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ならやまみや

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【お礼SS】驟雨【赤安】 

 激しく窓を打つ音で、零は目覚めた。ゆっくりと瞼を開けると、目に入ったのは隣に眠る人の肩だった。

「雨、か」

 道理で体が重いはずだ。昨晩のせいだけではない。
 あ、と零は顔を手で覆った。不意に昨夜の記憶が甦ったからだ。お互い三十路で落ち着く年齢だと言うのに、零だけはまだ慣れないでいる。
 ただ、眼が覚めた時、彼が隣にいる朝は少しだけ慣れてきた気がする。

(零、君の名前は素敵だ。名前だけじゃない。君はとても──綺麗だ)

 まさかあんな甘い言葉を吐く男だとは。いや、気障なところがあるとは思っていたが、あんなにストレートに気持ちを伝えて来られると、こちらとしては同じ分だけを返すのは難しい。
 あれだけ憎悪して、それがそのまま裏返すような想いになったことに自分でも戸惑った。

「……秀一さん」

 起こすつもりはない。雨の音にすらかき消されるだろう、小さな声で呼んだ。
 第一、まだその名前では呼ぶことができない。彼はとっくに、名で呼んでくれているにも関わらずに、だ。小さな一歩すら二の足を踏む自分を、追いつけないほどに愛してくれる。目覚めても独りではないのが、こんなにも安心を覚えるものかと教えてくれた。
 いつか、彼が与えてくれた分だけの安らぎを返せる日がくるだろうか。

「今日は……少し寝坊しましょうか」

 通り雨かもしれない。だが、暫くは止むまい。せっかくの休みだが、雨の日はどこかへ出かけるのも億劫になる。
 だが、それも良いものだと思えるのは、隣で眠る恋人のおかげかもしれない。
 こんな日も、自分達にとっては貴重なのだから。
 零は細く規則正しい寝息を立てる恋人の唇に、そっと己のを軽く重ねてから、再び瞼を閉じたのだった。


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