ありがとうございました!これからも生暖かく見守って下さいませ☆
ささやかなお礼を込めてSSを出しました。こちらは肉2です。





 関東某所の山中。この地にかつてあった隠れ里の再建に訪れたザ・ニンジャは、彼も知らぬ内に先んじてここで里の仲間達の菩提を弔いながら暮らしていたらしい、彼の妹である千早に促されそこにあった山小屋に入ると、長旅の疲れを癒せる様用意してもらった湯で足を洗い、季節柄火は入れていない囲炉裏の前に用意された円座に座る。その間に彼女は普段は作業にも使っているのだろう土間の竈に火を入れ、鍋に残っていた青菜入りの粥を温め直すと、茶と共に彼に振舞った。
「申し訳ありません。今すぐ出せる物がこれ位しかないので…とはいえ不休の長旅で空腹でしょうし、お腹への多少の足しにはなりましょう。どうぞ召し上がって下さい」
「いやそれは構わんし、むしろ有難いが。…これは元々お前の食事だろう。オレが食ってしまったらお前の食事はどうする」
 彼女の事を気遣った彼の言葉に、彼女はにっこり微笑んで言葉を返す。
「ここは見ての通りあくまでも作業場ですから。普段暮らしている場所は下の町ですので、そちらに帰ればわたくしはいくらでも食べられます。お気になさらず」
「そうか、ならば遠慮なく頂くとしよう」
 そうして彼が粥を平らげた後は互いに茶を淹れ合いながら、彼は彼女がここに留まっている理由とそこに至るまでの経緯を尋ね、彼女もその問いに答えていく。
「…つまり、お前は出奔した訳ではなくお頭から暇乞いの許しを得た上で、大手を振って甲賀の里を降りた…と言う訳か」
「はい。許しを頂く上で口外してはならぬ事などの条件を詰める必要がありましたので、お頭殿と多少の話し合いは必要でしたが、何しろ次期里長となるはずの御曹司自らによる『前代未聞の不祥事』が露呈した直後でしたから。本家一族の威信は兄上の事なぞ関係なく地に墜ちてしまった上、それこそ本家の危惧通りだったならば、これを好機と取って代わりに攻めて来るはずの兄上が里に戻るどころか当時は行方が全く知れず、追手すら捜索を諦めた程。その全てで、お頭殿自身が最初からわたくしを兄上に対する人質として本家へ縛り付ける必要も道理もなかった事を理解なさいました。ですからこの通り暇乞いの許しが出ただけでなく、皆の菩提を弔いつつわたくしが自分で生きていける様にと、この小屋を含めた最低限必要な支度はして頂けたのです」
「結果として『あの件』は、オレやお前を含めた全てにとって直接にせよ間接にせよ、『怪我』の部分が大きすぎたとはいえ怪我の功名となったのだな。…我ら含めた皆それぞれが、一番守りたかったものを失った事でその本質に気付けたとは、揃いも揃って…皮肉な事よ」
「そうですね。お頭殿もいくら忍びの長としては多少器量や実力に欠ける面が目立つとも、それを超え立派な長となれる様、厳しさの中に愛情を込めて育て上げたはずの愛息子が、まさかその親心を理解すらできず、他者の実力や求心力に対する劣等感に狂った末『あの様な愚行』を自ら進んで働いてしまう様な愚か者として成長を遂げていた…とは思っていらっしゃらなかった様です。しかし同時にあの様な取り返すにも取り返せぬ不祥事と、その結果防いでいたつもりで逆に自ら引き起こしてしまった内紛により、それこそ崩壊寸前まで陥った里の立て直しを元凶のご子息と共に必死に行いながら、ずっとご子息が期待される重責に対する自らの器量との落差からくる劣等感やそこから生まれた苦しみからも、結果里に渦巻いた不穏な空気を必死に取り払おうとしていた兄上の本心からも目をそらしていた事に気づき、心から…悔いておられましたよ」
「…そうか」
「…はい」
 そこで二人の間に気まずい沈黙が訪れる。そうしてしばらくそれぞれ無言で茶を啜った後、彼はゆっくりと小屋の中を見渡しながら改めて口火を切る。
「…それにしても、今の話とここにある道具で察するに、お前が今主な生業にしているのは、薬や香を調合する知識や技術ではなく…同じく得手としている染めや織りの技術か」
「はい。ここで染めを施し織った布で作った服や小物を、下の町にあるお店の一角をお借りして売り、その品を見て染めに興味を持たれた方が幾人もいらしたので、その方達向けに簡単な草木染と染めた布を使った小物作りの教室を開いております。薬の知識を使うのは今では染めの技術への応用が主ですが、一般の方にお渡しできる香や薬草茶は今も作って売っておりますし、お頭殿との約定もあるので里からの依頼があれば毒消しや熱さまし等の治療薬、虫よけや身に纏う香も調合しております。但し今はもう任務に使う類の香や薬の調合やその指導に関しては、乞われてもお頭殿に依頼があった事とその内容を全てお伝えした上で、『市井の者』として一切お断りしております。…里でくのいちとして働く才として見出され仕込んで頂いた貴重な知識と技術ではございますが、同時にくのいちとして働かぬのであれば、ああした品は自ら好んで作りたい様な物ではありませんし」
「確かにな。…とはいえ、作るものの内容はどうあれ、あちらの里では『毒の妖女』と呼ばれた程に高いお前の薬や香に関する才や技術がある意味持て余されている様で、多少勿体無い気もするがな。…まあ、その高い知識や技術を持て余せる程に穏やかな暮らしをしているという証左でもある事を思えば、良い事ではあるのか」
