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お礼の御沢パラレルssです。(※某漫画パロ、年齢逆転です)
男子・女子ともにモブキャラが登場します。






Game

6.Sadness








このまま呆けてても仕方ない。
朝のざわつく昇降口へ、たくさんの生徒たちに紛れて歩いた。
視線が突き刺さる。「なんで理事長と御幸くんの車に?」「あの男の子だれ?」そんな囁き付きで。
ああ、平穏なおれの高校生活はいま終わりを告げたんだ。
また、御幸くんに近づくなとか言われんのかな。でもさ、好きで兄弟になったわけじゃねえし。あれ? そもそも兄弟になったって言っていいわけ!? やべえ確認しねえと!

「おはよう、栄純くん」
「朝から百面相キモチワルイ」
「ああ…おはよう、春っち。うるせー降谷」

顔に出過ぎる自分に呆れつつも、二人のおかげで何とか我にかえった。でも、アレおれあんな大事なこと、この二人にちゃんと話したっけ? なんて考えてたら質問がぶつけられた。

「栄純くん、どうして御幸くんと一緒の車に乗ってたのか聞いていい?」

その時手が滑って、下駄箱から取り出した上履きがビタンと音を立てて床に落ちた。それはまるで、聞かれたくないことを聞かれた、みたいな演出になってしまい少し気まずい。
数秒三人で俺の上履きを眺めてたけど慌てて履き替えて、教室までの道すがら今までのいきさつをかいつまんで話した。
案の定、母さんの再婚相手が理事長で御幸一也と兄弟になった、そこで二人が息を飲んだ。
うん、強烈だよね。劇的な環境の変化も、そしてあの『御幸一也』が義弟になったことも。
そして二人とも『パシらせてた相手が偶然兄弟になった』というよりは『すでに知っていてちょっかいをかけていた』と言う考えに同意してくれた。

「でもそれ、公表していいの?」
「それ聞くの忘れたんだけど……でもおれもう苗字は御幸なんだよね」
「み、御幸栄純くん……」
「これから御幸って呼ぼうか」
「ヤメロ。学校ではそのまま沢村を名乗ってもいいし、御幸にしてもいいって言われた。学校の書類関係は御幸でも、呼ばれるのは沢村がいいよなあ……」
「うん、バレたら面倒だよね……」

そんなふうに、朝から暗い雰囲気で廊下を歩いていると後ろから騒がしい集団がやってきた。
朝からうるせえなと振り返ろうとしたら、後ろから肩を抱えるように誰かが抱きついてきて、思わずつんのめりそうになる。

「なに……っ」
「えーじゅんセンパイ、おはよー」

肩越しに見えた顔と、このアタマの悪そうな喋り方でわかった。御幸一也のクラスメイトの奴らで、いつも一緒にいる数人だ。おれに巻きついてるのは一番チャラチャラしてるヤツ。

「……おはよう」
「アレ? なんか不機嫌? 」
「べつに」
「なんでー? パパとおとーとと車で登校して楽チンだったんでしょー」
「え」
「いま聞いたー!オニイチャンになったんだって? よろしくねオニイチャン!」

おまえのオニイチャンじゃねえよ。いやそこじゃない、御幸一也はもうみんなにバラしてんの? え、どれだけの人が知っちゃったの。
呆然と廊下で立ち止まっていると、うしろから顔を覗き込まれた。

「どーしたの、オニイチャン?」
「おまえのオニイチャンじゃねえよ」

そう、おれはおまえのオニイチャンじゃない。まさに今のおれの気持ちを代弁してくれた声に心の中で同意するも、その声の持ち主に思い至りげんなりした。
さっき車を降りて別れたばかりの義弟だ。
チャラい後輩を張り付かせまたまま降り向くと、シニカルな笑みの御幸一也が立っている。

「あ、おはよー御幸」
「おう。それ、おれのオニイチャンだから。離れろよ」
「なんだよ御幸ー、おれだってえーじゅんセンパイみたいなオニイチャン欲しい」

嘘をつけ、おまえが欲しいのはパシリだろ、なんて思っていると御幸一也がおれに巻きついてるヤツの腕を払いのけた。
オニイチャンとられたくないんでしょー、なんて気持ち悪いこと言うヤツの尻を御幸一也が軽く蹴っている。
おれここにいなきゃダメかな、教室行きてえな、なんて思いつつも御幸一也に聞いておくべきことを思い出した。

