出た口調で、若菜と二人で頼んだ日本酒を自分と彼女の盃に注ぎながら言葉を返し、若菜は恥ずかしさと困惑の混じった表情で沈黙したまま自分の盃に注いでもらった日本酒をちびりと口にした。その剣呑なやり取りに気付いた面々はドッグス、スターズ関係なくギョッとした様子で目を丸くして一斉に義経の方を向くと、口々に話し出した。
「…おい、今義経がサラッと恐ろしい事言ったぞ」
.「しかもいつもの爽やか笑顔と話し方でだぜ…?」
「いくらベタ惚れしてる彼女にちょっかいかける奴らが気に食わないったってそこまで言うか、そしてやるか」
「こりゃ酔っぱらいの戯言やし…って流そうにも流せへんなぁ、さすがに」
「いや酔っぱらいどころかこいつザル、いやタガだぞ」
「それに今までの経験上、この面と話し方ならそれこそ酔いなんざ全く回ってないな」
「じゃあ今の発言は、ほぼほぼ完全な素面状態からって事ですか…」
「っつーか絞めるはともかく、山伏とはいえこいつ本当に呪いなんかできるのかよ」
彼らが恐怖心半分の興味津々といった雰囲気で話している中、彼は先刻の眼差しも元の穏やかなものに戻った普段通りの表情で若菜と互いに日本酒を注ぎ合い口にしつつ、まるで世間話をするかの様に淡々とした口調で語り始めた。
「我ら山伏道場を含む廃仏毀釈の時に『構いなし』とされて神道や密教系の宗派に吸収されなかった本山修験の山伏は、今も神仏習合のままだからな。一般に知られている仏教とは違い檀家を持たないし、死者の供養にも余り関わる事はなく、むしろ神道と同様、様々な祈祷や加持を行う事が本業と言っていい位だ。それに俺は山伏道場の次期総師の務めとして他の者達の手本となるべく、道場に伝わる修験道の行や経典祈祷諸々は全て身に着けた。結果その中に呪術や呪殺の方法も含まれていたから、技術としてできるかと聞かれればできる事は確かだ」
「そういえば呪いはともかく私の実家の近所に修験道のお寺があって、義経さんの道場とも縁がありましたっけ。確かにあそこも全然お墓がないし、今そこのご住職になってるお兄ちゃんは、そういうお仕事だと白神さんの宮司様と同じ様に地鎮祭とか屋敷稲荷さんの勧請とか、それ含めたご町内にある仏教関係のお社で毎年のご祈祷とかに呼ばれてご町内回ってますね。そういう事だったんだ」
義経の言葉に、葉月が納得した口調で彼の話が正しい事を補強する相槌を打ち、それを受けて彼は更に話を続ける。
「とはいえ実際の所呪詛や呪殺の方法は、我らとしては他からそういったものを受けた者達への守りや解呪、掛けた人間への調伏や弾き返しを間違いなく行うために本質が何か知る必要があるから覚えるだけだ。その知識や技術を使って呪詛を行う側になるのは、本来の責務を全うする掟から外れるという事も含め禁忌であるし、実際に行えばどう正しく行おうが自らにも決して避けられん災いが応報として降りかかる。我らはそうした面を顧みず生半可な技術や知識のみで名を出してそうした事を行い市中で利を漁る祈祷師や霊能者と言う輩ではないのだから、余程の理由や事情がない限りはそこまでする事はないがな」
そこまで言うと義経は何事もなかったかの様に若菜に頼んで手渡してもらった口直しの水を飲み干し店員を呼ぶと、別の銘柄の日本酒をまた彼女の分も含めて注文した。話を聞いていた面々は彼の話の内容と話す口調や態度のギャップに興味すら吹っ飛んだ純粋なる恐怖を覚え、それぞれ気付けの如く自分の飲み物を口にし恐怖混じりのボソボソとした口調でそれぞれ話し始める。
「つまり…今までの話を総合するとだ。こいつは自分の身がヤバくなるからやらないし、やっちゃいけないもんだって分かった上でそれでも、彼女が何かしら嫌な目に遭ったら被害に遭わせた相手を呪うかどうか位は一旦ナチュラルに考えるって事かよ…」
「『沈着冷静な爽やか好青年』って事で女子人気かっさらってる奴が、同じ爽やかな表情と口ぶりでとんでもねー事言いやがる」
「『大切な存在を守るためなら自分への被害は厭わない』…って言えば聞こえはいいが、今までのやり取りから内容を考えりゃ、その『大切な存在』に対する『余程の事』の基準は相当やばい方向にずれてるぞ?こいつ」
「これで本当に酔ってないとしたら、こんな優しくて可愛い彼女ができたせいで色ボケして、どっかおかしくなってんじゃないの」
「いや、呪いがどうのこうのまで言ってるのが初耳なだけで、よく考えたら彼女がいてもいなくても言動は入団からここまで普段とそれ程変わっていないな」
「ああ確かに。怒ってる時も見た目物静かなだけで、結構分かりやすく怒ってたもんな」
「今までは表面上そこまで目立たなかっただけで、元々こう言う奴だった可能性が大…って事ね」
既に彼らの存在など気にも留めない甘い表情で若菜と話しながら互いに料理や酒を分けて口にしている義経と、彼の発言は冗談だと思っているのか全く気にならない様子で二人を楽し気に見詰め、互いにからかいあっている女性達を見ながら、スターズとドッグスのチームメイト一同は『今までずっと見ていたはずなのに見えていなかったチームメイトの性格』をこの一連で痛感し、恐怖心から青ざめた表情で無言のままそれぞれ食べ物や飲み物を口にした。
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