ありがとうございました!これかも生暖かく見守って下さいませ☆
ささやかなお礼を込めてSSを出しました。こちらはドカ1です。




 
「すいません。こんな時に何ですが、ちょっとお願いしたい事があるんですけど」
 6月初旬の松山の居酒屋。デーゲームを終えた後の食事の席で、大分食事も酒も進んだ四国アイアンドッグスのチームメイトに、その日はたっての願いで彼らと同席していた不知火の許嫁であり、彼女の職場を含めた周囲の気遣い(策略ともいう)により、東京からこちらの病院に出向になり彼と半同棲生活を送っている作業療法士の大久保麻理子が口を開いた。ドッグスの面々は彼女がその場の成り行き上や自分達が彼女を呼ばない限り自分からチームのこうした席に着こうとする性格ではない事を良く分かっているため、今回は何か理由があっての参加だとは許嫁である不知火含め察していた事もあり、軽く冗談を含めながら彼女に言葉をかけていく。
「ああ、構わんが。…改まってどうしたんだ?大久保さん」
「わたくし達でお力になれる事でしたら何でも致しますわよ、真理子さん」
「もしかして入籍と式の日取りをこれがやっと決めてくれて、披露宴の余興のお願いとかか?」
「いや、逆に待たせ過ぎたこいつと別れたいから立会人になってくれって話かもしれないっちゃ」
「よっしゃ!そういう事なら立ち合いしたるで!」
「あの、そういう話ではないんですけど…」
「お前ら、酔っ払っているとはいえ好き勝手言い過ぎだ!」
 面々のからかう言葉に、真理子は話の切り出し方を間違ったかもという風情で恥ずかしさと困惑が混じった表情を見せ、不知火は自分も多少酔っていて普段より彼らの悪ノリに対する沸点が低くなっていたため、声を荒げる。その様子を見ていた小次郎が改めて本題が進む様に、全員の軌道修正をする形で面々に声をかけた。
「こら、お前らがいつものノリになったせいで、大久保さんが話を切り出せなくなってるぞ。とりあえず全員黙れ。…それで大久保さんの『お願いしたい事』ってのは一体何だ?話し方からしてプライベートな事じゃなさそうだが」
「はい。実は私の仕事の事で、皆さんの知恵をお借りしたい事があるんです」
「俺達の知恵?」
「はい」
 小次郎のフォローで体制を改めて整えられた真理子は『貸してほしい知恵』の内容を話し、その内容に不知火も含めた面々は興味深く反応を返していく。
「ああ、この間俺に相談した事か。確かに考える人数は俺一人だけより多い方がいいな」
「でも『入浴介助でスタッフが着る物のアイディアはないか』って、そういうのは俺達よりも『本業』が君の周りには友人含めて一杯いるじゃないか」
「何で俺らみたいな全くの門外漢に知恵借りたいってなったんだよ」
「まあ、頼ってくれるのは嬉しくもあるけどな」
「実は今回知恵をお借りしたいのは機械浴じゃない一般のお風呂で、リハビリとかで出入りに手を引いたりして途中まで一緒に入らないといけない場合の話なんです。ある程度身長があるスタッフならそれ程問題はないんですが、私と同じ位かそれより低い身長のスタッフだと腰まで浸からないと介助できなくて、介助したスタッフのせいで脱衣所の床がずぶ濡れになって結果滑って転倒するリスクも増える位なら、いっそ機械浴込みでユニフォーム自体を変えた方がいいんじゃないかって話になって、今病院のスタッフ全員で候補を出している最中なんです」
「ああ、そういう事か」
「そういや真理子ちゃんって身長いくつだったっけ」
「前確か152か3って言ってたっちゃ」
「せやったな。不知火との身長差がえろうあるわ」
「真理子さん、小柄で可愛らしいですものね。バレエなら眠りのカナリヤの精や赤ずきんやフロリナ王女、ドン・キのキトリやパキータでも曲が使われるキューピッドが似合いそうですわ」
「確かに不知火さんと並んで立ち話すると、視線どころか顔が動きますもんね俺ら」
「まあその身長差とこいつのでかさがマドンナの言う君の可愛さをまた引き立てるんだけどさ」
「えっと…」
「…お前ら、一言余計だ」
「他意はないだろうからほっとけ不知火。…まあ確かにその身長と同じか低くてそういう仕事だと濡れそうだな。病院の風呂だと家とは違って、銭湯や温泉の大浴場みたいに下に降りていく様な風呂だろうし」
「はい、そうなんです。実際私も体験して欲しいって頼まれて同じ形になる様に入ってみたら、ズボンどころかTシャツの裾まで濡れて嫌だなって事は良く分かったので、着る物の変更をするなら折角だしもっといい物を考えたくて。でもやっぱり同業種の人の意見だけだと考え方が狭くなるかな、なら全く別の業種の人のアイディアを聞いたら別の視点から見たいい考えが出るかもって思ったんです。それに皆さんは別の業種とは言ってもプロスポーツの選手ですし、形は違っても同じく『動く仕事』だしそうした同じ方向で視点が変わるかな、とも思ったんで」