「なあ、おれたちが義兄弟になったって言っていいの」
「あー、別に隠すことでもねえし。てかもうみんな知ってんじゃね」
「は!? なんで!?」

特に興味もなさそうに御幸一也が答えると、そばにいたヤツらが頷いている。

「おれ昨日リカに電話して教えてあげたし」

チャラい後輩がヘラヘラしながら言うのに、リカが誰かは知らないがおれも御幸一也を真似て尻を蹴ってやりたくなった。

「順平はリカと話したいだけだろ」
「へへ」

別の後輩が尻を蹴りながら突っ込んでも嬉しそうに笑っている。そうか、コイツは順平って名前でリカが好きなのかとぼんやり眺めながらも、立ち去るタイミングをはかっていた。
所在無さげに立っている春っちと降谷にも申し訳ない。

「あ、リカ! おはよう!」

それなのに順平とやらがまた一層ヘラヘラしながら嬉しそうに声を張り上げた。
噂のリカの登場に、もうおれは遅刻さえしなければいいと諦めの気持ちだ。

「おはよう、一也」
「ああ」

すげえ。かなり可愛い子が近づいてきたと思ったら、何人もいる男子が目に入らないみたいに御幸一也にだけ挨拶した。
ニッコリ笑ってても気が強そうで、なんとなくの相関図が見て取れたのもげんなりだ。
ふと、そのリカと目があった。上から下までおれを眺めてから、またニッコリと笑った。

「一也の義理のお兄さんでしょ? よろしくね」
「はあ、よろしく」

値踏みされてるような視線は気のせいじゃないだろう。どうせ御幸一也信者だ。そしておれ先輩なのに誰も敬語使いやしねえ。いいけどね。
今週末、引越しが済んでも一人で登校しようと決めた。




待ち遠しいことはなかなかやってこないのに、反対に憂鬱なことはあっと言う間に訪れるのだと、ついに越してきた御幸邸の自分の部屋を片付けていたときにつくづくと感じた。
荷物は大した量はないし、部屋に用意されているものの方が多いくらいだから、すぐに終わったけど。
でも、母さんのとても楽しそうな弾んだ声を聞いていると、この幸せはなにがあっても守らなければとは思っている。

「栄純くん、十日くらい経ったけど、どう?」
「あー、なんか今のところ平和に過ごしてる」
「仲良し兄弟だ」
「仲良しじゃねえよ」

そう、特に何もなく、嘘みたいに平和だ。基本的に御幸一也と顔を合わすのは朝と夜の食事時だけで、たまに嫌味を言われるくらいでむしろいい感じだ。
前よりも仕事を減らし、広いキッチンで料理をする母さんも楽しそうで、おれも何度か手伝っている。
御幸一也は学校でおれをたまに呼び出すけど、一緒に母さん手製の弁当を食うためだったりして、降谷の言うように仲良し兄弟に見られてもおかしくない状態だ。
でもそろそろ、御幸一也信者がなにか言ってくるんじゃないかと警戒してる。はたから見ると、御幸一也を独り占めしてる、とか笑いそうなことを言われそうだし。



まあでも、いくら警戒してたって起こるものは起こるんだ、とこれはあとで思ったことだけど。
放課後、たまたま先生の用事で遅くなった日、昇降口に向かうために人影まばらな廊下を歩いていると声をかけられた。

「えーじゅん先輩」
「あれ? えーと、順平?」
「うん、覚えてくれてありがと」
「なにか用?」
「御幸が呼んでるんだよね」
「え? まだいんの」
「そう、一緒に来てもらえる?」

すっかり覚えた順平について、なんの用だろ、なんて呟きながら廊下を進む。いつものチャラさは影をひそめてて、放課後だから疲れてんのかな、なんて呑気に考えていた。
廊下の奥、準備室みたいな所に促されて、こんなとこに御幸一也がいるのかと思いながら入るも、電気もついてない。引き戸をわざわざ閉じている順平を振り向いて聞いてみた。

「なあ、誰もいなくね?」
「うん、ゴメンね。えーじゅん先輩」
「は? うわ……っ!」

一瞬、なにが起こったのかわからなかったけど、したたかに打ち付けた背中の痛みで床に引き倒されたのだとかろうじて理解した。
カーテンが引かれている上に窓の外はもう薄暗くて、わずかに入る廊下の灯りで相手はやはり順平だとわかる。
ゴメンね、と再び謝るその眉毛がへにゃりと垂れていて、なぜお前がそんなに悲しそうなのかと聞こうとした。
それを遮るように、おれに謝ったその唇が降りてきて首筋に舌を這わされた途端、ぞわりと全身に鳥肌が立つ。
意味もわからないまま性的なものを感じて、のし掛かる順平の肩を思い切り押した。

「おい! なにしてんだよ! やめろ!!」

叫んで抵抗しても、もう順平はなにも喋らずに、シャツの下に手を入れて平らな胸をまさぐっている。もう、パニックだった。こんなことは初めてだし、おれ男だぞ、とかも叫んだ気がする。
揉み合う内に、おれの膝が順平の腹に入ったらしく一瞬動きが止まった。逃げるチャンス、と思ったところで叩きつけるような音とともに引き戸が開かれ、電気が点けられたのか突然の明るさに目がくらんだ。

