「じゃあよ、ベクター」
 再び名を呼ばれ、ベクターは面倒臭そうな声で返事をした。
「死神御用達のパイロットがいるっつーんだけど、そいつは」
 ぎょっとした表情で振り向いたベクターは慌てて手を振り、ベルトウェイの言葉をさえぎった。
「やめろそいつの話はするな」
「なんで」
「地獄耳なんだ。話題になった途端どこからともなく現れるから――って、クソ」
 開けっ放しになっている入口を見た瞬間、ベクターはがっくりと頭を落とし、両手の中に顔を埋めた。
「いよう、オレがどうしたって?」
 聞き覚えのない声に、ベルトウェイは声のした方向、ロッカールームの戸口に顔を向ける。赤い作業着姿の男が一人、そこに立っていた。USS隊員の多くがそうであるように感情の見えない冷たい瞳をしていて、しかし陽気な笑みをまとっている。
「どちらさんで?」
「今オレのこと話してたろ」
「……《死神御用達のパイロット》?」
 直前まで話していたことを思い返し、ベルトウェイはそう見当を付けた。ベクターの様子からしてハンクでないのは間違いない。そういえばヘリの格納庫内で見たことがあるような気がする。
「そうそれ。オレのことだろ」
「ああ。あんたが」
「うるさいお前の話なんかしてない、とっとと消えろ」
 再びベクターはベルトウェイの声をさえぎり、唸るように言った。その目にはあからさまな敵意が見える。しかし当のパイロットは慣れているのか、涼しい顔で受け流す。
「なんだベクター、オレがハンクと仲が良いからって妬いてんのか」
「や、妬いてなんか……ッ」
 珍しく言葉を詰まらせ、普段の冷静な仮面をかなぐり捨てたベクターを見て、ベルトウェイとスペクターは顔を見合わせた。視線を交わし、同じことを考えているのを確認しあう。妬いている。これは絶対妬いている。
 そうこうするうちにベクターは立ち上がってパイロットを追い払ってしまった。苛立った表情のベクターが腰を落ち着けるまで待ち、ベルトウェイが問う。
「で、やっこさんなんて名前なんだ?」
「……《ローンウルフ》。やたらと派手好きなくされパイロットだ」
 部屋の外から陽気な声が響いてきた。
「ベクター、聞こえてるぞ」
「聞こえるように言ってるんだクソパイロット」
 死神の弟子が吠え返す。それに対する返答はおどけた笑い声だった。

 群れから外れたところに、《オオカミ》がもう一頭。
 《死神御用達》とは興味深い。任務から戻ったら調べてみよう、とスペクターは頭の中にメモをした。



13.08.03.
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