「はい。薬や香の調合自体はとても好きですが、本当の所、里でその二つ名を呼ばれその通りに働く事は…正直嬉しいものではありませんでした。ですから、もう兄上位しかその二つ名で呼ぶ事も、そう呼ばれていた頃のわたくしの事を知る者も側にいない今の暮らしは理由が理由故、ある意味寂しく、哀しくもありますが…それ以上に幸せでございます」
「そうか。それに今はもう、里にいた頃の様に姿を変えておらぬな。里の者全てを欺かねばならぬ故仕方なかったのだろうが、長じてからはオレにすら本来の姿は一切見せなんだし、その姿とは余りに見違えた故、先程再会した時は一瞬とはいえお前だと分からなんだ。…今こうして間近で良く見れば、面立ちにあるお前の母御の面影も含め、確かにお前だと分かるがな」
「里にいなければ姿を変えている理由も必要もありませぬ故。でも…兄上はやはり気づいておられたのですね」
「当然だ。お前の師カスミ直伝の人心を操る術と併せ見事な変装であったが、本来ならば変装の違和感を消すためにあえて残すべき本来の影形すら、お前は一切消し去っていたのだからな。オレの様に術を使ったならまだしも、普通の変装なのだから忍び同士であれば余程の間抜けでもない限り、元の容貌を全て消した事で逆に滲み出てしまう違和感に気付く。長く共にいる存在ならば猶更だ。…まあ、こう言っては悪いがお前が一番欺きたかったのであろう相手が正にその『余程の間抜け』であった故あえてそうしていたのだろうし、思惑通り功を奏していたのか」
「そういう事です。あの姿だけでわたくしに対する興味を一切失った事もあるでしょうが、兄上やお頭殿はともかく、『あちら』はわたくしの変装にも、その変装と合わせてこちらを疎んじる様、カスミ姉様と共に術で里の男達の心を操っていた事にも全く気づきませんでした。おかげ様で兄上も知っての通り、元々里の者ではなかったわたくしの行く末を案じた義父上のご遺志によってわたくしが里で何の負い目もなく暮らせる様に、と早々に決められた本家の御曹司との縁談も形だけとなり、兄上を従わせるための道具として使われる時以外は捨て置かれましたし。とはいえあえてのあの姿でしたから、それに伴う諸々の雑言や害のない程度の狼藉も多少ありましたが、それはこちらも身の回りを飛び回る羽虫程度にいなしておりました」
 本人は微笑みながら淡々とした口調で語っているが、里にいた頃の彼女が自らの見えていたものどころではない苦労と苦難の内にあった事が、彼には痛い程に伝わって来る。そしてその苦労や苦難の『元凶』も痛い程に分かっていたので、その気持ちを乗せた沈痛な表情に変わると、その表情のままの口調で言葉を絞り出した。
「…オレ自身が余りに若く未熟であったとはいえ、仲間達だけではなくお前にも…永くいらぬ苦労をかけてしまったな。…幼いお前を残して逝かねばならなかったお前の母御が願い、加えてその願いを引き継いだオレの父からも託されていた、お前の行く末の幸への導きの約定も果たせず結局…オレはお前に幸せどころか、いらぬ苦労しか与えられなんだ」
 彼の沈痛な表情と言葉に彼女は静かな微笑みのまま頭を振ると、彼の湯飲みに茶を淹れながら言葉を返していく。
「いいえ、兄上。わたくしは『いらぬ苦労』などはしておりません。確かに多くの苦労はありましたが、それはわたくし自身が望んでいた幸せを得るために全て必要なものでした。…そうしてわたくしは望む幸せを確実に得ていき、長い間胸の内にあった一番の望みも今こうして…叶いました。ですから先程から申している通り、わたくしは今…この上なく幸せなのです」
「千早…」
 彼女の言葉とその微笑みで、彼は彼女の心の内と自らに向けられた感情を理解する。そして彼は暫く逡巡した後、これまでになく真剣な眼差しと口調で改めて口火を切る。
「…千早よ」
「はい」
「ここを去ってからのオレの行状は、お前も知っての通りだ。そして、そうした行状から紆余曲折を経て、新たなる心構えと大志を得たからこそ、もう一度この地で新しき全てを始めたいと思い、戻って来た。本当はオレ一人で全てを実現する心積もりであったが…もしも今のお前の心の内の望みにオレの大志と重なるところが多少なりともあるのならば、どんな形でも良い。…オレが願うこの先の大志を実現するためにその力を、オレのすぐ側で…貸してもらえないだろうか」
 彼の言葉に彼女も真剣な眼差しに変わると、その『問い』にはっきりと答えた。
「わたくしの望みは、兄上の幸を叶える力となるために共にある事。そのためにこれまでの生き方を経た上で、こうしてこの地を守っておりました。ですから…わたくしこそ兄上にお願い申し上げます。わたくしが兄上の大志を実現するための力となれるのならば、今こそ兄上の側に…置いて下さいませ」
 二人は互いの本心を確かめんとする様に互いの視線を合わせ、その視線で互いの本心をきちんと受け止める。そして二人は互いから求めて手を取り合い、改めて言葉を発した。
「…頼むぞ」
「…よろしくお願い致します」
 そうしてその後の二人は互いの心を確かめ合う様にその日の時間を全て使い、『これからの大志』とその実現のために語りあった。





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