ジルが《帰ってきた》翌日。
 彼女がどうしても行きたい、といった場所に二人はやってきた。行く先を聞いたとき、カルロスはただ頷いただけだった。彼女が留守にしていた間に去ってしまった友人や知人たちに、会いに行くのだろう。そう考えたのだ。
 そこはここ十年以内に整備されたまだ新しい墓地だった。埋葬されているのは主にBSAAの隊員だ。それゆえまだ古びない墓石が等間隔に並んでいる。ジルはその間をゆっくりと進み、カルロスはその数歩後を同じ速さでついて行く。やがてある墓石の前で彼女の足が止まった。
 最近誰かが訪れていたようで、まだかろうじて色を留めている花束が手向けられていた。跪き、その墓碑に触れる。彼女が墓碑をみるその表情は死者を悼むといったものとはおおよそかけ離れたもので、面白がるような好奇心に満ちている。不謹慎だ、と咎められても仕方のないものだ。
 碑に刻まれた名は、ジル・バレンタイン。墓碑を見下ろすその人のものだった。

「自分の墓碑を見るなんて、おかしなものね」

 こんなもの、まだそのままにしてあったのか。カルロスの胸にBSAAに対する不満がまた湧いてくる。それが表情に出ていたのだろう、振り向き彼を見上げたジルが言った。
「私がそのままにしておいてって頼んだの」
「……趣味悪いぞ」
「おんなじこと言われた」
 楽しそうに彼女は笑う。カルロスは「誰に?」と聞こうと思ったがやめた。おおかた相棒だったあの男だろう。あの男――クリス・レッドフィールド――に対するわだかまりが全て消えたわけではない。それでも、感謝のひとつくらいはしても良いかと思い始めている。過去がどうであれ、待つことしかできなかった自分と違い、クリスは行動し、ジルを見つけて連れ帰ってくれたのだから。彼と……彼女を愛する者全員のところに。
「花を」
 促され、カルロスは持っていた花束をジルに渡す。彼女はそっとそれを《自分の墓》に手向けた。
「どうして……」
 影のある、しかし儚く美しい笑顔でジルはカルロスが飲み込んだ言葉を引き取った。
「このままにしておくのか、花まで手向けるのか? そうね……『もう一人の私とその犠牲になった人たちのため』かな」
 それは多分、彼女の胸の中心にある傷跡に関係したことに違いない。カルロスはそう見当を付けた。これまで彼女がどこにいたのか、なにが起きていたのか、そしてその傷がどのようにして付いたのか、まだ彼は知らない。本人にも、彼女を連れ帰ってくれた人たちにも聞けていないから、今は想像するしかない。
 カルロスは彼女の隣に跪き、そっとたずねた。
「いつか、話してくれる?」
「ええ、もう少し気持ちが整理できたら話してあげる」



13.08.03.
- Carlos & Jill -


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