「……なに、やってんだ……順平」
「…………」

ものすごく覚えのある声に、何度か瞬きしながら目を開けると、やはりそこには御幸一也が立っている。順平は俯いたままなにも言わない。
急におれの上から重みがなくなり、御幸一也が順平の胸ぐらを掴んで持ち上げているのが見えた。

「…………リカか?」
「…………」

ガツ、と鈍い音がして順平が吹っ飛び、派手な音を立てて隅に重ねられていた椅子に突っ込んだ。
リカ、とはあの御幸一也信者っぽい可愛い女の子。確か、順平の好きな子で。
沈黙は肯定なら、リカは御幸一也といつも一緒にいるおれを懲らしめようと、自分のことを好きな順平を利用したのか。
ひでえな。全員に対してひでえよ。

「…………ごめん、御幸。えーじゅん先輩……」
「…………」
「リカ、怒んないでやって……」

小さく呟く順平を置いたまま、御幸一也に手を引っ張って起こされ、そのまま教室を出るよう促される。振り向いて見ても、順平は顔を上げないまま蹲っていた。
おれは今頃になって手が震えてきて、掴まれたままのそこから御幸一也にもきっと伝わっているんだろう。情けなかったけれど、今は振りほどけなくてむしろそのままでいて欲しいと思ってしまう。
無言で歩いていると、最後に見た薄暗い教室の中で蹲っている順平の姿が頭に浮かび、ケガはしていないか、ちゃんと帰れたのかが気になりはじめた。でも今はとてもその名は口には出せない。
学校を出るときに、御幸一也が初めておれに悪かったと謝ったことからも、ショックを受けているのはおれだけじゃないとわかるからだ。

かなり歩いてから、御幸一也にどうして居場所がわかったのか聞いてみると、帰るときに順平がおれを探しているとクラスのヤツに言われ、おかしいと思ったらしい。まあ確かに、個人的な接点はないのにと思うだろう。
そのあとは無言のまま、家に着いても母さんに挨拶をしたら部屋に行ってしまった。食事もとらないつもりなんだろうか。
家に着いたのが六時頃、今は九時過ぎていておれたちは先にご飯もすませてしまった。

「一也くん、ご飯食べないなんて……具合でも悪いのかしら」
「あー、どうだろ……」
「栄純、様子見てきてあげてよ」
「……うん、行ってくる」

母さんに言われたのもあるけど、見たことない御幸一也の様子に、動揺してる自分がいた。ああいうのは、困る。いつものような不遜な態度でいてくれた方がまだいい。
階段を上り、ライブラリスペースを横目に真ん中の御幸の部屋のドアをノックする。軽い感じで、三回。返事がないのは想定内だ。
ゆっくりとドアを開けると、御幸一也はベッドを背にして床に座っていた。
立てた膝の上に腕を組んで、まるで傷ついた子どもみたいに。部屋の灯りすらいつもより薄暗く感じる。

「ひでえ顔だな」

思ったことがスルリと口からこぼれてしまった。チラリと目線だけで俺の足元を見て、また目を伏せる。夕方の出来事から今までで、なんとなくわかってきた。御幸一也は順平に怒っているわけでも、リカを責めているわけでもなく、むしろ。

「なあ、ぜんぶ自分のせいだって思ってんだろ」
「…………」

御幸一也がゆっくりと俺を見た。やはりひどい顔だ。すべてを自分で背負いこんで、ゆるされることが罪だとでも思ってるような。

「リカがあんなこと頼んだのも、順平が引き受けたのも、結果おれが危ない目にあいそうになったのも」
「…………」
「ぜんぶ自分が悪いって思ってんだろ」
「…………実際、そうだろ」
「ちげえよ、それぞれが悪いんだ。そんでそれぞれ、自分のせいだよ」
「…………」
「おまえ、思った以上に友達が大事なんだな」

それを言うと、御幸一也は膝の上の拳をぎゅ、と握った。なんだか、ひどく頼りなくて頭をくしゃりと撫でてみる。
こいつはきっと、順平もリカも大事な友達で、その二人をあんなことするまで追いつめたのは自分だと思ってるんだろう。

「……あんな目にあっといて、お人好しかよ」
「そりゃあ、ゆるすかゆるさないかで言ったら、順平まじゆるさねえとか思うけど、まあ……」
「こええな、あんた」
「は? なにが」
「……あっさりとぶち破って、入り込んでくる」

いまいち理解は出来なかったけれど、今はまだ離れない方がいい気がする。
少し小さく見える御幸一也を初めて、ああ、こいつはおれの弟なんだな、なんて思ってしまい、もう一度頭を撫でた。




to be continued



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