「確かに」
「そういう事なら俺達でも知恵が貸せるか」
 彼女の『頼み事』に、ドッグスの面々はほろ酔いの頭かつ不知火をからかいながらではあるが、本題は真面目に受け取ってそれぞれの知恵を出していく。
「外しちゃいけないのは、『水濡れに強いか水はけが良くて濡れても気にならない』って所ですね」
「後この手の仕事着なんだから『身体を最大限動かせる』って所も外せないな」
「ならいっそ水着なんかどうだ?」
「いや、さすがにそこまでするのは着替えるのが大変だし、やり過ぎじゃないか?」
「それに水着はどの用途の物でも身体にぴったりしていますわ。お仕事とはいえ身体の線が出る格好は、皆さん嫌がりません?」
「ドッグスに入る前にやってた事は身体の線がバリバリに出る格好がデフォルトだったお前がそれ言うか、マドンナ」
「バレエのレオタードや衣装の事でしたら、あれが『当然の姿』ですので今回とはまた違いますわよ」
「でも水着ってのはそのままじゃなくても、結構アイディアとしてはいい線行ってると思うぜ」
「水着ならほら、あの何だっけ、水着の上着みたいなのがあったじゃん。あれを足して上に着るとか」
「ラッシュガードですね。それも考えてみたんですけど、重ね着する時間がないのと、着やすいファスナー付きの物は何かの拍子に患者さんの肌を傷つけるリスクがあるって事で却下されて」
「ああ、その辺も考えないといけないのか」
「考えていくと結構奥が深いんだな、こっちの分野も」
「…せや!」
「どうした三吉急に」
 一同でああでもないこうでもないと飲み食いと共に額を突き合わせながらそれぞれの提案を出していると、不意に三吉が名案を思い付いたという風情で声を上げたので一同は彼の方を向き、問いかける。その様子に三吉は自信たっぷりの笑みと口調で思いついた『妙案』を口にした。
「要するに濡れなければええんやろ?だったら釣りや魚河岸でおっちゃんが着とるゴムのつなぎ普段の服の上に着ればええやんか。あれなら揃いでも安く簡単に手に入るやろうし、足から身体から全部ゴムで隠れて濡れずに済むし、それなりに動きやすいで?それで足りないなら長靴も履けば完璧やんか!ほら解決し…って、何皆でわての頭はたくねん!」
 三吉の言葉に不知火、知三郎、影丸がツッコミを入れるがごとく無言のままそれぞれ三吉の後頭部を平手やメニュー表で叩いて黙らせ、三吉は叩かれた頭をさすりながら不満げに声を上げる。その様子に土門が静かに窘める形で三吉に言葉をかけた。
「…三吉、お前のそういう現実的かつ、がめついに近いとはいえ節約も考える思考はいい所でもあるが、少しはデリカシーも身に着けた方がいいぞ」
「デリカシー?どういう意味やねん。実際完璧な案やないか、なあ真理ちゃん」
 土門の言葉に反論する様に真理子へ判断を振った三吉に対し、真理子は困った様な笑みと言い辛そうな口調で彼に言葉を返した。
「あの、確かに坂田さんのアイディアは名案ではあるんですが。…その、候補で挙げたとしても現場の意見は多分、全会一致で採用は…無理…かな、と」
 真理子の三吉を気遣った遠回しかつやんわりとしてはいるが、結果としては完全却下の返答とその口調や表情で、他の面々も『不採用の理由』が察せられて一様に頭を抱えた。
「あ~…」
「そういう事か…」
「場所と相手が場所と相手だけに、ある意味思いっきり『ヤバい』もんなぁ…」
「考えたら、確かにその方向性はなしですね…」
「なしというか、完全に『やっちゃいけない』方向っすよ…」
「だから何でやねん」
 ゴムのつなぎに長靴姿の職員がそれぞれの状態を鑑みた介助用具を用意し、患者の手を引き風呂と言う名の水場に連れていく姿が思い起こさせる『状況』はあまりにも『縁起でもない絵面』である。それに気づいてしまった実用性しか考えていない三吉以外のチームメイトは沈黙し、気まずさからそれぞれ自分の飲み物や取った料理を口にした。

 結局気まずい沈黙が続いてしばらく後、中が水着という部分を引き継いだ形の『サーフパンツに最近流行している吸水速乾性のTシャツはどうか』というアイディアを出し、後日の会議で同じ様な結論に辿り着いた職員が真理子の他にもいたためその方向性が採用され、それに加えて小次郎が彼の恋人に事の次第を話してその人脈を提供する形で、彼女から紹介された服飾メーカーにより事情に沿った服地とデザインのユニフォームを商品化のための試作という形にして割安な価格で彼女の職場のために作成し、使用した結果その品が職場で好評を得たため無事その後一般向けに商品化へと繋がり、多方面に利を与える結果に導いたのは余談である。





管理人に何か一言☆(無記名・拍手だけでも舞い踊ります)
お名前
メッセージ
あと1000文字。お名前は未記入可。