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ならやまみや

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【お礼SS】零雨【赤安】 

 雨で目覚める朝は、酷く頭が痛む。
 今いる日本では、向こうの気候と比べ物にならないほどに、こんな日はじっとりと纏わり付くような温い空気に支配されている。
 いっそ土砂降りであれば諦めもつくが、小雨独特のじっとりとした空気は、肺にも湿気を吸い込むようで、秀一は苦手だった。一服をしようにもマッチの火がつかなかった時は、思わず口汚いスラングが飛び出しそうになるほどだ。
 それでも、いつからか、悪くないと感じるようになった。

「ん…」

 短い声が隣から漏れ聞こえた。同じくベッドの上。窓の外を眺めていた秀一は、そちらへ視線を落とした。
 こんな湿気をまとった空気にも関わらず、寝息を立てる彼の色素の薄い髪は、指先で触れると柔らかな弾力を感じる。さらりとこぼれるような髪が、秀一は好きだった。

「……零」

 思わず名を呼んでしまう。ここまで至るまでに、時間はかかった。
 日本の雨が、この頭痛を誘う小雨が悪くないと思うようになったのは、彼がいるからだ。

(僕の名前、綺麗でしょう。──大事な人がつけてくれたんです、「静かな祈りの雨」だって)

 本当に、綺麗な名前だ。
 何度も何度も、言葉に出して彼に告げた。大切に、呼んだ。しかし、そのたびに、未だ彼は頬を染めて恥じらう。時には「もういい」と拗ねてしまう。その仕草さえも愛しい。
 だからこそ、この痛みまで愛せるようになった。

「もう少し、おやすみ」

 まだ目覚めるには早い。自分ももう一度眠ろうと、まだ夢の中の恋人を起こさぬように、静かに布団に潜り込む。そして眼を閉じて、軽く額にキスを落としてから、秀一は睡魔が再び訪れるのを待ったのだった。

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